28 アルタイルの置手紙
「お父様、クレア様。
この文章を読んでいることは、ぼくの身に何かが起こったということだね。
ちょっと安心しました。クレアの身は危険に晒されなかったということかな」
アルタイルの文章は、まるで話言葉のようですぐ傍で会話をしているような錯覚に襲われる。
「もし、この手紙を読んだ時に、もうぼくがこの世にいないのだとしたら……ごめんなさい。
ずっとクレアと一緒にいると約束をしたのに守れなかったということだね。
でもね、ぼくはずっとずっと君といられて本当に幸せだったんだよ。
このまま誰とも結婚することなく、ぼくがおじいちゃんになっても大好きなクレアが傍にいてくれたら……幸せだなぁなんて思っていたくらい。
本当は、土魔法と風魔法をもっと極めたかったな。クレアを守れるくらい強い騎士団長になって、この国をずっと平和で、君が安心して生活していけるようにするのがぼくの夢だったんだ。その為の努力は惜しまないって決めていたよ」
「ははは、私に似てアルタイルも一途なところがあるから、誰とも結婚する気はないのだろうと思っていたけれど、こんな形で本心を聞かされるなんてな……」
ランバートは、自分とよく似ていると苦笑しながら、手紙を続ける。思わぬ形で本心を知ってしまい、ランバートの目に涙が浮かんでいる。
ウィンザルト国の王子殿下たちと会話をする中で、危機的な状況に陥るかもしれないと察するようなことがあったのかもしれない。
「ぼくは、精霊のクレアを愛しているよ。ずっとずっとね。離れなくないんだ。クレアがいない人生なんて考えられないと思っている。でも、君を失ったわけじゃないなら、どうか生きて欲しい。ぼくの分まで。
ぼくがいなくなって寂しい想いをさせてしまうかもしれない。
いっぱい泣かせてしまうかもしれない。
もしぼくの肉体が無くなったとしても、心はずっとクレアの傍にいるから。
ずっとクレアだけを見てきたし、これからもクレアの幸せだけをずっと願う気持ちは変わらないよ。
永遠にね。
だから、ぼくがもし君の隣にいられない状況になっても、ぼくの心は君のものだよ。
お父様。
どうか、クレアがずっと笑っていられるように支えていただけると嬉しいです。
できればヴィクトル王太子殿下や国王陛下にもお願いしてもらえると助かります。
ぼくの大好きなクレア。
ぼくの元に生まれてきてくれて、本当にありがとう。
愛しています。永遠に」
アルタイルの文章はそこで締めくくられていた。
私は溢れ出した涙を拭きながら、愚痴をこぼす。
「もう。まだ生きているのに何を言っているのでしょうね! しかも、私への告白はきちんと目を見て、口頭で伝えてもらわないと許しません。そうですよね?」
「あぁ、本当にそうだな。自分の気持ちくらい直接言ってくれないとな、公爵家の跡取りとしてまだまだだな」
私とランバートは、アルタイルが恐らく遺書になるかもしれないと悟ったような文章を見て、それを笑い飛ばす。
「ランバート。私の気持ちは固まりました。アルタイルの手紙を読んだら尚更です。このままあの世へ行かせるものですか。……だから、私はウィンザルト国に居を移しますので、その代わり解毒薬を受け取り、アルタイルもキアナ王女殿下も元気になっていただきましょう!!」
私が、両手で拳を作り意気込んで立ち上がる。
ランバートは、小さく「ありがとう」とだけ泣き笑いをしながら、私の決断を尊重してくれた。




