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26 取引

 ヴィクトル王太子殿下の解毒に成功してから一週間が経つ。


 北のウィンザルト国から一通の封書が早馬にて届けられたと連絡が入り、いつ解毒薬が送られてくるのかと私はソワソワしながら、手紙に記載されている詳細が知りたくて首を長くしながら待っていた。


 そして、その直後、「国王陛下と謁見するように」と宰相から指示が伝えられ、ランバートと私が玉座の間に呼ばれたのだった。


「ベルガモット公爵、相談したいことがある。私だけでは判断がすることができない内容の封書が、ウィンザルト国から届いたのだ」


 国王陛下の表情は硬く、重苦しい空気を漂わせている。金の豪華な装飾が施されている荘厳な玉座に座っているのに、陛下が肩を落としているせいか全く威厳を感じることはできず、逆に小さく見えてしまう。

 良くない内容が記載されていたのは、明らかだ。


 国王陛下は強く握り締めていた届いたばかり手紙をランバートに手渡し、読むように伝える。

 ランバートの胸ポケットの中にいた私も、顔を出して手紙の内容を一読させてもらう。


「!!!」


 私は自分の口を塞いでしまった。

 そして、この王城で三人が毒に倒れた事件はウィンザルト国の陰謀で間違いなかったのだと確信する。

 ただ、レクナ王国としては証拠がないから問い詰めることはできないのだろう。いくら毒を直接混入した実行犯を捕まえることができたとしても、ウィンザルト国が指示した証拠にたどり着けなければ、問題にすることなどできない。


 手紙には、「解毒薬をお渡しすることはできない。取引をしましょう」と書かれている。

 読み進めていくと、「解毒薬三人分を送る対価として、ベルガモット公爵家に住まうクレアという精霊をウィンザルト国の王家に譲り受けたい」と書かれている。


 私は、先日のベルガモット公爵家での会食でザイン王子殿下が最後に囁いた言葉を思い出した。


『君が欲しくなっちゃった』


 この言葉を実行するために、レクナ王国には存在してない毒を王族に盛り、交渉するための材料としたのだろう。

 私が欲しいためだけに。


 私の大好きなキアナ王女殿下の容態は芳しくない。アルタイルよりも体力がないから、毒の進行も速いのだろう。ひょっとしたら、残り三週間という猶予もないかもしれないと密かに焦りを感じている。


「国王陛下……少しお時間をいただけませんか……せめて一日考える時間を下さい」


 ランバートも自分のアッシュグレーの髪をギュッと掴み、顔を歪ませて時間が欲しいと懇願している。やり場のない感情をどこにぶつけたら良いのかわからないように見えた。


「あぁ、そなたの解毒薬のおかげでヴィクトルの命は救われたのに、我はこれ以上そなたに何かを望んだり取り上げたりすることはしたくない。ゆっくり考えてもらって構わない」


 キアナ王女殿下の容態が良くないのにも関わらず、国王陛下はランバートに返事を急かすことも、精霊を差し出して欲しいと命令することもしなかった。


 ランバートは、私がどう判断するのか公爵家に帰って話し合いたいと思っているのだろう。

 私は、アルタイルとの想い出が詰まった部屋に戻ったら、自分の考えをランバートに話そうと決意して帰路についた。


 私の気持ちはもう固まっている。

 今までアルタイルにもらった愛情は計り知れない。

 彼が笑顔を取り戻してくれるのなら、私の気持ちは閉じ込めてしまえばいいだけのこと。

 これからは、彼が幸せになることだけを願おう。

 そうするしか、彼が生きる道は残されていない。

 だったら、私がとるべき選択は一つしかない。


 一生、会うことができなくなるとしても。

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