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【完結】精霊なので愛されても困ります  作者: 龍 たまみ
第一章 転生と出会い
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6 庭園

 私がベルガモット公爵家のドールハウスで生活を始めて一か月が経った頃。


 生まれてきたばかりの頃は「公爵家」というのがいまいちよくわかっていなかったけれど、アルタイルの祖父は前国王の王弟だったと家系図を持ってきて丁寧に説明してくれた。だからアルタイルの父親であるランバートは現国王陛下の従兄弟になるため、王位継承権もあるという話だった。


 このレクナ王国は緑豊かな、水源にも恵まれた国らしい。


 すごい高位貴族の家庭に招かれてしまったものだと、最初の頃はあたふたもしてしまったけれど、初対面で接してくれた時のように家の外と中と顔を使い分けているようで、ランバートもアルタイルも私と一緒にいる時は、いつも気さくに話しかけてくれるから、前世の記憶で時々家族のことを思い出すことはあっても、寂しい想いを感じることは全くない。


 それくらい二人は私に愛情をたっぷりと与えてくれている。それが嬉しくて甘やかされているようで、くすぐったかった。



「ねぇ、クレア。今日はお庭で一緒に遊ばない?」

「お外に出てもいいの? 嬉しい!!」

(こちらの世界に来て、初めて外に出られるのね! どんな世界なのかしら?)


 私は、この世界のことがよくわかっていなかったから、ベルガモット公爵家の屋外に出たことがまだない。

 身体が小さくなってしまった今の私には、公爵邸の城のような邸宅だけでも十分広すぎてアルタイルのポケットや肩に座らせてもらって移動していたくらい。

 それに羽の動かし方がまだよくわからなくて、飛ぶことができない。ひょこひょこと動かすことはできるのだけれど、飛翔して自由に飛び回れるようになるには、まだ時間がかかりそうだ。


 精霊は生まれた瞬間から、自由に飛び回ることができると言い伝えられているけれど、私は前世の感覚が残っているせいなのか羽の付け根にどうやって力を入れたらいいのか、いまいちコツが掴めずにいる。


 そんな私の焦りを感じ取ったランバートとアルタイルも、無理に飛べるようにならなくてもいいんだよと励ましてくれる。だから、恥ずかしながら、まだアルタイルの傍に一緒にくっついていないと長距離の移動は大変なのだった。


「おいで、クレア」


 アルタイルは、当たり前のように私に手を差し伸べて手のひらに座らせてくれる。

 私が座ったのを確認してから、アルタイルは外の庭園に向かって歩き出す。


「わぁ~。お花がいっぱい!! それに風もとっても気持ちがいいのね!!」

「そうでしょ? こんなに素敵な景色をクレアと共有できるなんて、ぼくって幸せ者だよねー」


 アルタイルは、庭園の一角で侍女が敷いてくれているチェックの敷物のところまで辿り着くと、ゆっくり腰を下ろした。


「ちょっと待ってね」


 アルタイルは、左手の平に私を乗せたままの状態で後ろを振り返り、傍にある白いお花を一つ摘んでくれる。


「はい。どうぞ。ぼくのお姫様」

「うふふふ。どうもありがとうございます」


 私の顔と同じ大きさの花をアルタイルは、私に差し出してくれた。

 鼻で深呼吸をすると花から甘い香りを感じる。


「とってもいい香りがするのね」

「本当だね。ぼくね、クレアに花冠を作ってあげたいと思ったんだけど、このお花はちょっと大きすぎるね」


 人間の子供が冠を被るなら、花をいくつか編んでいったら可愛い冠になるのだろう。

 でも、今の私には少し花が大きすぎる。


「そうね。もっともっと小さいお花なら作れるかもしれないけれど、この大きさのお花なら、私のお洋服ができるかもしれないわね!」

「確かに! 花びらで作ったら素敵なドレスができそうだね!! じゃあ、今日はお花を摘んで帰って、クレアのドレスが作れるか挑戦してみるよ!」

「ありがとう。楽しみにしているわね」


 アルタイルは、何種類かお花を摘んでくるから待っていてねと、私を敷物の上に置いたまま、花が咲き乱れている場所に消えていってしまった。


「ふぁ~。とっても気持ちのいい場所ね。草の生い茂っている緑の香りもとっても癒されるわ」


 私は敷物の上で大の字になりながら、澄み切った空を見上げる。鳥が自由に羽ばたく様を見て、少し羨ましくなる。


(私も飛べるようになれば、あの高さまで行けるのかしら)


鳥が羽ばたくのを観察しながらアルタイルの帰りを待っているうちにウトウトとし始めてしまった。

気温もポカポカしているから、眠気が押し寄せてきて瞼が重たく感じる。



 どれくらいウトウトしていたのだろう。

 敷物から少し離れた場所に、公爵家で雇われている侍女がお茶とお菓子の準備を始めているのが目に入った。


 遠くから私の名前を呼ぶ声が聞こえてくる。


「クレア~!!」


 アルタイルが赤や黄色の花を右手に持って、収穫を祝うようにその手を大きく振りながらこちらに向かって歩いて戻ってくる。

(うふふふ。いっぱいお花を摘んでくれたのね)

 ドレスを作ろうとしてくれる優しい彼の気持ちに触れて、心がほんわかした時だった。


 シュンッ


 一瞬のことで、訳がわからない。

 身体が宙に浮かび上がる感覚と腹部が何かに挟まれて圧迫されているのか苦しさが襲ってくる。


「う゛っ」


 私は痛さで顔を歪ませながらも、何が起きているのかと首を後方に回してみると……大きな黒い目が目の前にあり、(くちばし)でどうやら私の身体を咥えているのだと理解することができた。


(鳥?!)


 どうやら、私がミミズや虫のように見えたらしい。

(このまま食べられてしまうってこともあるの?!)


 生まれ変わって一か月。この世界では精霊って食べる事ができるのかもしれないと恐怖が襲ってきた。

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