5 新しい家族
「お待たせ! 待たせて悪かったね。妻の宝石箱の中にも無かったから、探すのに時間がかかってしまったよ」
速足でランバートがアルタイルの部屋に入室してくる。どうやら、わかりにくい場所に保管してあったようだ。ランバートはアルタイルと私の傍までくると両手をゆっくり広げて、手の中に隠していた魔石を見せてくれる。
「「わぁ~」」
私とアルタイルは二人とも感嘆の声を上げる。アルタイルも紫色に光り輝く綺麗な魔石を見て、目をキラキラと輝かせている。
「さぁ、手に取ってごらん」
アルタイルはランバートの手の中から、そっと輝く魔石をつまみあげる。
「ねぇ、クレア。一緒に玄関扉に嵌めてくれる?」
「えぇ、もちろん!」
玄関扉の前に右手の親指と人差し指でアルタイルが持ち上げてくれた魔石を、私はアルタイルの右手の上に飛び乗って両手で一緒に押し込んだ。
その瞬間。
パァーーーーー
ドールハウスが眩いほどの光で満ち溢れると、ドールハウスの玄関横の外灯が柔らかい光を灯す。どうやら、室内のランプにも光が灯ったようで、レースのカーテン越しに中の光が漏れてくる。
ドールハウスの外壁の切妻部分にかかっていた時計の針が自動的にグルグルと回り出し、現在時刻までくるとピタリと針が止まる。
ドールハウスの窓下にかかっていたフラワーボックスの中にいつの間にか小さな花がポンポンと咲き乱れ、飾りで置いてあったドールハウス横の噴水も本物と同じように水が上から下へ流れ出して、心地よい音を奏で始めた。
前世では、物語や空想の世界だと思っていた魔法のような仕組みに私は驚きと喜びを隠せない。
ふと、隣に私と同じ目線で一生懸命ドールハウスを見つめ続けるアルタイルの表情を見て、彼も同じような気持ちなのだと思って、はしゃぎながら声をかけてしまう。
「すごいわね、アルタイル!! 私が思っていた以上に素晴らしいお家だわ!」
「本当だね! ぼくもこんなに素敵なお家に可愛いクレアが住んでくれて、一緒にこれから生活できるなんて本当に幸せだよ!!」
キラキラとした瞳で興奮しているアルタイルが後ろを振り返ったので、私もアルタイルの後ろで見守っていたランバートの顔を見上げてみると、瞳に薄っすらと涙が滲んでいるように見えた。
「あぁ、素敵なドールハウスだな。アルタイルのお母様の夢がいっぱい詰まった家だから、精霊様に気に入ってもらえて……本当に嬉しいよ」
感極まったのかランバートは、横を向いて涙を拭っているようだ。
「お父様! クレアですよ。精霊様のお名前、クレアにしました」
「うふふふ。素敵なお名前をつけていただきました」
「そうか、クレア様か。良い名前だな」
「お父様、どうぞクレアとお呼び下さい」
ランバートに「クレア」と呼んで欲しいとお願いすると、「ちょっと恐れ多いなぁ」と言って渋りながらも、私も「ランバート」とお互い呼び捨てにするなら……ということで、折り合いをつけることができた。
「じゃあ、今日からクレアはぼくの家族だね!」
「クレア。ベルガモット公爵家へようこそ!!」
「アルタイルとランバート、これから宜しくお願いします。私は精霊として生まれて、この世界の事が全くわからないので、これからいろいろ教えて下さいね!」
こうして、転生先の世界で精霊として、しかもベルガモット公爵家の一員として新しい生活が始まったのだった。
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