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6.家族

「ふふーん。今日からユアナはナバラの家族ー。ふふふーん」


 ユアナが俺の左腕にぶら下がって揺れている。


 俺たちは行きと同じ15日を費やして冒険者ギルドに帰ってきていた。


「お待たせしました。それで、モンスターの正体はなんでしたか?」


 2階のマスター(ルーム)に案内され、しばらく待っているとギルドマスターが入ってきた。


 何か力仕事をしていたようで、服装が少し乱れている。それを直しながら、ギルドマスターが期待に満ちた目で俺を見つめた。


「あー、それなんだが、原因はこれだった」


 俺の膝の上で出されたお菓子を頬張るユアナをギルドマスターに突き出す。


「もごっ?」


 当の本人はクッキーを頬いっぱいに詰め込んで、完全にリスだ。


「ユアナ……この少女が森に入った奴を倒していた犯人だ」


「このリス……ではなく、お嬢様ですか?」


 ギルドマスターはにわかに信じ難い様子でで立派な片眼鏡(モノクル)を掛け直した。


 多分俺もこの目で見ていなかったら信じないと思う、今は完全にリスだし。  


「ああ、鳥人と人間のハーフだ。

冒険者を森を荒らす悪者だと思って倒していたらしい」


 ギルドマスターに大体の事情を説明する。

 ギルドマスターと出会ってからあまり経っていないが、その間にかなりの数の依頼をこなしているため、会うことは多かった。きっと彼ならユアナのことを話しても大丈夫だ。


「なるほど……、そういうことでしたか。ではそれで報告しておきます」


 案の定、細かいことを察してか何も言わないでくれた。


「頼んだぞ。それで、ユアナについてだが、こちらで引き取ってもいいか?」


 そしてできれば冒険者登録もさせてもらいたい。

 俺がそう言うと、ギルドマスターはもちろんだというように頷いた。


「もちろんです。ナバラさんなら安心ですね」


 ギルドマスターは銅色のギルドカードを俺に渡した。


「どうぞ、お嬢様のギルドカードです。

ナバラさんのお仲間さんということで、

Eランクにしておきますよ」


 どうやら俺のことはお見通しらしい。さすがギルドマスターだ。


 ユアナにカードを渡すと、俺の時と同じように光を発した。


「わぁっ!」


 ユアナがカードを放り投げた。


 それを予想していた俺はキャッチして目を通してみる。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ユアナ  ☆E

年齢 :14

性別 :女

種族 :鳥人


《ステータス》

魔力量:162/162

体力 :42/42

知能 :36/36

状態 :普通

属性 :命

23/23

スキル:即時回復   

   緑の手

   血液検査

ジョブ:無職→冒険者

称号 :追放されし者

   植物と仲良し

   血を読む者

   

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 体力や知能がずば抜けているわけではないのだが、魔力量が常識外れだ。魔界でもトップクラスの魔力量を持っていた俺を超えている。


 種族が鳥人だということは、どうやら鳥と人間の血を持っていればその濃さは関係ないらしい。


 属性は……命か。

雷との相性も悪くないしいいかな。


 それからスキルがすごい。


 即時回復は魔力がある限り常に回復し続けられるというものだ。ユアナの魔力量だと実質永遠だといえる。


 緑の手は植物を成長させたり、操ったりできる。


 あとは、血液検査だ。

その名の通りのスキルで、俺が鬼人だとバレたのはこれがあったからだろう。


「ふむ……ステータスに異常はありませんね」


 ギルドマスターがカードを覗き込んできた。一応ユアナを警戒していたらしい。


 ギルドマスターはギルドカードを俺に渡すように視線を送ってくる。

 カードを手渡すと、なんと追加で保護者の欄を作ってくれた。


「彼女は未成年ですので、保護者が必要なのです」


 欄には俺の名前が入っていて、いざというときの身分証明にも使えるらしい。


「ナバラー。ユアナ、お腹減った。

ご飯食べたい」


 話を聞くのに飽きたらしいユアナが俺の袖を引っ張った。


「え、さっきまであんなにお菓子食べてたのに?」


 出されたお菓子を全て完食して、それでもお腹が空いているらしい。


「ふふん! 甘いものは別腹なのです!」


 ユアナは俺たちに向かって心なしか自慢げに胸を張った。

 それから食べ物をねだって飛びついてくる。


「じゃあその辺で何か食べよう。

今日は定期市の日だ」


「やったー! ご飯、ご飯!」


 そう言ってユアナは一階に飛び降りていってしまった。鳥人の血が混じっているせいか、ものすごい身軽だ。


「あ、ちょっと待って……」


 これは余談だが、ユアナが増えて食費が3倍になった。



「うーん、どれが良いかな」


「ねえナバラ! ユアナこれがいい!

これ欲しい!」


 ユアナが防具を抱えてヨロヨロと近づいてくる。 

 足取りもおぼつかないうえに、量が多すぎて顔が隠れてしまっている。


「ちょっと持ちすぎだよ」


 急いで受け取って店内にあったテーブルに置き、ユアナと一緒にじっくり眺める。


 サイズはぴったりで良さそう。

素材も軽い物だし、動きやすそうだ。


「すみません。これください」


 会計を済ませて店を出ると、早速ユアナが買った物を装備していた。


 髪と同じ淡いピンクのローブがよく似合っている。


「やっぱり魔法装備にしてよかったな」


「うん!!」


 始めは普通の鎧にしようと思ったのだが、それだと重すぎるため魔法装備を買うことにしたのだ。


 防御の魔法陣が組み込まれたローブは軽く、ユアナの身軽な戦い方とも相性が良い。

 多少値は張ったがそれでもいいものが買えたので良しとしよう。


「むむっ! 苦しそうなお花の気配!」


 のんびりと街を歩いていると、ユアナが

突然走り出した。

 俺もその後ろをついて行く。


 これはよくあることで、ユアナが気配を察知した先には必ず枯れかけた植物がある。

 多分だけどスキル「緑の手」が関係しているのだと思う。


 今日もユアナの行った先には枯れかけた植物が……


「ってええ!?」


 角を曲がった途端、目の前に飛び込んできたのは巨大な花!

 そこら辺にある二階建ての家と同じくらいの大きさだ。

 大量にある触手を振り回している。 


 さらに触手を使って口のようなものにそこら辺の木や花を放り込んで咀嚼し始めた。


「おっきなお花さん痛がってる! ちょっと行ってくるー」


 ユアナが巨大花に向かって駆け出して行ってしまう。

 

「ユアナ!?」


 俺が止める声も聞かず、軽い身のこなしで触手を避け、どんどん近づいていく。


 一方俺の方は触手に行く手を阻まれてしまう。花を傷つけるわけにもいかないため動けない。


「お花さーん! だいじょぶそ?」


 とうとうユアナは花の近くまでたどり着いた。


 そして優しい手つきで茎に触れる。

 その瞬間、さっきまで暴れていたのが嘘のように巨大花が大人しくなった。


「痛かったねー。もう大丈夫だよー」


 巨大花を撫でていたユアナが傷を見つける。魔木の枝が刺さっているようだ。


 ユアナは枝を抜いた後、傷口に手を当てて詠唱を始めた。


「ーーこの世界の尊き生命たちよ、我に力をお貸しください。ネレトリサ・ガーナャー」


 ユアナの呼びかけに応えるように俺たちの周りを光が漂い始めた。

 そして光たちはゆっくりと傷口に集まり

、最後に強い光を放って消えていく。


「ナバラー! ちりょうだいせいこう!」


 治療を終えたユアナが俺の存在に気がつく。猛スピードで駆け寄ってきて、俺の左腕にぶら下がった。


「えらい?えらいでしょー?」


 俺の目の前に頭を突き出して撫でてのアピールをしてくる。

 完全に褒めてもらえると思っているようで、顔が緩まくりだ。


「このアホ!」


 俺はその頭を思いっきりごついた。

かなりダメージを食らったらしいユアナが涙目で俺を見つめてくる。


「いたいよぉ。なんでごつくー?」


 本人的には怒られたのがかなり予想外だったらしい。

 

 そんなユアナに俺は優しく悟す。


 定期市の肉屋のおばさんが小さい子には優しく言い聞かせろって言っていた。

 彼女は9人もの子どもを育てた強者だから、聞いておいて損はないはず。


「いきなり飛び出して行ったら危ないだろ?相手が敵だったらどうするんだよ」


「んー倒す! それかよしよししてあげる!」


「ちがーう! そういうことじゃない」


 そういう意味じゃなくて!

もしユアナが攻撃されて、しかも強くて話の通じない相手だったらどうするのかってこと!


「いいか?もしそれでユアナが怪我したら俺は嫌なんだ。だから少し状況を観察してから動くんだぞ」


 もう一度丁寧に言い聞かせると、やっと納得してくれたようだ。


「わかったー。テキをよーく見て、強さみればいいのねー?」


「うん。まあ……そうかな」


 もし俺が側にいないときに敵が出てきた場合、なるべく戦闘は避けてほしい。

 もちろんやむを得ず戦うこともあると思うが、ユアナには危ないことをしてほしくない。


「ユアナと俺の約束だぞ。頼むから危ないことはしないでくれ」


「ヤクソクッ!」


 約束という言葉を出した瞬間、ユアナが緩んだ顔を引き締めた。

 まだ幼いユアナだが、約束の大切さは理解してくれているらしい。


 ユアナの小さな小指に、自分の小指を絡める。


「指切りげんまん。破ったらだめだぞ」


「ん。ゆびきりげんまん」


 もう、四天王時代のように部下を失いたくない。あそこでは部下は使い捨てという考え方が普通だった。


 でも、あのときのような過ちは起こしたくないから。

 ユアナにはしっかり約束をしてもらおう。


「さて、帰ろうか」


「て、つなごっ!」


 俺たちは、沈みかけの夕日に向かって歩き出した。

 もちろん、しっかり手を繋いで。



 俺はユアナと宿に向かいながら考えていた。


ーーところで、この巨大花どうしよう?


 俺は、ユアナの後ろにぴったりと張り付く巨大花を見て、また食費が増えそうだなと悩んでいたのだった。


読んでいただきありがとうございました!

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