36 お揃い 【side アルタイル】
ぼくが、体力を取り戻し貴族学院に復帰した頃。
キアナ王女殿下が快気祝いを一緒にしましょうと連絡が入った。
といっても、毒に侵されたヴィクトル王太子殿下、キアナ王女殿下、そしてぼくの三人だけでお菓子とお茶を飲むだけのささやかな会だ。
週末に王城の庭園に来て欲しいとのことだったので、当日、ぼくは貴族服に身を包み、キアナ王女殿下の指示された約束の場所に向かった。
ベルガモット公爵家の馬車から下りると、キアナ王女殿下の護衛騎士が出迎えてくれる。
ぼくと挨拶を交わした一人の護衛騎士が、何かに気が付いたようで、息を飲む音が聞こえる。
「どうかされましたか?」
庭園に向かい、案内されながら回廊を歩いている時に護衛騎士が落ちつかない素振りをするので、思い切って尋ねてみた。
「アルタイル様。大変、失礼致しました。……実はですね、今、アルタイル様がお召しになっている衣装を見て、クレア様がウィンザルト国に入城された時と同じデザインでしたので、動揺してしまいました。……お揃いでお召しになられたら、さぞかし素敵だろうなと……」
「何とおっしゃいましたか!!」
ぼくは、クレアがいなくなってからも寂しさを紛らわすために勉学と体力づくり、剣術、体術、魔法などに打ち込んできた。でも、最後にクレアを見届けた人がこの護衛騎士だったのだわかり、彼に向かって大声を出してしまった。
ぼくは、彼女がどんな衣装を持っていったのか、把握していなかった。というよりも、クローゼットを確認すれば、どの衣装を彼女が持参したのか確認できたはずなのに、それをやっていなかったと今更ながら気が付いた。
「これとお揃いのデザインをクレアは持っていったんですね?」
「はい。間違いございません。ウィンザルト国の王城の手前で最後の休憩をとった時に、襟や袖口に深緑の縁取りのされているドレスに着替えられました」
「教えていただきありがとうございます!!」
ぼくは、これからこの衣装のデザインを何着も作り、出来る限り毎日着ることにしようと心に決める。いつかはわからないけれど、お揃いの衣装にクレアが袖を通す日があれば、離れた地でも通じているかもと思える。それだけで、幸せな気分になれそうだ。
そんなことを想像しながら、キアナ王女殿下の元に案内をされると先に座っていたキアナ王女殿下とヴィクトル王太子殿下が目を丸くしている。
「アルタイル様、ごきげんよう……何だか、すごくご機嫌がよろしくて驚いてしまいましたわ」
「アルタイル、見るからに元気そうだな。まぁ、堅苦しい挨拶は無しにして、なぜ笑顔なのか教えくれ」
ヴィクトル王太子殿下もキアナ王女殿下もぼくが、ニコニコと最高の笑顔でやってきたのが気になって仕方がないようだ。ぼくは、今、ここに到着するまでに聞いた護衛騎士とのやり取りを二人に話すと呆れた顔をしている。
傍に控えていた護衛騎士をキアナ王女殿下が呼び寄せる。
「モルト。あなたが私たちの命の恩人であるクレア様を最後まで付き添って下さったのね。何でもいいからアルタイル様にどんなご様子だったか、教えて差し上げて」
「かしこまりました」
モルトは、ウィンザルト国に向かう道中、馬車の中で五人の護衛騎士と会話を楽しんでくれたことなど、報告してくれる。
「モルト様、事細かにクレアについてお知らせ下さり、感謝致します」
話を聞いて、クレアの旅路が充実した日々だったのだと安心することができたぼくは、護衛騎士のモルトに感謝を述べると、急に彼の表情が強張る。
その様子に気が付いたヴィクトル王太子殿下が、質問を投げかけた。
「モルト、まだアルタイルや私たちに報告していない内容があれば全て話してくれないか」
「……かしこまりました」
モルトは、ウィンザルト国に到着してからのことについて、重い口を開きながらどんな状況だったのか打ち明け始めた。




