40 絵画
「さてと……次は人間行きだな」
そう独り言をつぶやいたザイン王子殿下は、何かの液体を持ってくる。
人間行きに決まった精霊は五体だ。
「よし、これを持って飲み干せ。一滴残らずな」
ザイン王子殿下は、精霊用なのか小さい容器に溢れるくらい注がれた液体を飲むように五体の精霊に指示を出す。
不安そうな顔、怪訝そうな顔、泣きそうな顔、無表情、決意した顔。
みんなそれぞれ思う事があったようで、人間行きを言い渡された目の前にいる精霊の緊張が伝わってくる。
全員が同時に飲み干して……何が起こるのか自分たちの手足を眺めている。
(何? 何か身体に違和感が出てきているってこと?)
そう思った瞬間。
ギュインッ! ギュインッ! ギュインッ! ギュインッ! ギュインッ!
私と同じ大きさだった身体が、一瞬で人間と同じサイズに大きくなる。
ザイン王子殿下はニマニマとした顔で、目の前の精霊たちの変化を満足そうに眺めている。
「うん。なかなか上出来じゃね?」
それぞれの精霊にその場で一周するように命令を出し、問題がないか確認する。
背中にあったはずの羽も一瞬に自然と消えてしまっている。
着ていた衣類は、精霊の時に着ていた物が自動的に人間のサイズになったようで、デザインは変わらずサイズだけが大きくなっている。
一人の元精霊が気に入ったのか、上から下までその精霊を舐めまわすように見て値踏みをしてから、ザイン王子殿下は指示を追加した。
「お前は、今晩から俺の部屋に来いよ」
ザイン王子殿下は、人間の大人の女性になった一人の元精霊に声をかける。
今晩、何が行われるのかは……想像したくもなかった。
それ以外の人間になった元精霊たちには、卵を生成する「卵工場」とよばれる場所での仕事が与えられた。
(もともと精霊だった者たちが、次の卵を作る工場に行き、再び精霊を生み出しているのね)
私も元精霊だった者の手で生み出されたのかもしれない。
「さて、最後に絵画行きの二人だな」
私ともう一人の精霊は、髪色に特徴があった。
私はすみれ色、もう一人は薄い橙色をしている。
「お前たちは、王城の玄関ホールを飾る絵画の中に入り込み、一つの作品となって姿を留めておけ」
……どうやら絵画の中に取り込まれるようだということは理解できた。
ザイン王子殿下は私ともう一人の精霊を手の中にまとめて持ち、玄関ホールに掛けられている絵画の上に手を伸ばしてペタッと貼り付けた。
(ん? どういうこと? 磁石みたいにくっついて絵から離れられないわ!!)
「ははは、凄いだろう。これは、俺が開発した絵画だが精霊は磁石のように貼り付けることができるんだ」
私以外のもう一体の精霊も、同じ絵の中にペタンと貼られてしまった。
「よし、ちょっと雰囲気が変わって素晴らしくなったじゃないか」
ザイン王子殿下は、一人で満足げに笑うとその場を立ち去った。
ガラス瓶の次は、どうやらここで何年か過ごすのだろう。
そして、絵が飽きた頃にまた剝がされて、別の場所に移動させるに違いない。
私は、自分の運命を受け止めて、再びアルタイルとの想い出を思い出しながら何年かこの格好で過ごすことになりそうだと覚悟を決めた。
アルタイルとのお揃いの衣装があれば、ずっと耐えられる。
私はまだ、ウィンザルト国でしぶとく生きていけそうだ。




