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58 残された時間 【side アルタイル】

 オレは夜遅くまでかかってしまった書類仕事を終えて帰宅するため、王城の一画にある騎士団の執務室から退室しようと扉を開けて廊下に出ようとした時だった。


 血相を変えて走ってきたのは、ヴィクトル王太子殿下だ。尊い立場の人間が廊下を走ることなど、まず考えられない。訓練でもない限り。


「アルタイル大変だ! このまま国王陛下に会いに行くぞ!!」


 緊迫したヴィクトル王太子殿下から、緊急事態だと理解し、剣を間違いなく帯剣しているか柄に手を添えて確認すると、オレはヴィクトル王太子殿下の後ろに続いて走って国王陛下の元に向かう。


 ヴィクトル王太子殿下とオレは無言で急いで国王陛下のもとへ走る。

 二度手間にならないようにヴィクトル王太子殿下は何も話さないつもりなのだと理解した。


 日付も変わる時間だというのに、国王陛下は眠い素振りを見せることもなく、玉座に座ってオレたちがやってくるのを待っていたようだ。


「国王陛下、アルタイルに説明する時間をいただけますか」


 ヴィクトル王太子殿下は国王陛下の前でオレに何が起きているのか説明してくれる。


 先日、話していたウィンザルト国のサーマン公爵夫人から連絡が入り、人間化させられたクレアが処分される兆候があると知らせが来たらしい。行き先が谷であれば突き落とされて、人間化した精霊を処分するのが通例となっているとのことだった。もちろん、クレアを救出するタイミングを見計らっているとも書かれていると聞いて、離れたウィンザルト国にも味方がいることが心強かった。


 オレは、焦りと怒りを感じながらも国王陛下がどのような判断をするのか、指示を待つ。


「アルタイルは軍を一部引き連れて、今すぐウィンザルト国のサーマン公爵領に向かいクレアの救出をせよ。ヴィクトル王太子殿下は戦争の準備を、我との約束を違えたのだから攻め入って構わない。ウィンザルト国の王都を占拠し、敵の首を打ち取れ」


「「かしこまりました」」


 オレは一つの懸念事項を思い出し、クレアを無事救出できたらウィンザルト国王城に向かうことをヴィクトル王太子殿下に伝えた。


 オレは執務室にもう一度戻るとウィンザルト国の地図を手に取る。

 それから、クレアがいなくなってもお守りとして持ち歩いているドールハウスにも使用していた紫色の八角形の魔石を胸ポケットに入っているかを確認をして、すぐにウィンザルト国のサーマン公爵領に向けて百人の部隊だけ引き連れて、急ぎ向かった。


 ■■■


 オレは準備のできた部隊を引き連れて北上していき、険しい峠を越える。馬で行けばサーマン公爵家まで一日半くらいだとヴィクトル王太子殿下が以前話していた。


 オレは馬で駆けながら、馬が疲れて遅れを取り出した騎士たちには、サーマン公爵家で合流するように指示を出し、一人で先に駆けて行く。部隊が大きいと、相手に気づかれクレアを隠されたり奔走されたりすることも考えられる。そうすると最悪、救出できなくなる。だから、部隊には「適度に休憩を挟みながら王都での戦いに備えて、無理せずとも良い」とだけ伝えて、オレだけ先に昼夜問わず走り続けた。


 休憩も睡眠もとらずに走ると、次の日の夕方にはサーマン公爵領に入ることができた。


 サーマン公爵家に置いてきたとキアナ王女殿下が言っていた護衛騎士が三人、オレを出迎えに国境まで来ていてくれる。その中にモルトの姿もある。


「出迎えご苦労。それで、状況は?」

「クレア様を乗せた荷馬車はまだ谷に到着しておりません。しかし、いつもとなぜか道を変えて寄り道をしていたようで、森の中で見失ってしまいました」


 もうじき日が暮れる。暗闇の中、移動されると居場所が見つけにくい。


「どうしたものか……」

「いったん、サーマン公爵家に向かいますか?」


 オレは目を閉じてしばらく考えてから、判断を間違えないように慎重に答える。

 クレアの命がかかっているのだ。


 オレはウィンザルト国のサーマン公爵領の地図を懐から取り出し、最終目撃場所をモルトに示してもらう。


 最終目撃場所から休憩を挟まずに谷まで向かったとしたら、今夜には谷に到着できてしまう。


「一人はサーマン公爵家に向かい、レクナ王国からの部隊が百名ほど到着するから、迎えいれてほしいと伝えてくれ。残り二人は、谷の場所まで案内を頼む」


「「「はっ」」」


 モルトとケイと名乗る騎士はオレを谷を見渡せる場所まで案内をしてくれることになる。

 光源を持つと、クレアを乗せた荷馬車の御者が何かを察知するかもしれないから、こちらは何も持たず、暗くなりつつある鬱蒼(うっそう)とした森を抜けて、谷に向けて馬で駆けていく。


 ほどなくして、谷に到着する。

 思っていたよりも谷が大きい。見渡す限り谷なのだが、谷に続く道は小道を含めるとかなり数がある。


(どの道を通ってくるつもりなんだ!!)


 オレは逸る気持ちに「冷静になれ!」と自分で言い聞かせながら、星が綺麗に見え始めた夜空を見てクレアの顔を思い出す。


 きっと、助けを求めているはずだ。まだ間に合う。救出に失敗するということはクレアの命を失うということを意味している。


 オレは自分の心を奮い起こして、今一度、何か手がかりがないかと暗闇の中、地図を取り出した。

 頼りない月明りを頼りに地図を見つめて、御者が選びそうな道をひたすら考えて続ける。

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