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「うわっ」
「マジかよ」
「やっぱ、すげーな」
そこにいる少年たちは驚きと感心の声を漏らした。
日本全国どこでもお目にかかれそうな平凡な外観の公立小学校の、これまた取り立てて言及するところのない土の校庭で、児童が五人ずつのチームに分かれ、サッカーをして遊んでいる。
そして、そのうちの一人である柴崎隼人が、長い距離の華麗なドリブルから、芸術的なループシュートを決めたのだった。
他のコたちの度肝を抜くようなプレーは、このときだけでなく、ひっきりなしに行われた。いくら相手は彼同様に普通の小学生である同級生たちだといっても、もしそれらをサッカーを指導している人間が目の当たりにしていたら、彼を放ってはおかなかっただろう。それくらい常に素晴らしいボールさばきをしていたし、目撃するのが指導者のなかでも立場や能力などの有しているレベルが高いサッカー関係者であれば、おそらく彼のその後の人生はこれから紹介するものとは異なっていたに違いない。
それは、一時間目の授業の開始前だった。少年たちは登校するや、限られたその時間にわざわざ外へ出ていくにとどまらず、試合まで行っていたわけである。というのは、それだけ彼らの多くがサッカーにのめり込んでいることもあるけれど、昼間の長い休憩時には、他の学年や学級の子どもも、大勢がグラウンドで遊ぶために、のびのびはやれないので、まだ学校に来ていない生徒もいたりと慌ただしい時間帯でも、目一杯楽しめるという考えからだった。雲一つない青空のもと駆け回るそのコたちの様子は、近頃の若者はゲームなどインドアの娯楽ばかりしていると眉をひそめる大人たちには、微笑ましいという以上の光景だったろう。
そのメンバーには、目立つ少年が二人いた。
片方は、すでに登場した柴崎隼人だ。改めて説明するまでもなく、一人飛び抜けてサッカーが上手だからである。
もう一方は、名前を白崎理といった。彼はサッカーに関しては見るべきところはまったくなかったし、それ以前にボールに触れることすらできない有様だった。隼人とは対照的なひどく劣ったプレーぶりが、注目してしまうポイントと言っても誤りではないけれども、より目を奪われるのは、その姿だった。そこにいる児童たちは全員が同じクラスの五年生で、皆さほど変わらぬ背丈であったのだが、彼のみ一回りといった具合に小柄で、低学年のコが一人だけ参加しているように感じられたのだ。
二人は名字が似ているため、前者の少年が、主に「隼人」や「隼人くん」と下の名前で、あだ名などはなく普通に呼ばれるのに対し、後者の彼は、発端は誰かわからないが、響きのみならず言い方も子犬に向かってするように、「シロ」と呼ばれていた。「シロ」はあまりにしっくりくるので、その呼び方を知った人は、誰もが同様にそう口にせずにはいられなくなってしまうくらいだった。
そのクラスの男子たちによるサッカーの試合は、そんな調子でしょっちゅう行われていたが、顔ぶれは固定されておらず、人数もそのときどきで異なっていた。そして、その日のその十人でのプレーのちょっと前に、この先の世の中に少なからぬ影響を与える出来事が起こっていたのだけれど、それはまた後での話。