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「頼むよ。お願い、この通り!」

 こちらも目立ったところはなくシンプルな造りの、とある中学校。その休み時間に、一年生の教室で、短い休憩のためにほとんどの生徒が自身の席に着いているなか、一つの机に三人の男子生徒が取り囲むようにして立っており、中央のコが腰をかがめた姿勢で両手を合わせ、そこに座っている男子に言った。

「だから、俺、そんなにバスケうまくないんで」

 椅子に腰を下ろしていてそう答えたのは、柴崎隼人だった。その表情は困り顔だ。

「嘘だ。中西から聞いたよ。小学校の体育のとき、とにかくすごくて、誰も手がつけられなかったって」

「大げさですよ。多分、いいプレーができたのを何度か見た、断片的な記憶で言ってるだけで、本当にたいしたことないですって。それに、俺、怠け者だから、練習サボっちゃいますよ。部の輪を乱して、雰囲気を悪くさせる可能性が大ですけど、それでもいいんですか?」

 立っている三人は、一学年上の二年生で、隼人のクラスの教室の彼の席まで足を運び、所属するバスケットボール部にスカウトしていたのだった。真ん中の生徒はそれほどでもないが、両サイドの二人はさすがバスケ部といった感じでかなり背が高い。 

 彼らは、今の隼人の言葉を聞いて表情をゆがめて、視線を合わせ、少し離れてヒソヒソと軽く相談をした。

「わかったよ。邪魔したな」

 ずっとメインでしゃべっていた中央のコがそう口にし、三人は諦めて教室から出ていった。

「フー」

 断る権利はもちろんあるけれど、そうすると、たまに腹を立てる生徒がいる。今回の相手は上級生で、失礼な返答の仕方にならないように気をつけなければいけなかったし、素直に立ち去ってもらうことができて、隼人はやれやれと安堵の顔で息を吐いた。

 時が経ち、隼人は中学生になった。地元の公立校へ進んだために多数いる、小学校から一緒で顔見知りの生徒は皆、当然彼は運動部に入るものと思っていたが、文化部も含めてどこにも入部しなかった。そして、スポーツの能力に秀でていると聞きつけた者たちが、学年クラスを問わず、今の三人のように自らの部の勧誘で頻繁に訪れ、その人気は彼が入学して半年を過ぎても衰えないほどであった。

 隼人は端整で負けん気の強そうな顔立ちであり、やや細身ではあるものの、小学生のときから伸びた身長はその年頃の男子の平均より高くて、ひ弱さなどは感じさせないし、しなやかでバネがあると思わせる体つきで、見た目の印象から運動が上手そうだった。冒頭でのサッカーに限らず、全般に得意なスポーツによって、小学校ではヒーロー的なポジションを確立していたが、中学生になると、その座を降りたいかのように一転してあらゆる運動から距離を置き、体育の授業もテキトーにこなしていた。しかし、噂と違って運動能力の高さの片鱗さえ見せないその態度が、かえって小学生時代を知らない生徒たちにすごさの想像を膨らませる結果となり、今のバスケ部の三名とは比べものにならないくらい熱心に誘う体育会系の部のコも大勢いた。その生徒たちの熱意や誠意はしっかり伝わった。申し訳ないという気持ちにも何回もなった。けれども、彼は決して首を縦には振らなかったのだった。

 隼人は、長い休み時間は大半を図書室で過ごした。そこで勉強をしていたのだ。それは、教室で休憩時間に教科書を読むなどしていると目立ち、他の生徒から、なぜ勉強なんてやっているのかと尋ねられたり、そんなことしないで遊ぼうとちょっかいを出されたりして、まともにできないおそれがあるが、図書室ならば、提出しなければならない課題でもあって仕方なくやっているように見えやすく、違和感が少ないし、そもそも邪魔がしにくい環境だからだ。多くのコに部活の勧誘がうっとうしくて避ける意図だとも思われたけれど、本気で勉学にいそしんでいたのである。

 そんなある日、やはり図書室で勉強していて、まだ休憩終了のチャイムは鳴っていなかったがキリが良かったのでやめて、教室に戻るために廊下へ出ると、直後に誰かが背後から彼に声をかけた。

「ねえ」


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