29 クレアの手紙
私自身の意見をランバートに伝えてから、もう一つ大事なことをお願いする。
「ランバートに手伝って欲しいことがあるのだけれど……」
「何だい?」
「……私ね、アルタイルが目覚めた後に……読んでもらえるように手紙を書きたいの。でも、ほら、私ってペンを持つのが難しいから、代筆してもらえないかしら?」
「お安い御用だよ!」
ランバートは快諾してくれると、ローラが使っていたという薄紫色の便箋を持ってきてくれる。
きっと私のスミレ色の髪色に近い便箋を選んでくれたのだろう。そういうランバートの気遣いを感じられるのも、残り僅かな時間だと自覚すると、ふと気が緩みそうになり涙が出そうになる。
「じゃあ、私が話すからそれを書いていってもらえるかしら?」
「あぁ、もちろん」
私は、頭の中で考えた文章をゆっくり言葉にしながら、ランバートが丁寧な文字で書き記していく様子を見守ることにした。
「大好きなアルタイルへ
アルタイルがこの文章を読んでいるということは、あなたの解毒が成功したということね。
アルタイルの苦しそうな表情を見ているだけで辛かったから、元気になってくれたならとても嬉しいわ!
私もアルタイルのこの家で生まれてきて本当に幸せだったわ。
想い出もたくさんありがとう。
私がウィンザルト国に行ってしまって、寂しい想いをさせてしまうかもしれない。
そのことについては許して欲しいの。だって、私自身が決断したのだから。
アルタイルの命が助かるなら、私は何だってしたいと思ったの。
だって、立派な騎士団長になるんでしょう?
あなたはきっと素敵な騎士団長になれるはずだもの。
それと、愛しているって手紙で伝えてくれてありがとう。
でもね、私は精霊だからアルタイルと家庭を築くことも子供をつくることもできないの。
あなたは素敵な男性だから、これから素敵な女性と出会う可能性だってあるわ。
だから、もっと自由に生きて幸せになってちょうだい。
私は……
精霊だから愛されても困ります。
たくさんの幸せをありがとう。 クレアより」
最後の文章では、声が震えてしまったけれど、アルタイルが前を向いて生きていける文章にしたかった。
私のことで思い悩んだり、打ちひしがれて欲しくはなかった。
(愛されても困るだなんて……嘘をついてしまったけれど……突き放さないとアルタイルは私を忘れずに苦しむかもしれないもの……)
ランバートには私が断腸の思いで語った言葉なのだと気が付いてくれたのだろう。
目に涙を浮かべながらも、私の文章を書き直すことはしなかった。
(これで……いいのよね? アルタイルを助けて、彼が前を向いて生きていくためには必要な言葉よね? だって、もう二度と会う事はできないのだから……)
「さぁ、ランバート。必要な持ち物を詰め込んだら、王城に向かいましょう」
私はベルガモット公爵家でお世話になった人たちに、最後の別れを告げる。
マーサもまさか突然、お別れすることになるとは思っていなかったようで大粒の涙をボロボロ流してくれるし、執事長は私とアルタイルが大好きな紅茶を荷物に入れてくれる。
料理長は、レクナ王国の日持ちのするお菓子を急いで作ってくれて、それをカバンに詰め込んだりしていたら、あっという間に一日が過ぎてしまった。
あとは……アルタイルに最後の挨拶をする為に王城に向かうだけだ。
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