33 国王陛下からの手紙
馬車で5日間の道程を、毎日、護衛騎士の方が日替わりで馬車に乗り、私の話相手になってくれる。
キアナ王女殿下と一緒にお茶をした時には、顔だけしか知らなかった彼らだったけれど、ウィンザルト国に到着する頃には名前を呼んで、会話を楽しめるくらいになっていた。
五人の護衛騎士の方と会話する時には、毎回、モルトと同様に謝罪から入るので、私が考えていた以上に、自分の責任だと重く受け止めてくれていたことがわかった。
私も、その都度「アルタイルが目覚めたら、将来、騎士団長を目指したいって言っていたから、是非、私の代わりにその勇士を見ておいて欲しいの」と約束を交わす。
「わかりました! 騎士団長になられた時にはしっかりお支えして、頼ってもらえる存在になれるように精進します!」とみんな答えてくれる。
そして、5日目を迎えた。
今日、ウィンザルト国の王城に到着をする予定だ。
最後の休憩場所で、御者と護衛をしてくれた五人に道中の御礼を述べてから、私はアルタイルとお揃いで仕立てた襟と裾、袖口に深緑色の色どりが施されたドレスに着替える。
(アルタイルが無事、目覚めたら彼も対になっている服を着てくれたらいいのに……)
アルタイルとお揃いの衣装を着て過ごした過去を思い出して、今から袖を通す新しい衣装を着て並んだら、どんな感じだったのかと叶うことの無い夢を想像してしまう。
私の着替えが終わると再び、馬車に乗り込み、少し走るとすぐに王城に到着をした。
レクナ王国の紋章が入った馬車が到着したので、面識のあるカール第一王子殿下、ザイン第二王子殿下が迎えに来てくれている。
「クレア様。ようこそ我がウィンザルト国へ。お待ちしておりました」
カール第一王子殿下が穏やかな声で歓迎の言葉を伝えてくれる。
「お出迎え心より感謝申し上げます」
護衛騎士のモルトが礼を述べた後、
「レクナ王国の国王陛下より、こちらを預かっておりますので目を通していただけますでしょうか」
と一通の封書をカール第一王子殿下にお渡しする。
早速、その場で中身を確認したカール王子殿下は、無表情になり、その手紙を横にいたザイン王子殿下にパッと手渡すと、ザイン王子殿下もサッと目を通し、鼻でクククッと苦笑している。
(何が書いてあったのかしら?)
「この文章の内容に従えるかは、申し上げられないが忠告は受け取っておくよ。そもそも、レクナ王国は、解毒薬を必要としているのだろう? 我々に強気に出ない方が身のためなんじゃないのか?」
普段、温厚そうに見えるカール王子殿下が、レクナ王国の会食では見せたことのないような人を見下すような目で、モルトに冷たい視線を送る。
「まぁ、いい。ほら、これが解毒薬だ。持って行くといい。早く帰国しないと、危険な状態なんだろう?」
カール王子殿下は、解毒薬を粗雑に扱いながら三本の小瓶をモルトに向かって投げつける。
「!!」
私は悲鳴をあげそうになる。もし、割れてしまったら、救える命が救えなくなってしまう。
モルトは器用に空中に浮かぶ三つの小瓶を受け止めると、それを胸ポケットにしまいこみ、感謝の礼を執った。
「確かに頂戴致しました。ありがとうございます」
「ははは。じゃあ、解毒薬の対価としての精霊様はいただくよ」
カール王子殿下がそう合図すると、横にいたザイン王子殿下の口元が弧の描いて薄気味悪く笑う。
モルトと他の護衛騎士、御者の人が、私に「どうかお元気で」と言葉を告げて、モルトが恭しく私を手のひらに乗せた時だった。
「痛っ!!」
突然、髪を掴まれて持ち上げられる。
遠くから見れば、何か小動物を親指と人差し指で摘まみ上げているように見えているに違いない。
髪を掴まれた宙ぶらりんの状態で、今度はゴトンッとどこかに放り投げられたかと思うと、上から蓋をする音が聞こえた。
「お止め下さい! 我が国の精霊様ですので丁重にお願いしますと国王陛下の手紙にも書かれていたはずです!!」
モルトが怒りを露わにして、ザイン王子殿下の行動を窘める。
「ハッ。解毒薬を受け取った時点で、この精霊はもうウィンザルト国の所有なのだろう? 口を挟むなど失礼ではないか。そもそも誰に向かって物を言っている?? 命が惜しくはないのか? ほら、きちんと珍玩しているではないか」
「クレア様を大切にしていただけなければ、我が国の国王も黙っておりませんよ」
「ははは、これくらいの事で目くじらを立てるなんてな。さぁ、早く帰った方がいいんじゃないのか? 早くしないと誰かの尊い命の灯火が消えてしまうぞ?」
カール王子殿下も鼻でモルトの行動を嘲り笑いながら、ザイン王子殿下が手にしていたガラス瓶を受け取り、その中に閉じ込められた私を見ながら、上下にブンブンと振る。
「ははは、見目の良い精霊が手に入ったのだ。今夜の酒は美味そうだな」
「はい、兄上」
ガラス瓶に閉じ込められた私は、モルトたちに「気にしなくていいから、早く行って! ありがとう!」と早口で伝える。彼らは読唇術を学んでいるはずなので、言葉を読み取ってくれたのだろう。
必要な解毒薬は二本でいいのに、国王陛下が三本依頼したのは、飲んで使ってしまった解毒薬をきちんとベルガモット公爵家に返却する為なのだと気がついた。亡き妻の遺品であり嫁入りで持参した薬をヴィクトル王太子殿下に先に使用してしまったことへの、国王陛下なりの罪滅ぼしなのだろう。
それならば、きちんと三本の解毒薬がレクナ王国に届いて欲しいと節に願う。
レクナ王国の護衛騎士たちは、私が城の中に入り姿が見えなくなるまで、ずっと……ずっと頭を下げ続けてくれた。
それだけで、彼らの気持ちに触れることができ、これからの日々が乗り越えられる元気をもらえた気がした。
お読みいただきありがとうございます。
これで第三章は終わりです。
次回、四章からは離れ離れになったクレアとアルタイルの生活が始まります。
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