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55 失敗

 燃えているかのように熱かった身体の熱がスーと冷えていく。

 人間化が終わったようだ。


 目を閉じていた私は、ゆっくりと目を開けてみる。

 右隣には私の一つ前に精霊から人間化させられた女性が立って、不安そうにこちらを見ている。

 左を向けば、まだ人間になっていない精霊の姿がとても小さく見える。


(あぁ、身体が大きくなってしまったのね……)


 しかも、無理やり薬を飲まされて、口から溢れた液体でアルタイルとのお揃いだったドレスを汚してしまった。大切に着て過ごしていたけれど、洗っても色は落ちないかもしれないと思い、ずっと想い出とともに大切にしてきた衣装を守りきれなかったと後悔し、再び情けなさで涙が出てくる。


 ザイン王子殿下は、人間化した私の顔を見ると顎を掴んで満足そうな顔をする。


「なかなかの美人だし泣き顔もそそるな。いい仕上がりだ」


 ザイン王子殿下に気に入られてしまったことで、この後、何を言い渡されるのか想像がつく。

 夜に部屋に来いなどと命令するのだろう。

 それから、ザイン王子殿下にその場でくるりと全身に問題がないか確認するために一周まわれと命令されて、もう何もする気力もなく、言われるがまま後ろを向いた時。


「おい!! こら!! 何で失敗してんだよ!!」


 ザイン王子殿下が急に激昂する。私は後ろが見えないので、何に憤慨しているのか理解できない。


「お前が薬をこぼしたからだろう! 中途半端に人間になりやがって!!」


 私は、自分の肩越しに視界に入るものがチラッと見えて、目を見開いた。

(羽だわ……身体と共に大きくなったけれど……人間に羽が生えているようなもので、気味が悪いのかしら)


 私は、まだアルタイルが褒めてくれた羽を失っていなかったことを少しだけ嬉しくも思い、ただ人間にもなれていない自分が何者かわからなくなる。


「まぁ、いい。お前の羽は綺麗だからな。高く売れるかもしれないな」


 私の背中を見て、何かを思いついたザイン王子殿下は私の両羽をグッと掴むと、持っていた短剣でスパッと付け根から切り落とす。


 一瞬、何が行われたのかわからなかった。

 数秒遅れてズキズキと背中に強い痛みを感じ始める。


 後ろを振り向くとザイン王子殿下は、先ほどまで私の背中にあったはずの二枚の羽を左手に持って、それを眺めている。


 私は、人間化もうまくいかず、残っていた精霊の羽も無残に切り落とされてしまった。

 もう何者にもなれない中途半端な生物なのだろう。


「あ~あ、ほら~羽の生えていた場所の背中の切り口が汚いな~。傷があると全く価値がないんだからな! いくら顔が良くても興が削がれるんだよな。お前はもういらないから処分ね」


 先ほどまで、いい仕上がりだと言っていたザイン王子殿下は心変わりをしたようだ。


(処分……捨てられるということね……)


 私は処分されるのだから、中途半端に人間化してしまった姿をアルタイルに見せずに済むのだと、少し安心する。もう精霊でなくなってしまったのだから、彼の想い出の中だけで綺麗な精霊の私を覚えていてくれたらそれでいいような気がした。


(慰み者として扱われるよりも、良かったじゃない。これで良かったのよ、クレア)


 私は自分に何度もこの結果で良かったのだと言い聞かせて、思考の止まっている脳と心を納得させる。


(せめて……最期に成長したアルタイルを一目見たかったわ……)


 私は、レクナ王国にいるアルタイルの姿を思い出しながら、自分の身に起きることを静かに受け入れることにした。

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