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5.仲間

「グゥぇぇぇぇぇ」 


 土クジラが鳴き声をあげながら草原を疾走する。


 丸っこいフォルムから本当に速く走れるのか疑っていたけど、マジで速い。

 クジラは海にもいるらしいけど、それもめちゃくちゃ速いのか?

 

 魔界には海がなかったからいつか行ってみたい。


 ちなみに街からナガーラの森までは広い荒地になっているため、ずっと野宿だ。


 暗くなってきたので、少し開けた場所を見つけて寝支度を整える。

 さらに夕食としてその辺にいた魔獣を仕留めた。


 魔獣の肉は毒性がある物もなくは無いが、基本的には食べても問題ない。美味しい物はそれこそ動物の肉と同じくらい美味しい。


 人間の場合は食べ過ぎると元々魔獣が持っていた魔素によって中毒を起こす事もあるようだが、まあ多分きっと大丈夫だ。

 火を起こして焼いてみたが、なかなか美味い。


「お前もいるか?」


 土クジラも魔獣だし、体も大きいから中毒の心配はないだろう。

 鼻先に魔獣の肉を差し出すと、のそのそと寄ってきて食べ始めた。

 

 短い手 (ヒレ?)を使って器用に口に入れている。


  あっという間に完食すると、その場に横たわった。

 しばらくして寝息のような音が聞こえてくる。


「もう寝るか」


 まだ日が暮れてから少ししか経っていないが、朝が早いので俺も寝ることにする。 


 土クジラのとなりで横になると、ほんのり暖かくて快適だった。



「クゥェェェェェ」


「うーん、うるさい」


 土クジラの鳴き声で目が覚めた。

 起き上がって周りを見ると、土クジラが

こっちに寄って来ている。


 よく寝られた様子で、荷車をバッチリ引いてやる気に満ちた様子だ。


「元気そうだな。今日もよろしく」


 昨日食べた肉の残りを一緒に食べ、俺たちはナガーラの森へと出発した。




 それは、俺たちが街を出てから10日目のことだ。


「ひぇぇぇぇぇ。助けてくださいぃぃ」


 土クジラと夕食をとっていると、小さな女の子がこっちに向かってきた。


 まだ6歳くらいだろうか、目に涙を浮かべて必死に助けを求めてくる。


「お父さんが、村がぁぁぁぁ」


「ちょ、待って、落ち着いて話して」


 話を聞くと、この少女はゴブリンらしく、村が魔獣に襲われて大変なことになっているらしい。


 オーガだと思って少し身構えたが、

彼女によると


「私たちは邪悪なオーガ族じゃなくて、ゴブリンだよぉー」


ということなので、大丈夫そうだ。


 今はなんとか持ち堪えているらしいが、

魔獣がどんどん増えていて今にもやられそうらしい。


 少年について行くと、村の柵が魔獣によって壊されたところだった。

 いっせいに魔獣がゴブリンに襲い掛かる。


「ダンベガロード」


 魔獣がゴブリンの喉元に噛み付く直前でギリギリ魔法を発動した。

 周囲にいた魔獣が丸焦げになる。


「グゥぅぅぅぅ……」


 残った魔獣が唸り声を上げながら俺に向かって襲い掛かってきた。


「ダンベガロード」


 弱めの雷を落として動きを止める。


 この魔法は詠唱が必要だが、細かな調整が出来る上に連続で出せるから結構便利だ。


 最後にまだ俺に向かってくる生き残り達に特大の雷を叩き込んでやった。


「久しぶりにこんな魔法連発したな」


 大抵の敵は一発で倒せる。だが今回は周りが壊れないように弱い魔法を連打したから、少し面倒だった。


「ん?」


 ふと気がつくとゴブリンたちの視線が集まっていた。


「ありがとう!んーと、ナバラさんだっけ?」


 さっきの少女がお礼を言ってくる。


「どういたしまして」


 大したことはしていないが、喜んでもらえたのなら良かった。


 少女の頭を撫でていると、なにやら髭を伸ばした長老らしきゴブリンが出て来た。


「ナバラ様!? は、破壊の鬼人……。

四天王の貴方様が何故ここに……?」


 目を見開いて俺を凝視している。どうやら俺のことを知っているようだ。


「わ、わしは40年ほど前にこの世界に追放されました」


 話を聞いてみると、武官の横領を知ってしまったらしく、口封じに追い出されたらしい。魔界から来たのは長老だけらしく、他はこの世界で生まれたゴブリンのようだ。


「村を救っていただきありがとうございます。何かお礼をさせてください」


 長老が畏敬の念を込めて申し出てくる。俺が四天王だと知った他のゴブリン達も、尊敬の眼差しで俺を見ているようだ。


「いや、別にお礼はいりませんよ。あと俺、四天王クビになったので」


 四天王をクビになったことには驚かれたが、何か事情があるのだろうとなにも聞かないでくれた。優しい。


「むむむ……。

では、ナバラ様が困った時には、いつでも助けになることにしましょう」 


 そう言って、魔石でできた何かを渡してきた。独特な光沢を持った緑色の石だ。


「ゴブリン族の秘宝です。

困ったときにこれに祈れば、いつでも駆けつけましょう」


「え、良いんですか。大切な物でしょう?」


 かなり純度の高い魔石な上に、丁寧に加工されている。はたして俺がもらっていいやつなのだろうか。


「恩人様にもらっていただけるなんて、光栄なことです。よろしくお願いします」


 そうして、なんだか英雄のような扱いをされて俺は送り出された。



 それからはひたすら荒地を進みつづけ、ついに……!


「着いたぞー、ナガーラの森!」


「くぅォォォォォォ」


 やっと目的地に到着した。


 思わず喜びのかぎりに叫んでしまった。

 周りに誰もいないし、いいかな。


「じゃあ、君はここで待っていてね」


 森の中は危険なので、土クジラは連れて行けない。残念だが森の前で待っていてもらおう。


「グゥぅぅぅぅ……」


 かなりしょんぼりしているが、しっかり言うことを聞いてその場に座ってくれる。


「すぐに帰ってくるから」 


 土クジラのためにも早く終わらせて帰ろう。


 森に足を踏み入れた瞬間、辺りの空気が一変した。森中の生き物が怯えて息を潜めているようで、やけに静かだった。


 警戒しながら歩いていくと、少し開けたところに出た。ここも生き物の気配がない。


 じっくりと観察しているとーー


「悪い人は入っちゃダメなの!」


 耳元で幼い少女の声がした。


 とっさに身構えると、何かが飛んでくる気配がする。慌てて首を右にそらすと、さっきまで頭があったところを黄色の光が通って行った。


「あれれ? んー、もういっかい!」


 少女特有の可愛いらしい声がしたと思ったら、またもや光が飛んできた。

 

 頭を下げて回避し、雷の矢を放つ。

 もちろん殺しはしないように弱めの雷だ。


「きゃあっ」


 木から何かが落下する音がした。しばらくして茂みから淡いピンクの頭が生えてくる。


「あいたたた……」


 ピンクのおさげの少女は、痛そうにお尻をさすっていたが、俺を見ると


「ヒョウテキ発見! それっ!」


 またもや黄色の光を飛ばしてきた。


「ダンベガロード」


 ジャンプで避けたあとに、毎度お馴染みの雷を少女に落とす。電力は先程よりも少し強めだ。


「わぁ!?」


 サラサラだった髪がパーマになる。

 少女は逃げようとするが、雷のせいでしびれて動けない。抵抗も出来ず、あっさりと俺に捕まってしまったのだった。



「むぅ……」


 むくれた少女が魔獣の肉を頬張る。


「それで、なんで森に入った奴を襲ったりしたんだ」


 冒険者を襲っていたのはどうやらこの少女だったようで、理由は敵だと思ったから、らしい。


「うーんとね、みんな盾とか剣とか持ってすごーく怖そうだった! だから仕方ないもん!」


 ちなみに逃げられないように一応拘束の魔法をかけてある。

 でも一定範囲内から出られないこと以外は自由にしておいた。


「ね、ね、それよりも、お兄さんすごい強いでしょ。ユアナ、なんでか気になるなー」


 少女が一瞬で機嫌を切り替えて尋ねてくる。どうやらユアナという名前らしい。


「あー、じゃあ冒険者たちのことはもういい。それよりお前はなんで一人なんだ?」


 この少女はどう見ても成人しているように見えない。こんな幼い少女を森に放置するなんて、親の顔が見てみたい。

 内心怒りに震える俺に対して、ユアナは不満そうに頬を膨らませた。


「むぅ、失礼な。

進化していないだけでもう14歳なんですー」


へー、そうか14歳か、8歳くらいだと思ってたわ……ん?進化?


「ユアナは鳥人の血が混じってるから捨てられたらしいのー」


 鳥人は遥か彼方のリシオニア大陸にいると聞いたことがある。珍しいな。


 俺が興味を持ったことが伝わったらしく、ユアナは自慢げな表情で教えてくれた。


「ユアナのおかあさんはねー、

鳥人だったんだよー」


 ユアナはリシオニア大陸にある大樹林で生まれたらしい。

 ユアナはそこで平和に暮らしていくと思われたが、そうはならなかった。


 父親が人間だったからだ。


 鳥人の血が1/4混じっている彼女は鳥人でもなく人間でもないとして故郷を追われ、ここにたどり着いたらしい。


「というわけなのでしたー、めでたしめでたし」


 ユアナがこの様子なのでよくわからないが、内容だけ聞けばとんでもない。

 

「んー? どしたのー、お兄さん」


 なんだかこの少女がかわいそうになってきた。もし行くアテがないのなら、いっしょに暮らしてやりたい。


「お兄さんも、人間じゃないでしょー」


 しんみりした気持ちになっていると、ユアナが唐突に話をぶった切った。


 鬼人だということを隠して人間になりきっていた俺は一瞬固まる。


「は……」


「なんか人間じゃない。でも半分くらい人間。なんとなくー」


 身体変化のスキルを使って角は隠してあるからバレるはずがない。


「なんかの血が混じってるー」


 ち?血がわかるのだろうか。

だとしたらかなりすごいスキルだ。


 とにかく、隠しても無駄らしいので大人しく正体を打ち明けることにする。


「あぁ、俺は鬼人族だ。

君と同じで血筋で故郷を追われた者なんだよ」


 ユアナに近づき手を差し出す。


「俺と、一緒に来ないか?」


【魔族図鑑】


ゴブリン


パワー ☆☆

知能  ☆☆☆

魔力量 ☆☆


・オーガと似たような魔物だが、ゴブリン

 の方が力では劣り、知能では勝る。

・性格は穏やか。

・共通言語を使うため、多種族との意思

 の疎通が可能。

・魔物界でのカーストは最下層。


読んでいただきありがとうございました!

少しでもいいと思ってもらえたら、ブクマ、↓の☆お願いします!

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