19 急な来客
ベルガモット公爵家の玄関ホールが急に騒がしくなった。
「どうしたのかしら? 何かあったのかしら」
アルタイルの部屋に置かれているドールハウスのリビングを掃除していた私は、いつも静かなベルガモット公爵家の異変を感じとる。
(アルタイルに……何かあったのかしら……。無事だといいのだけれど)
気になって、玄関ホールに向かおうか迷っていたら、一通の封筒を手にしたランバートが私のもとにやってきた。
「クレア! ちょっと大変なことになってね。王家から先ぶれがあったんだ」
「先ぶれですか?」
「あぁ、ヴィクトル王太子殿下からなんだが、今晩、北のウィンザルト国のカール王子殿下とザイン王子殿下、そしてヴィクトル王太子殿下が我が家に訪問されることになった。目的は……クレアに会わせて欲しいとのことだ」
私はひゅっと喉を鳴らす。あと一週間で留学が終わると聞いていたのに、なぜこんな事態になったのだろう。
(レクナ王国のヴィクトル王太子殿下からの依頼とあれば、公爵家は断ることができないのよね……)
私は、キアナ王女殿下の淑女教育をずっと傍で見学してきたのだから、公爵家の立場というものも理解することができる。
「わかりました。それで、私は何をしたら良いのでしょうか?」
アルタイルやお世話になったベルガモット公爵家のみんなに迷惑をかけるわけにはいかない。私が顔を出すことで、体裁を保つことができるならやれることをしなければいけない。
「聞いていて気分の良いものでは無いと思うのだが、アルタイルが目に見えるといわれているウィンザルト国の精霊様を拉致しているかどうか確認するらしい」
「なっ……そんなはずありません。私はここにいたくているのです」
「あぁ、わかっているよ。とりあえず難癖をつけてでも、クレアがどんな精霊なのか見てみたいのだろう。ヴィクトル王太子殿下の手紙には、『精霊コレクター』だから関心があるようだと書かれているが……」
キアナ王女殿下も私に「ザイン王子殿下には気をつけた方が良い」と忠告して下さった。他の精霊と何が違うのかはわからないけれど、アルタイルの傍が私の居場所だと言い張るしかない。
「私もクレアを会わすことで、何か別の問題が起きないか危惧はしているのだが……」
「……そうですね。でも、私は大好きなアルタイルが精霊を拉致しているなどと不名誉なことを言われているのであれば、まずはそれを訂正したいです。私にとって、アルタイルが一番なのです!」
私はちょっと自分の気持ちをランバートに打ち明けてしまっているようで恥ずかしかったが、重要なことなので公爵家のみんなにも私の意志を伝えておきたかった。
「クレア……そう言ってくれて嬉しいよ。ここにいないアルタイルにも聞かせてあげたかったな」
ランバートは、少し冗談を交えて答えながらも、数刻先に訪れる訪問者を迎える準備に追われるように退室して行った。




