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3.インボイス制度施行前後に起きた批判に思う。

 と、ここまで、消費税の仕組みについて書いてきましたが。ここから、話をインボイスに戻します。


 元々インボイスの反対運動は、ツイッターでも結構前から行われていたらしいのですが、正直、私はあまり目にしませんでした。今でも、その人たちがどんな論旨でインボイスに反対していたのか、知らなかったりします。


 で、ある時、絵師やwebマンガ家がインボイス反対を訴えはじめて、一気に運動が盛り上がりを見せる。……が、あまりに雑なその主張と、マンガにして拡散するという「見せ方だけは」丁寧なそのやり方に、拡散直後に反論も一気に集まって、議論が湧き上がります。


 というか、まあ……


「インボイスで収入が一割減る! 生活できない! 収入を減らすな!」

「その一割は消費者が消費税として支払ったお金だ! ネコババせずに国に納めろ!」


 という、びっくりするほど低レベルな言い争いだったのですが。


  ◇


 あの絵師たちのインボイス反対運動の何が良くなかったのかって、本来、消費税は「消費者が税金として価格に上乗せして払っているお金」なのに、そのことは一切言及せず、ただひたすらに収入減を訴えていたところでしょうか。


……というか、そういう「そのお金は本当に利益にしていいお金なのか?」みたいな問いかけを全て放り投げて、「今まで納めなくても良かった消費税を納めさせようとしている! 酷い!」みたいな感情論で押し切ろうとするのが本当に酷かった。アレ、理解を求める運動ではなく、無理解に付け込んで扇動する政治活動というべき行為だったと思います。


――というか正直、ただの炎上商法、知名度目当ての騒ぎだったんじゃないかなぁと、今では思っているのですが。


  ◇


 売上1000万円で生業として成り立って、しかもインボイスで大きく減収となる層って、実は結構特殊だと思います。……というか、売上1000万円でも生業として成り立つほどに仕入率が低い業種自体が、かなり限られてくると思うんですよ。


 駄菓子屋さんみたいなのも影響するみたいな論調の批判を見たことがあるのですが、駄菓子屋さんみたいな安価な物を売る小売業は、原価率はむしろ高くなりがちで、1000万の売上で生活していくのは相当に苦しいと思います。


……というか、一般消費者を相手にした商売って、売上はある程度変動するはずです。小規模だと特にそうで、それこそ2倍くらいは変動してもおかしくないはず。売上1000万以下を維持したいのなら、多分「売上1000万円を超えないようにする何か」が必要だと思います。例えば「売値にして999万円分しか商品を並べないようにする」とか。要するに「売上1000万円を超える実力があるけど税金のために売上をおさえる」みたいなことをしない限り、安定して売上1000万円を下回って、でもつぶれない」なんてありえないと思います。でもそれって、本当に免税事業者でないと厳しい事業者でしょうか。私は、ちょっと違うんじゃないかと思います。


 なのでまあ、「副業として商売してる」とか「他に副業がある」とかじゃないと、一般消費者を相手にした商売で免税事業者として細々と商売するというのは、かなり微妙じゃないかなと。


 これが企業相手の商売になれば、売上は安定するし、1000万円以下の安定した売上を継続することも可能だと思います。これも過去の批判で見たのですが、トラックの運転手みたいなのだとあり得るのでしょうか。ただ、確かにトラックの運転手は商品そのものを扱っているわけでもないし、原価が無いようにも見えますが、トラックにガソリン代、故障した時の修理費に車検代とかは必要経費として原価にカウントできるようです(ネットで検索しただけのにわか知識)。……これ、案外バカにできないんじゃ無いかなぁと。


 正直、私は詳しくないので、トラックの運転手が売上1000万円でも成り立たつのかどうかはわかりません。が、成り立ったとしても、免税事業者である旨みは多分少ないんじゃないかなと。必要経費が恒常的にかかるのなら、帳簿をつけて経費処理をした方が良いと思います。


 仕入れなり経費なりがそれなりに発生する事業者は、免税事業者で有り続けるより、簡易課税事業者になった方がお得だと思います。


  ◇


 本来、生活できるかどうかは売上ではなく利益で判断すべきです。でも、免税事業者かどうかは売上で判断している。これは何故かといえば、単純に「帳簿を付けないと利益は計算できない」からだと思います。


 免税事業者というのは乱暴な言い方をすると「しっかりとした帳簿を付けるのが割に合わないほどの零細事業者は帳簿を付けなくてもいいよ」という話で、しっかりとした帳簿が無いから利益もわからない、だから売上で判断しましょうという話です。


 今まで免税になっていたのも「消費税が収益的に負担になっていた」ではなく「消費税の計算が事務的に負担になっていた」から免除されていたと、そういう話です。これ、実は「消費税の計算が大変」というよりは「消費税を計算するためにはしっかりとした帳簿を付けなくてはいけなくて、この『しっかりとした帳簿を付ける』のが大変」という話だと思います。


 でも、少し考えてみてほしいのですが。一年間に1000万円近いお金を受け取っておきながら「しっかりとした帳簿を付けるのが大変で割にあわない」なんて、本当にあっていいのでしょうか。しっかりとした帳簿を付けるのは確かに大変そうですが、それにしたって1000万円近くお金が出入りするのなら、消費税関係無しに、ちゃんと帳簿は付けるべきではないでしょうか?


 このあたりは、結局のところ「事業における経費の割合が少なく、売上のほとんどが収入になる場合は、商売上、帳簿の必要性は薄れる」という話なのだと思います。……要するに、商売の形が極めてシンプルな場合に限り、帳簿が無くてもほとんど問題が発生しない。そういう事業者が免税事業者として残っていたと、そんな話かなと。


――つまり、今免税事業者を選択できている人は、「事務手続きの負担」という意味では他の事業者よりも恵まれていて、本来想定していた「消費税の計算が事務的に負担になっていた」事業者では無い。事業の規模が小さくて帳簿を付けるのが事務的に負担になっていた事業者は、もうとっくの昔に帳簿を付けて、消費税を支払っている、そんな話だと思います。……まあ、簡易課税事業者も含みますが。


 結局ね、作家やフリーライターみたいな「企業相手に形のない物を作って売るような個人事業主」は特殊で、本来、免税事業者という形で守ろうとした事業者では無いと、そう思うんですよ。


  ◇


 つきつめれば、時代の流れということになるのでしょうか。今でこそパソコンはあって当たり前で、安いパソコンなら数万円で買えるし安いパソコンでも経理事務は問題なくできる、そんな時代になりました。……が、日本に消費税が導入されたのは1989年、インターネットが一般に普及する前です。この頃のパソコンは高価で、そもそもパソコンを使える人も限られていた、そんな時代です。言ってみれば、「零細事業者がパソコンで帳簿を付ける」こと自体が非現実的な時代だった。だから免税事業者の条件ももっとゆるくて、当時は売上3000万円以下の事業者は免税事業者を選択できたりしました。


 インターネット自体が一般的でない以上、インターネットを利用した小規模なビジネスも一般的ではなかった。個人事業主という働き方自体が、今よりもかなり珍しい時代だったと思います。そんな時代に生まれた制度ですからね、個人事業主のことがほとんど考えられていなくても不思議はないのかなと。


 それにまあ、当時は税率3%でしたからね。税率が低ければ納付を免除した時の影響も小さくなります。だから許容されていたと、そういう一面もあったと思います。


  ◇


 これまで、売上1200万だけど利益は300万みたいな事業者も、たくさんいたはずです。そういう人は、否応なく課税事業者にされてきたんですよ。それと比べるとね、売上1000万に届いていないけどその半分以上が利益になってそれで生活できている事業者というのは、原価率が低い分、楽なはずです。それなのに優遇しろ、優遇を続けろというのは、ちょっとおかしいんじゃないかなぁと。


 今までだって、税率の増加に伴って簡易課税事業者や免税事業者の上限金額は引き下げられてきてた。仕方がないねと免税事業者から課税事業者に切り替えた人もかなりいるはずです。なのに、今回だけ「免税事業者にとってあの消費税分は……」なんて言い出したら、そりゃあ叩かれるに決まってるじゃないですか。


 ぶっちゃけ、「生活できない」なんて言葉が出てくる時点で、「趣味で細々」みたいなレベルを超えています。その収入で生活しているのなら立派な事業者です。そんな人が免税事業者であることを良しとする方が、感覚的にはおかしいと、私はそう感じます。簡易課税事業者に求められる程度の帳簿でいいからつけて、簡易課税でいいから払おうよと。それでも始めは大変なのかもしれませんが、それはもう、事業者としての義務だと思います。


  ◇


 最初はプライバシー等の観点で問題があったインボイスですが、今では対策もされて、多分「一般消費者を相手にしない限りは」問題ないところにまで来ていると思います。その一般消費者を相手にした商売も、間に仲介者を挟む(BOOTHやamazon等、第三者の販売システムを使う)形の販売なら、「媒介者交付特例」という制度を使えばプライバシーを守ることができます。


 こういう問題を指摘して対応をした人はね、全部、違う人なんですよ。あのエッセイマンガを描いた人たちは何もやっていない。あの人たちは、ただマンガを書いて、理屈を気にしない賛成者を生み出して、免税事業者という仕組みを理解していた人たちを反対派にさせた、それだけです。


 消費税の益税問題を知ってる人もね、それが「ネコババ」なんて思っていなかった。消費税の理念としては事業者の利益になるのはおかしいお金で、でも制度がそうなってるし理由もわかるから「しょうがないね」と思っていた。


 その理由を無視して「あれは収入だ」と言い出した。簡易課税を使えば半分の5%はまだ受け取れるはずなのにそれを説明しなかった。揃いも揃って簡易課税に口をつぐむし、物によっては間接税であることすら否定する。


――こういう人たちのあんまりな主張で、「また」消費税の理解が歪められる。本当にね、どうにかしてほしいと思います。


 本当に反対しないのなら、ちゃんと反対しないといけない。「そもそも消費税は間接税じゃなくて直接税ですよね?」なんてアホなことが、国会でも取り上げられて質問される。それは、有限の「質問時間」を消費して行われている訳で、その分、まともな反対意見が消えていることになる。


 それが、本当にインボイスの反対やよりよい制度に修正するのにプラスになっているのか、少し考えたほうがいいと思います。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

次話以降は少し時間がかかると思いますので、気長にお待ちいただけたらなと思います。

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