54 変化
カール第一王子殿下の結婚式が終わってから数か月が過ぎ、街のお祝いムードも落ち着き始めてきたころ。
結婚式で展示するためにガラス瓶の中に入れられて、その後も放置されていた精霊たちは、再びどこかに移動することになった。
ザイン第二王子殿下が自らガラス瓶の前にやってきたことで、再び行き先を分類し出すのではないかと嫌な予感がしてくる。
そして、私の予感は現実となった。
無造作にガラス瓶の蓋を開け、瓶を逆さまにして次々に精霊を出していくザイン王子殿下が、独り言をつぶやいている。
「兄上も結婚したし、次は俺の番だろう? その前にもう少し、愛妾候補か愛玩候補を増やしておこうかな」
不快な内容が聞こえてきて、背中にゾワリと寒気が走る。
ザイン王子殿下はガラス瓶から精霊を取り出すと、以前、分類した時のように精霊たちを一列に並ばせる。
今回は結婚式で精霊を見せびらかすという目的もあり、元気がなかったりすでに息を引き取った精霊たちは結婚式前に処分されていたようなので、生きている精霊たちばかりだ。
慣れた手つきで男っぽい顔つきの精霊と女っぽい顔つきの精霊にわけている。
(今回も人間化させるつもりなのね……)
その次に、並ばせた精霊の中から適当に摘まみ上げると精霊王に受け渡す精霊を箱の中に投げ入れていく。
「精霊王に渡す精霊は、これくらいあれば大丈夫だろう。今回は前回よりも多めにしておいたし、喜ぶはずだ」
「次は絵画用だな」
私は心の中で、もう一度絵画になって貼り付いておきたいと願う。
(どうか……お願い!!)
しかしながら、私は絵画行きには選ばれなかった。新しく絵を掛けかえるようで、今回は絵に合わせて黄色の髪や肌、金髪の髪を持つ精霊が多く選出されたように思える。
(……選ばれなかったわ……)
私は、希望が叶わず気落ちすると共に、心臓の鼓動が自分でも聴こえるくらいうるさく鳴るのを感じ取る。
(人間化してザイン王子殿下の慰み者になるのだけは、死んだって嫌!)
もし選ばれてしまったら……どうしたらいいのだろうか。
人間になったとして逃げ出す機会はあるのだろうか。
そんなことばかり考えてしまう。
残った精霊たちは順番に人間化になる薬を飲まされていく。
一人……また一人……。
「あれ? きれいな顔していると思ったけれど、男になったのか……」
どうやら綺麗な顔をしていた精霊は女性になるだろうと予想していたようだ。精霊を見て、ザイン王子殿下は落胆している。どうやら、精霊は人間化で男性になったらしい。
「仕方がない。俺の好みじゃないな。男色家の貴族も多いから、あいつらに売りつけるか」
中性的な顔立ちをしているというだけで、他の使い道に簡単に回されてしまう。
(どうしましょう……私の番が回ってきてしまうわ……)
私は逃走できないかとザイン王子殿下が他の精霊に注目している隙を狙おうとしてみるけれど、自分だけ逃げだすのも周りの精霊に悪いような気がして足がすくむ。
アルタイルは、精霊の私を大好きだと言ってくれていた。
人間化してしまったら、気持ちに変化が起こってしまうのではないか。
もしくは、愛玩道具扱いを受けた私には……もう目すら合わせてもらえないのではないだろうか。
私は、アルタイルが素敵だと褒めて、好きだと言っていた自分の羽を失うことに失望感を感じ始める。
(綺麗だと言ってくれていた羽を失いたくない……)
そう考えている間に私の番が回ってきてしまった。
「ほら、これを全部飲み干せ」
小さな器に入った緑色の液体を手に持たされる。
飲みたくない一心で、震える手で持ち続けていると、なかなか飲まない私に業を煮やしたザイン王子殿下が私の両頬を親指と人差し指で摘まみ、無理やり口をこじ開ける。
(嫌だ……助けて、アルタイル……)
涙をボロボロ流す私の感情などお構いなしに、ザイン王子殿下は手に力を加える。
「ほら、モタモタしないで飲め」
ザイン王子殿下は、私が手で持ったままだった液体の入った器を奪い、そのまま無理やり私の口の中に流し込み始めた。
勢いよく流し入れたせいか全ての液体が口の中に入ったわけではなく、口から溢れてしまう。アルタイルとのお揃いのドレスも不格好に溢れた液体の色が染み込んでいくけれど、苦しさのあまりそれどころではなかった。
私の心情などお構いなしに、私の口と鼻を指で塞いだザイン王子殿下は私が嚥下するのを確認するまで、指を離してくれない。
(う゛っ)
独特の味と香りが鼻を突き、思わず吐きそうになる。苦しさのあまり、私はその液体を飲み込んでしまった。
次の瞬間。
自分の身体がカァーと熱くなって、変化が起きているのだと自覚する。
(あぁ、私、アルタイルの大好きだった精霊ではいられなくなるのね……)
私は絶望感で打ちひしがれながら、人間化への移行が終わるのを大粒の涙を流しながら待った。




