下
私に声をかけるあなたは誰なの?
私を傷つけるならば立ち去って。
交換した夜、早速メッセージが来ていた。
「俺楓!よろしくね〜!」
「私は絵里香よろしくね。」
お互いに音楽の学科だから自然と話は好きな音楽の話になった。
歌い手のことボカロPのこと好きなJpopのこと、ミックスの話…正直話していて楽しかった。
ほとんど毎日話していたと思う。
でも私は金曜日が怖かった。
顔を合わせたのはあの日が初めてだったし正直顔も覚えてないから私からは話しかけられない。
というか自分から話しかけることは怖くて出来なかった。
流行病のせいでつけているマスクの下見たら多分引くと思うしブスだから。
どうせひとりぼっち。
『期待なんてバカがすること』
期待して傷つくことが嫌な私はマスクを外していくことにした。
これで連絡もなくなるはず……。
元彼のいる教室+週の半ばで使い切ってしまった体力のせいで重くなった足を引きずっていたら授業開始ギリギリになってしまった。
出欠を取り終えたあと課題を進めようとパソコンを付けて準備していた。
すると
「おはよ!」
いつの間にか楓が横にいた。
「おはよう。」
マスクしてないのに引かないの?
逆に引いてしまう。
そこからはDMでやり取りしていた内容と同じような話をしていた。課題の進み具合とか。
あっという間に時間はすぎて昼休み。
私はイツメンとご飯を食べるからと彼と別れた。
「じゃあね。またDMするね!」
「うん。」
その日の帰り道
「ねぇ電話してもいい?」
男子って電話好きなのかな。
『蓮と付き合う前もあっちから電話したがってたね』
気づいた瞬間去年のことがフラッシュバックしてバス内で吐き気がした。
それぐらい過去の恋愛で傷を負っていた。
「ごめん。今日バイトが遅くまであるから今度でもいい?」
苦しい顔をしながら送った。
「全然大丈夫だよ〜!また都合のいい時にしよ!」
ごめんなさい。
結局土曜日に少しだけ電話をした。
楽しかったが終わってからの虚無感が凄かった。
電話をしてからもメッセージのやり取りはずっと続いていた。
たまたまやり取りをしているときに私が好きな俳優さんが出る映画を一緒に見に行く人を探すストーリーズをあげた。
それを見た途端に彼は映画の話をしだした。
ホラー映画が苦手なこととか(見たい映画がホラーサスペンスだった)誰かとなら見れるとか。
多分一緒に行きたいんだろうなー。私の事好きなんだろうなー(普段のやり取り的に)と思い
「一緒に行く?」
すぐに既読がついて一言
「行く!」
なんだかんだで付き合う前のデートの予定がたってしまった。
デート……であってるはず。
体目的とかだったら後で色んなとこに晒してやろう。
終わったあとご飯食べよとか何時に集合する?など決めて当日を迎えた。
2人で分けたポップコーンは美味しかったし推しはやっぱりイケメンだった。話も私が好きな感じだった。
映画が終わってから2人で音の話をしたり内容の話をしながらご飯を食べた。
顔はあんまり覚えてない。
私が人と目を合わせることが苦手だからだ。
楽しかったしご飯も食べたから解散かなと思っていた。
「イルミネーションが近くにあるんだけど見に行かない?会社がその近くだから知ってるんだ〜。」
季節は冬に近づいていたからやってるんだろう。
いいよ。と言いながら私の頭はあることでいっぱいだった。
『告白されたらどうするの』
未だに去年の恋愛の傷は癒えないし傷つきたくなかった。
結果から言えばその時には告白されなかった。
酷く私は安心した。
でも彼と付き合いたいのかを強く意識し始めた瞬間だった。
次の日気づけば彼からのメッセージを待っている自分がいた。
そしてメッセージが来て喜んで。電話しよと言われて喜んで。
母親に付き合っちゃいなさいよと言われてしまった。
返答に困った。
彼のこと好きなのかな。
ブーケなんて私の心から生まれないんじゃないかな。
だってよく分からないし好きの感情もよく分からないから。
次の週、好きなカフェの新作の話や映画の話で盛り上がった。
「新作飲みに行かない?」
とその日は誘われた。
「OK。じゃあ授業終わったらね。あ、でも16時30分から自習しに行く。」
「うん大丈夫!ありがとう。」
ー授業後ー
「フラぺだと寒そうだよね〜。」
「俺温かいのにしようかな!」
「私もそうする。」
店内は混んでいたから近くを歩きながら2人で飲んだ。
そろそろ鍵借りにいこうかな。と解散しようとした時
「待って。俺絵里香ちゃんのこと好きです。付き合ってくれませんか?」
とどこに隠していたのかのかも分からないブーケを差し出した。
自分の中で答えは出ていなかった。
「ありがとう。少しだけ考えてもいい?」
「うん。待ってる。」
その日はそのまま解散した。
自習中何も集中出来なかった。
ナデシコやスズラン、チューリップなどの可憐な花が集まったブーケを帰り道見つめる。
次の日共通の先生に楓がどんな子か聞いてみた。
「楓くん?真面目な子だよ。何かあった?」
「いえ。選択授業が同じで仲良くなったので。」
そんな感じで彼についての情報を集めた。
周りの評価としては「真面目」が多かった。
楽器や曲の話をキラキラした顔で話していたり聞いたりするあたり音楽に対して「真面目」なのだろう。
メッセージのやり取りや電話、遊んだ時のことを思い出す。
彼はとても優しい。彼氏としては100点だろう。
少なくとも元彼より100倍はいいと思う。
釣った魚に餌をやらないタイプでなければ。
そしてきっと彼は純粋に私のことを思ってくれている。
数日葛藤した。
イツメンにも話してみた。
「いい子そうじゃない?」
「付き合ってから考えてもいいと思うよ。」
付き合えばきっと楽しいだろうし大切にしてもらえる。
綺麗に咲いた花を愛でるように愛してくれるだろう。
でも私は忘れられなかった。
会えない寂しさも
胸元や首筋に咲いた花の痛みで心を繋いだことも
忘れ去られる寂しさも
別れる辛さも
黒いバレッタがアクセサリーケースからこっちを見ている。
『傷つきたくない』
また傷つくのは沢山だ。
『ブーケは燃やす』
これが私の選択。
こんなことをする女と付き合わない方が彼のためでもある。
少し後ろめたい気持ちを正当化しブーケを燃やした。
ライターを握った手が震えていたのは気のせいだ。
カチッ
ブーケに火をつけた。
白い可憐な花びらが黒くなり灰となる。
煙とともに空へ舞い上がる。
唐突にイツメンの言葉を思い出した。
迷いなんてとっくに無いはずなのに。
ふとスマホに目を向ける。
「返事焦らなくていいからね。俺ゆっくり待ってるから。」
彼の言葉や表情、声を思い出した。
「待って!」
ほとんど燃えてしまったブーケに手を伸ばす。
『私楓のこと好きなんだ。』
1本だけ掴んだチューリップを見て泣いた。
私は返事をした。ちゃんと面と向かって。
「私もあなたのことが好きです。でも……」
ブーケを燃やしたことを正直に話した。
嫌われたかもしれない。
だって心の表れであるブーケを燃やしたのだ。
嫌われても何も文句は言えない。
彼の顔が見れなかった。
裁きを待つ罪人のようだっただろう。
少しの沈黙が永遠に感じられた。
「……。話してくれてありがとう。ブーケのことは気にしないって言うのは変かもしれないけど俺にとってはそんなに重要じゃないんだ。そんなのがなくても俺は絵里香ちゃんが好きだよ。だから俺の気持ちは変わらない。だから顔をあげて?」
その言葉を聞いた瞬間私の目から涙が溢れた。
「いいの?本当に……。」
震える声で言う。
「うん。好きだよ。」
その言葉に胸の辺りが温かくなった。
「ありがとう……。楓くんのこと好きです。」
私の手には1本の花があった。
「これ……エリカ?」
自分で困惑する。ブーケでは無いけどなんか出てきた。
「これもらってもいい?」
「う、うん。何故か1本しかないけど……。」
「1本でも絵里香ちゃんがくれる花ならなんでも嬉しいよ!ふふっ。絵里香ちゃんがエリカの花くれた!」
真っ白なエリカの花を見て嬉しそうに笑う彼を見ていたらこっちまで嬉しくなった。
『そうかこれがちゃんとした好きの気持ちなんだ。』
「っていう話よ。」
「へぇ〜。」
「ニヤニヤしないの。」
「そりゃするでしょ!ママとパパの馴れ初めだよ?!聞いてて楽しいもん!じゃあそこからはトントン拍子に結婚?」
「そんなわけないでしょ?遠距離の時期もあったし、喧嘩することだってあったわよ。」
「でも結婚したんだ。」
「えぇ。」
「絵里香、茉白。ただいま。」
「おかえり!」
「おかえりなさい。楓。」
「パパとママの馴れ初め聞いたよ〜!」
「えパパも聞きたかったな!」
はしゃぐ楓と娘の茉白を見つめる。
茉白にもこんな相手が見つかりますように。
花瓶に目を向ける。
あの時のチューリップもエリカもまだ枯れない。
『きっとこれからも』
〜Fin〜
なんとか完結させました。
少しずつ改変していくかもしれません。
もしコメント頂ければ絵里香や楓くんの過去編とかも書けたら面白いな〜なんて。
コメントや評価、Xのフォローよろしくお願いいたします。