21 ザイン王子殿下
「お待たせ致しました」
アルタイルは、貴賓室に先に案内されているヴィクトル王太子殿下、カール王子殿下、ザイン王子殿下に挨拶をする。ランバートもベルガモット公爵家の当主として同席しており男性五人と精霊一人という空間が出来上がる。
授業後の来訪ということもあり、慌てて材料の調達をして夕食を作ってくれた料理長は大変だったに違いない。
アルタイルと私は、お揃いの薄い黄色を基調とした衣装を身に着けて一緒に入室をした。
「カール王子殿下、ザイン王子殿下。こちらが我が家に住んでおります精霊のクレア様です」
ランバートが私を紹介してくれる。
さすがに隣国といえ王子である二人は、優雅な姿勢で丁寧に挨拶をしてくれる。
「初めまして、クレア様。私はウィンザルト国第一王子のカールと申します。そしてこちらは弟のザイルです。本日はお目にかかれて光栄にございます」
「初めまして。クレアと申します。お越し下さりありがとうございます」
一通りの挨拶を終えると、食事が運ばれてくる前に元々の目的であったカール王子殿下の質問が始まる。
「クレア様。不躾な質問をお許し下さい。クレア様は……望んでこのレクナ王国に住まわれていらっしゃるのですか?」
「えぇ、もちろんです。私はベルガモット公爵家の居心地とそこに住まう人たちが気に入っておりまして、この地に居を構えております」
「左様ですか。こちらこそ、変な勘繰りをしてしまい大変失礼いたしました。アルタイル殿のおっしゃっている通りでしたね。どうぞお許し下さい」
カール王子殿下は、聞きたいことを確認すると私が拉致をされたわけではないとわかり、それで会話が終わると思われた。
カール王子殿下の質問が終わり、早速、会食が始まったのだが、どうもザイン王子殿下がずっと私を見ているようで気が気でない。
(カール王子殿下よりも気を付けるのはザイン王子殿下でしたよね。値踏みされているようで、何だか嫌だわ)
私はザイン王子殿下の視界に入りたくなくて、会話が弾んでいる間にアルタイルの食器に隠れるようにテーブルの上に置かれた私専用の椅子の位置を少し移動させて、こっそり置き直してもらう。
「おやおや、噂通りですね。本当にとてもよくアルタイル殿に懐いていらっしゃる」
やはりずっと見ていたのだろう。
私の行動をずっと目で追っていたザイン王子殿下が、冷やかすかのように指摘する。
「えぇ、アルタイルが申告していた通りでしょう? ベルガモット公爵家の精霊様は人見知りをすると」
ヴィクトル王太子殿下がさりげなくフォローをしてくれる。
どうやら、私は人見知りだから、隠れても仕方がないと遠回しに伝えてくれているようだ。
「それにしても、スミレ色の髪の精霊とは珍しいですね……」
「……そうなのですか? ウィンザルト国の精霊様の髪色は違うのでしょうか?」
ザイン王子殿下の発言が気になったアルタイルが、ウィンザルト国の精霊について質問をする。
「そうですね、ウィンザルト国の精霊様は金髪が一番多く、次が緑色でしょうか。まぁ、花の精霊様でしたら薄いピンクや黄色の髪もしておりますが。スミレ色もひょっとしたら見た事がないだけで、探せばいるのでしょうね」
「そうなのですね。レクナ王国で目にすることができる精霊様がいませんでしたので、そんなにたくさんの髪色があるとは想像しておりませんでした」
アルタイルも初めて聞いた内容で、少しウィンザルト国の精霊について興味を持ったようだった。
「レクナ王国は森林もあり、水も豊富、肥沃な大地に恵まれているので精霊様の能力が高く、目隠しする能力にも長けているのでしょうね。それに比べ、ウィンザルト国は土地がやせており、森林も伐採してしまい植林はしておりますが、緑が少ない状態です。精霊様の能力が落ちてきているので、目隠しできずに人の目にも見えてしまうのではないかと考えられております」
カール王子殿下が、ウィンザルト国の土地と環境について説明をしてくれる。
私も研究して人工的に生まれてきた精霊の可能性が高いけれど、今、ウィンザルト国の研究について詳しく聞くのは怖い気がして会話にすることはなかった。
無事に会食が終わり、食後の飲み物を飲んでいた時のこと。
「アルタイル殿。相談なのですが、この可愛らしいクレア様を私に譲っていただくことはできませんか? それなりの対価はお支払いいたしますよ」
ザイン王子殿下は、やはり『精霊コレクター』として私が欲しくなったのだとその時、気が付く。
「申し訳ございません。クレア様はベルガモット公爵家に暮らしたいとおっしゃっておりますので、恐れ入りますがその提案を受け入れることはできかねます」
「はい。私は、ベルガモット公爵家の居心地が気に入っておりますので、この地を離れるつもりはございませんわ」
アルタイルの返事に続き、私もレクナ王国のアルタイルの傍から離れるつもりはないと意思を伝える。
「ははは、そう言うと思っていたよ。アルタイル殿は金銭で動くような人ではないと思っていたからね。
それは、残念だなぁ」
その言葉を聞いて、ザイン王子殿下は諦めてくれるのかと一瞬思ってしまった。次の言葉を聞くまでは。
「でもね、クレア様がウィンザルト国に来る必要が出てきたら、我々は歓迎するよ? そうならないといいよね」
ザイン王子殿下は含み笑いを私とアルタイルに向ける。
私はゾワゾワと嫌な寒気に襲われた。
そして、貴賓室からの帰り際、王子殿下たちを見送ろうとアルタイルの肩に座っていた私の横を通りすぎる時に、ザイン王子殿下は小さな声で私に向かって囁いた。
「君が欲しくなっちゃった」
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