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52 店主 【side アルタイル】

 次の休日。


 オレはベルガモット公爵家の自室で、ウィンザルト国に関する地形を記した本を読んでいた。


「あのぅ……失礼いたします」


 部屋の扉を開け放ったまま、読書をしていたので侍女のマーサはひょっこりと廊下から顔を出す。


「何か?」

「実は、ローラ奥様がよく購入されておりましたドールハウスの家具のお店の方が来られたのですが、お引き取りいただきましょうか? 今、ランバート様は外出中ですのでどうしたものかと思いまして……」


 オレは、しばらく逡巡する。

 母は、オレを産んだ後は床に伏していたいることが多かった。恐らく、お店の店主に家まで商品を持ってきてもらっていたのだろう。


(う~ん。クレアが帰ってきた時に新しい家具に驚いてもらえるように、今、何か商品を持ってきているのなら買ってみようか)


 オレは、クレアの喜ぶ顔を想像したら自然と顔がほころんでしまう。


「応接室へ通してくれ」

「かしこまりました」


 マーサはスッと顔を引っ込めるとドールハウスの家具を取り扱っている店主の案内に向かった。彼女も久しぶりに店主に会ったのか、母が生きていたころのことを思い出したのか、ウキウキしているように見える。


「さてと……家具とやらを見せてもらおうか……」


 オレは読みかけの本に栞をはさむと、早速応接室に向かう。


「お待たせいたしました」


 オレは応接室に入るとフードを被った女性の姿が目に映る。あまり表情は見えないけれど、不審者には見えない。


「お久しぶりでございます。お母様のローラ様には大変お世話になりました。アルタイル様も大きくご立派になられましたね」


 床に伏せている母を知っているのであれば、幼子だったオレのことも見かけたことがあったのだろう。


「えぇ、母の遺してくれたドールハウスがとても気に入っておりまして、何か良い品があれば購入してみようかなと思いました」


 オレは挨拶をすると、店主にソファに座って商品を見せて欲しいとお願いする。

 少し大きめのトランクケースをローテーブルに置くと、店主は手際よく中身を取り出す。


「以前、購入された家具と合わせるのでしたら、こちらの色も合いますし、模様替えでソファなどの色を変えてみられてもお楽しみいただけると思います」


 オレはふと、違和感を感じる。

 (この女性……幼い時以外にも会ったことはないだろうか……)


 ちょっとした疑問を感じながらも、クレアが喜びそうな家具が目の前に並べられて、オレもいつの間にか楽しくなってくる。


(クレアの寝室にロッキングチェアを置いてみようか。ユラユラ揺れている彼女はさぞかし可愛いだろうな……それに、この置時計も喜ぶかもしれない。暖炉の上に飾っておこうか)


 オレは悩みながらも今回は二点の品物を選び、それを包んでもらう。

 ドールハウスの部屋に運び入れておき、クレア自身に包装を開けてもらった方が彼女は喜んでくれるような気がしたからだ。


 店主が包装を包みながら、再び会話を始める。


「ここにお住まいになられる方にきっと喜んでいただけると思いますよ」


 オレは少し首をかしげる。この店主とクレアは面識がないはずだ。


 その時。


 フードを被って俯いていた横顔を見て、既視感を覚える。


「!!」


 オレはフラッシュバックした記憶とともに鮮明に目の前にいる人物と出会った日のことを思い出した。


「魔女K!!」

「うふふふ。よく覚えていらっしゃいましたね。お久しぶりです。卵のお買い上げ、どうもありがとうございました」


 オレは、あれから毎年、お祭りの度に「魔女Kのたまご屋さん」が出ていないのか父に確認してもらっていたが、一度も会う事ができなかった。まさか、ドールハウスの店主と魔女Kのたまご屋さんの店主が同一人物とは全く考えていなかったからだ。


「こちらこそ、その節は素晴らしい卵を手に入れることができ、本当に感謝しています」

「あなたにとって大切な存在になったのですね」


 何もかもお見通しのような台詞だ。

 では、今更なぜこのベルガモット公爵家のオレの前に再び姿を現したのだろうと疑問が浮かぶ。


「うふふふ。今回の家具のお代金は必要ありませんわ。その代わり、私の話を一つ聞いていただけますか?」

「それは、あなたにとって何も利益がないように思えますが?」

「そんなことはございませんよ」


 無料で家具をプレゼントしてくれた上に、何かの話を聞くだけでいいとは何かおかしい。


 それでも、クレアという存在と出会うきっかけをくれた魔女Kが、再び姿をオレの前に現したのであれば、その話は聞いておいた方が良いはずだと直感が警鐘を鳴らしている。

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