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この復讐は100%うまくいく  作者: 柿井優嬉


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 前の場面からおよそ二時間が経った午後十時過ぎ。サラリーマンで上司と部下にあたる、五十代の笹野と三十代の西田が、繁華街から人の少ない通りの方向へ歩を進めている。

 他三名の飲食をともにしていた会社の同僚たちは、店から近い地下鉄の通路に入っていったが、彼らは少々離れた別の駅のほうが帰るのに都合がいいため、そちらに向かっているのだ。

「さっきの店で隣にいた三人組の若い男の会話、聞いたかい?」

 笹野が西田に尋ねた。

「ああ、次の選挙に関するやつですよね?」

「うん」

 笹野はやたら大きくうなずいた。彼は見るからに酔っている。二人が飲んだ量はほとんど同じなのに、西田はしらふとたいして変わっていない。笹野はあまり酒に強くないようである。

「あいつら、甘いよな。柴崎を引き入れるのに、連立の誘いだけじゃ済まない。奴を総理に担ぐって話に展開するよ」

「え? マジですか?」

「そうだよ。柴崎を味方にできたほうが今度の選挙で勝つのは目に見えてるんだから、いい返事をもらうための最強のカードは何かと考えれば、奴が社会ドラフトの実現に確実に取り組める総理の座を譲るってところに行きつくはずだ。保守と民政の代表はもちろん本音は自分たちが総理をやりたいだろうが、負けたら元も子もない。代表の地位まで失うし、もう上の立場には戻ってこれない確率も高くなる。だったら、せめて政権に入っておいて、おそらく柴崎はそんなに長く総理を続けられやしないだろうから、己を含めた自分たちの党から奴の後継者を出せばいいって計算をするよ」

「なるほどー」

 西田のその返事は、普通に聞いたら大げさと思うくらい感情がこもっていた。笹野の機嫌を良くするためにそうしたのだ。笹野は善い人ではあるのだが、酔っ払うと話が長くなり、それが西田は苦痛だった。だからこうして飲んだ帰りに、それも二人きりで、歩きたくなかった。しかし、初めて一緒に飲食した際に、笹野のそういった面を知らずに、今向かっている駅を使うのが帰宅するのに最適だと言ってしまっているし、笹野が以前かなり酔っても翌日に記憶をなくしていなかったのを目にしているなか、他のルートや交通手段に変えると、避けているのを悟られてインプットされかねないのでできず、耐えるしかなかった。しかも、こういう場所はどこも大概そうだけれど、明るくにぎやかな駅周辺から少し外れるだけで暗くて静かな風景へと一変し、他に意識がいくものがないから、テキトーに話を聞き流しでもすればすぐに気づかれるだろう。笹野の気分を良くするのは、むしろもっと話を長くさせるおそれがあるとわかっているものの、失礼なそっけない返事をしてしまうのを防止するのと、ずっとは疲れるけれどもおだてると自分の気持ちも少し晴れるために、ついやってしまうのだった。

「ところで、柴崎のことをどう思う?」

 案の定、再び笹野が西田に話しかけた。

「人気があるみたいですよね」

「ああ。で、きみはどう思うのさ?」

「どう、とは?」

 面倒くさいなと思いつつ西田は訊き返した。

「きみは柴崎と同じくらいの歳だよな? じゃあ、例えば会社の同僚として一緒に働きたいとか働きたくないだとか、あるいは、もし自分が上司だったら評価するとかしないとかさ」

「そうですねえ……」

 返答いかんで笹野のしゃべりの尺度が違ってくる予感がして、隼人を肯定的に言ったほうがいいか、否定的に言ったほうがいいのか、西田は迷った。

「笹野さんはどう思ってるんですか?」

 彼はひとまずそう切り返してみた。

「俺かい? 俺は、柴崎は……うっ、気持ちわるー」

 突然笹野は嘔吐しそうになり、口もとを抑え、顔をそれまで向いていたのとは反対の、道の脇のほうへ動かした。

「キャア!」

 辺りに人はほとんどいないというのに、よりによってちょうどそこへ逆の方向から二十代半ばの男女が歩いてきていて、女性が悲鳴に近い声を出した。

「す、すみません」

 慌てて西田がその男女に頭を下げた。幸い相手に被害は何も及ばずに済んだ。

「大丈夫ですか?」

 西田はそう言って笹野を支えて、彼らから離れていった。

「ああ……悪いね」

 笹野は軽くふらつきながらも、基本的には自分の力で歩き続けたのだった。


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