34 君を探して 【side アルタイル】
とても身体が重い。
泥の中に沈められているような感覚だ。
息ができずに水中でもがいているような感じがする。
ぼくの愛しい人の笑顔が一瞬、脳裏をかすめて、やっとの思いで瞼を持ち上げた。
目を開けても、まだグルグルと回転しているような感じで目が回って気持ちが悪い。
「先生! 気が付かれたようです!!」
誰かが叫ぶ声が聞こえた。
頭に響くからあまり大きな声を出さないで欲しい。
そこに、ぼくを覗き込む顔が見える。
一番近くに見えたのは、父だ。
なぜだか、涙をボロボロこぼしている。こんなに父が泣いている姿を見るのは、母が亡くなった時以来ではないだろうか。
目を何度かゆっくりとまばたきをして、焦点が定まるのを待つ。
ひょっとしたら、ぼくの大好きなクレアも泣いているのかもしれない。
そう思って、身体は動かないけれど視線だけ左右に動かしてみる。
どうやら、今 クレアはここにいないようだ。
彼女が泣いていないなら良かった。
そう思って、もう一度、瞼を閉じる。
まだ眠たくて、身体も重たいし動けそうにもない。
■■■
それから、何回か目を覚ましたり、また寝てしまったりを繰り返した。
何日くらいそうしていたのかはわからないけれど、やっと身体が起こせそうだし、話す元気が出てきた。
あれほど訓練していたのに、身体を起こすのに時間がかかってしまう。
筋肉まで落ちてしまったのだろうか。
それに気が付いた父がぼくの背中に腕を差しこみ、起き上がらせてくれた。
「お……とう……さま。あ……りが……と」
ぼくはやっとのことで、声を出すことができる。
なんでこんな状態になったのだろう?
記憶があやふやで、はっきりと思い出せない。
ぼくが考え込むような表情をしたせいか、父が何が起こったのか話してくれる。
聞かされた話は、ぼくにとっては情けない内容だった。
ヴィクトル王太子殿下、キアナ王女殿下とぼくの三人は遅効性の毒を盛られて、長いこと昏睡状態だったということがわかった。
王城パーティーで毒を盛られ、長い間眠り続けていたらしい。
ぼくが声を発した日、隣に横たわっていたキアナ王女殿下も意識を取り戻した。
国王陛下や王妃陛下まで医務室にやってきたので、とても騒がしかった。それだけ心配させてしまっていたのだろう。
毒を盛られた三人はみんな解毒に成功したと、城中が大騒ぎになっていた。
キアナ王女殿下が目を覚まされてから、ぼくは父にクレアがいないことについて尋ねてみた。
ベルガモット公爵家のドールハウスで、ぼくの帰りを待っているに違いない。
ぼくは、早く家に戻りたいと訴えたが、王宮医師の許可がなかなか下りず、帰るのはもう少し先になると告げられた。
(何かがおかしい)
ぼくは違和感を感じ始める。
ぼくが目覚めて一番先に涙を流しながら喜んで、抱き着いてきそうなクレアはいっこうに姿を現さない。
業を煮やしたぼくは、父に問い詰めると、返事が返ってこない。
「クレアはどこですか?」
ぼくは、王宮医師にもキアナ王女殿下の護衛騎士にも尋ねたが誰も答えずに、頭だけ下げてどこかに行ってしまう。
(クレアに何かあったんだ!!)
ぼくは、嫌な予感がして王宮医師の許可が出る前に、鉛のように重たい身体を引きずりながら馬車に乗り込むと、父も慌てて後ろからついてきた。
(公爵家に帰れば、いつものように待っていてくれるはず!)
そう信じたくて家に向かうことにした。
馬車がベルガモット公爵家に向かっている時にも、父はなかなか話してくれない。
話してくれないのではなくて、キュッと口を真一文字に硬く結んだ表情から、話すのが辛い状況なのだと気が付いた。
「お父様……クレアは死んだのですか?」
ぼくは、最悪の状況を想像して問い詰めてみると、父は首を横に振る。
どうやら、死んだわけではないのだと思い、少し落ち着きを取り戻した。
「死んではいない。しかし、もうここにはいない」
父は、そう答えると拳にした両手を震わせながら、ぼくが昏睡状態に陥っている間に何があったのか、事細かく説明をしてくれた。
あぁ、クレア。
君に会いたい。




