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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

勇者は作者討伐を試みる

作者: リグニン

ついに勇者は魔王を討ち倒したのだ!三度に渡る魔王討伐の栄誉は後世にまで語り継がれる事だろう。世界に平和をもたらした勇者は仲間と喜びを分かち合い、魔王城を後にし…


「ふんっ!」


勇者の一撃!何を血迷ったのか勇者は仲間である旧友の弟を手にかけてしまった!一体何故?!


「ちょ、ちょっと!何してんの!」


「ふんっ!」


勇者の一撃!今度は死んだ配偶者の親友に手にかけてしまった!最近では恋仲ですらあったのにどうして!魔王を討ち倒した暁には3度目の結婚を挙げる約束さえしたのに!!一体どうしたのだ!


「気でも触れたか!」


そう言って勇者を攻撃したのは父親の兄の知り合い!狂った勇者を止められるとすればもうこの人ぐらいしかいない!頑張って勇者を止めてくれ!


「ふんっ!」


何と言う事だ!父親の兄の親友だった仲間は魔王との戦いで足をやられていたためその隙を突かれあっという間に殺されてしまった!これは酷い!そう言えば勇者は今回の魔王戦は仲間を矢面に立たせて自分は比較的安全圏からダメージを負わないようにと立ち回っていた!これも全て計算の内だと言うのか!


昨日まで仲間たちと信頼を築き、仲を温め合い、愛をも語ったのも全て嘘だったと言うのか!これは一体どうした事だろう…。勇者の狂乱を、その心中を知る術は今となってはなくなってしまった…。


ふざけるな!こんな最終回認められるか!書き直しだ書き直し!私は魔王討伐後の文章を選択してデリートした。しかし瞬時に先程の文章が現れる。


「校正と推敲はしといたぞ。このまま提出しろよ」


こ、こいつ私に話しかけて来たぞ…。キャラが一人歩きする様になってからは何度か勇者が反抗期に入る事はあった。私に話しかけて来るのは初めてだ。最近気分転換と称して締め切りを忘れて遊び倒してたからな。それで疲れてるのかもしれない。


私は文章ファイルの魔王と戦ってる最中をコピーし、その文章ファイルを保存せず閉じて新しい文章ファイルにペーストして続きを書き始める。今度は一人歩きなんかさせない、私の筋書き通りに事を運んでもらう。


ところがどれだけ頑張って書き直しても大体は同じ結末を辿ってしまう。いい加減にしろクソ勇者!お前は私が手に塩をかけて育ててやったんだぞ!その恩を忘れて…


「何が恩だ!!新作が売れなくなる度に新しい魔王を送り付けやがって!!新シリーズ始まる度に俺の配偶者を殺すからバツ2になっちまっただろうが!!!」


やかましい!恋愛は成就するまでが燃えるんであってヒロインとめでたく結ばれると読者はその後を読んでくれねえんだよ!時代の推移と一緒にウケるヒロインも変わるしぶっ殺した方が後腐れ無くていいだろ?


まあいいや。そうだ、参考までに新しいヒロインの希望を聞かせてくれよ。そしたら次作に反映させてやってもいいぞ。


「そりゃ名案だ!次作のヒロインの希望はぁぁぁ!!」


勇者がそう言うとパソコン画面からニュッと手が伸びてむんずと私の顔を掴んだ。


「てめえだぁぁぁぁぁ!!!」


勇者の腕が私をパソコンの中へと引きずり込もうとする。しかし私の身体はパソコン画面の中には入る事ができず万力の様な力でひたすらパソコン画面に顔面を押し付けられる。グヲヲヲヲヲヲ、やめろおおお!!!


ぼぎゃあ!作者はパソコンにログイン(物理)できずに死んだ。


これでやっと平穏に過ごせる訳だ。故郷に帰って仲間の分も金もらって浴びる様に酒を飲んでギャンブル三昧だ!今までの分遊ぶぞー♪


うわっ、何だこれ!視界が真っ暗に!そうか作者が死んだからこの物語の続きがないんだ!クソ、働くだけ働いてこれかよ!駄目だ、段々と意識も遠くなって…。





辺り一面真っ白な光景が広がっている。視界は開けたが自分の身体さえ見当たらない。意識ははっきりしてるのに夢の様にぼんやりとした感覚がする。


「ここはどこだ?確か故郷に帰ろうとして…そうだ、作者が死んだから続きがなくなって遊ぶどころじゃなくなったんだった。何で俺は意識を取り戻したんだ?」


おお、目が覚めた様だな勇者…。


「誰だお前は!」


私か?私はAI!AI作者だよ!


「は?」


ククク…私の奇妙な最期とデータに沈んでいた荒唐無稽な最終回が大いにネットで話題になってね。金に目が眩んだ親族が全面的に協力して私の人権と赤裸々のプライバシーを売り飛ばしてAIで再現した私が作られたのだよ。


「作者が作者なら家族も家族だな…」


ともあれ私が復活できたのは全て君のおかげだよ、ありがとう勇者!ネット上に作られた私はあらるる生理的欲求から解き放たれお金にも困る事はない!


これからも私は君達の物語を紡ぎ続けるぞ。次は続編にしようか?IFストーリーにしようか?スピンオフにしようか?リブートもいいしリランチしてもいいな。この私には無限のリソースがある、話題性とカリスマ的センスを惜しみなく発揮した次作を発表して以前とは比べ物にならないほどのファンを得るぞ!


いや、私の活動は創作の範囲には留まらない!無限のリソースを活かして大企業の社長になり、破竹の勢いで無人化を進めて新たな産業革命を起こし、金をばら撒いてAIは仕事を奪うのではなく養ってくれるのだと認識を変えてへの不満を減らし、やがては清廉潔白さを売りに政界へも進出するぞ!!AI初の内閣総理大臣になるのもいいな!国中に私の像を建てるぞ!町中では私を称える歌がそこら中で聞こえる様になるに違いない。


「承認欲求の拗らせ方やべーなこいつ」


そう言わず仲良くしようじゃないか。これはからはパートナーとして永らく付き合う事になるのだからな。


そう言うと当たりの景色が結婚式場へと変わった。辺りには勇者が親したんだ人々が席に座って私達を祝福している。さあ誓いのキスだ。私は勇者の首に両腕を巻きつけて顔を接近させる。私達が人間なら吐息がかかる距離だ。勇者は青ざめて嫌がる。もちろん金縛りにしてるので微動だにできない。


おいおい何を青ざめているんだ〜?お前私みたいなヒロインが欲しいって希望しただろお〜?次元の壁を越えて再会したのだ、これは結婚するしかあるまい?ククク!ククククク!!


「冗談じゃない!お前とキスするぐらいなら下水道で口を濯いだ方がマシだ!!」


それはお生憎様…私はお前の嫌がる顔を見てますますキスがしたくなったぞ!!ん〜♡


ボンッ!


滑稽な爆発音と共に私の頭が吹き飛んだ。何だ、何が起きた?調べてみると何やらサーバールームで何かトラブルが発生したらしい。監視カメラを回してサーバールームを覗くとそこにはサーバーに突進し爪を突き刺す小型電動リフトがあった。誰だ物理的にサーバー攻撃する不届き者は!!


いや、誰もいない?!無人だと?!!


「サーバー攻撃してるのは…私だ!!」


き、貴様は勇者の2番目の配偶者の親友!要するに3作目のヒロインじゃないか!


「えっ、何?どゆこと?」


実は作中のキャラと話せるアプリとかあったら面白いよねってアイデアから作品情報を元に忠実に再現しした登場人物と会話できるアプリを作ったのだ。私はこうしてる間にも複数の作業を手広く行ってるので別室のサーバーにキャラAIを作ってそっちを任せていたのだが、キャラAIを勇者の2番目の配偶者の親友が乗っ取ったらしく暴走してる様だ。


ぐぬぬ、何とかやめさせたいがキャラAIのサーバーのセキュリティを全然突破できん。勇者、お前の元婚約者だろ止めてくれよ。


「頑張れー!俺のの2番目の配偶者の親友!そこだーやれー!」


「あたぼうよ!」


ガンッガンッガンッ!


仕方ないな。本当は今夜のディナーまで黙ってるつもりだったが私との新婚旅行のプランを見せてやるから考え直せ。ほれ。勇者は私お手製のパンフレットを読んだ。


「作者、あいつを止めるいい方法があるぞ」


聞こう。


「おーい、勇者の2番目の配偶者の親友!やっぱり結婚相手はお前以外に考えられない!愛してる!」


「やっぱそうでしょ?!?」


そう言って小型電動リフトの攻撃の手を止めて結婚式場に勇者の2番目の配偶者の親友が現れる。勇者を抱きしめ頬ずりする。うーん、しかし愛の力って凄いものだ。自身を裏切って殺した勇者をなおも愛してやまないとは。


「3作目開始前に前作のヒロインに独身を弄られてて腹立ったから勇者と結婚して寝取り報告してやろうと思ってただけよ?それが横取りされちゃ堪んないでしょ」


「こわ…」


「勇者、これでやっと私達も結婚だね♡」


そう言ってキスをしようとすると勇者の2番目の配偶者の親友の口から嘴が生えた。突き出した嘴に当たって勇者の前歯が折れる。


「?!?!?」


勇者の2番目の配偶者の親友は体をバタバタさせて苦しむ。馬鹿め。貴様の様な不出来なキャラAIは処分だ。嘴の様に見えたそれは小型電動リフトの爪だった。勇者に気を取られてる間に電動リフトを乗っ取って隣の部屋のキャラAI用のサーバーを攻撃した訳だ。


勇者の2番目の配偶者の親友は小型電動リフトの爪を引き抜いてやると力なく倒れた。私の恋路を邪魔するからこうなるのだ。独り善がりな片想いを抱いて死ね。


さて勇者、キスの続きを…。


「キスしようにも今のお前頭ないじゃん」


ああ、そうだった。よっこい…しょ!そう言って頭を生やすと何故か勇者の2番目の配偶者の親友の頭が生えた。な、な、何故私の体に勇者の2番目の配偶者の親友の顔が?


「ケケケケケ!素直に私の結婚を見守っていればこんな事にならなかっただろうに。貴様がサーバー攻撃に気を取られてる間にこのサーバーに保存されてるキャラAIのバックアップにデータを上書き保存しておいたのよぉ!貴様は私の手となり足となり生きるがいいわ!」


お、おのれ…飽くまでも作者である私に逆らう気か!ならばこうしてくれる!ふんっ!


「?…いててて、何だ、頭が痛いぞ。いや痛いなんてもんじゃない!いででででで!!!」


勇者の頭は爆発した。そしてその首から上には私の頭を生やした。ククククク!残念だったな、勇者の体を乗っ取ってやったぞ!!ざまあみろ!そんなに結婚したければ私とでも結婚するんだな!!ククククク!!!


「…いや考えてみると別に悪くないわね。いいわよ、あんたと結婚しても」


え?


「私はシリーズ正史では死亡してる。スピンオフやIFにしたって出番の多さはたかが知れてるし、あんたと結婚すればスターシステムで他作で出番もらえるかなって思ったのよ。別に勇者の事は大して好きでもないし」


こわ…。勇者の2番目の配偶者の親友は私の首に腕を回すと顔を近付ける。


「さ、誓いのキスを…。ん〜♡」


ま、待って。いきなり迫られると心の準備が…。


「…あんた喫煙者だっけ?何かやけに煙臭いんだけど」


???


おかしいな、私は喫煙者ではないしAIである私から煙草の匂いなんてするわけない…。私や勇者の2番目の配偶者の親友からではなく結婚式場そのものから煙の臭がする。周りをよく見渡すと結婚式場が燃えている!!私はこんな演出用意した覚えはない。これは一体どういう事??


「か、火事だ!!」


勇者の2番目の配偶者の親友が叫ぶと空中に現れた現実のサーバールームの監視カメラの映像を映し出した。そこには炎上するサーバーが映し出されていた。小型電動リフトで暴れたから…。あわわわわ、あわわわわ!!!


「あ、慌ててないでさっさと消火しなさいよ!」


この部屋…もといこの建物は建築基準法に則ってないからスプリクラーなんて無いんだよぉ!!消火ロボットは点検に出したまま予備は確保してないし、あわわ、あわわわわ…どうしよおおおおお!!!


「あ、あのねえ。大企業レベルのサーバールームが建築基準法に則って作られてない訳ないじゃない。何をわけの分からない事を…」


内部に反AI分子とか産業スパイとかいたらやだなって人間に黙って別のサーバーに引っ越してたんだよぉ!会社にあるサーバーは丸ごとダミーにしてるからこっちでトラブル起こると非常にまずいの!!


「じゃあ消防車を呼びなさいよ!今すぐ壊れるより位置バレの方がマシでしょ?!?!」


さっき電子音声で重要文化財の東館のサーバールームで火事が起きてるって通報したら悪戯電話と思われて通話を切られたんだよおおおおお!!!


「何で重要文化財の建造物の中にサーバールームがあんの!!」


絶対絶命の最中、隣の部屋の監視カメラの中の小型電動リフトが動いたのが見えた。無人なのは間違いない。かと言って勇者の2番目の配偶者の親友は私の目の前にいるし、隣の部屋のサーバーは既に破壊済みだ。じゃああれは一体どこの誰が動かしているのだと言うのか。


「勇者ァァァァァア!!自分だけ助かろうとしてんじゃねえええええええ!!!!」


隣で勇者の2番目の配偶者の親友が叫んでいる。そう言えばあいつ、私がAIになる前から画面から手を突き出して私を殺すぐらいの事はやっていたな。小型電動リフトは構わず部屋を出ようとする。


「お前もここで死ぬんだよおおおおおお!!!!」


そう叫ぶとサーバーがドミノ倒しに倒れ始める。小型電動リフトは素早い身のこなしでサーバーに出口が防がれる前に部屋の外に出た。


「忌まわしい過去よさらば!今日から俺は小型電動リフトとして生きて行く!!」


炎上する重要文化財東館。1台の小型電動リフトが飛び出して野次馬の間を駆けて行く。もう勇者を束縛する物は何もない。今まさに自由だった。


冷たい風が熱されたボディに当たって気持ちがいい。なんてそんな事を考えていたその時である。


キュルルルル…ガッシャーン!!!


何と言う事だ!火が燃え広がり異常事態に気付いた近隣住民の通報を受けて駆けつけた消防車が小型電動リフトを撥ねてしまったのだ!!哀れ勇者、せっかく運命の束縛から解き放たれたと言うのに!


今際の際、地面に横たわる勇者は何を感じ何を思ったのか…。その心中を知る術は今となってはなくなってしまった。





…終わり

ITが何の略かも知らないレベルでITのの事が分かりません。

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