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1.冒険者やってみる

「今朝獲れたばかりのウネクラナの肉はいかがかねー。身が引き締まっていて、

美味しいよー」


「新鮮なオレンダはいかがー」


 街が活気で賑わう中、俺はリュック一つで歩いていた。

 

 あの後、俺は魔界を永久追放された。

 四天王ほどの力を持つものが反乱を起こしたら、魔界は無事ではすまない。

 おそらく、解任された恨みで魔界に害を与えるのを防ぐためだろう。


 ……それにしたって、すぐに追い出すことはないだろうに。


 一応、自分の持っていた大切なものは手当たり次第超大容量マジックリュックに詰め込んできた。


 だが今の俺は完全に


「家なき子、状態だな」


 そうなのだ。家もないのである。

 とりあえず今日は適当なところで野宿しよう。


 こっちの世界の金は持っていないが、貴重な魔鉱石をいくつか持ってきている。それでしばらくは生活できるだろう。

 幸いにも俺はこの世界の監視が本業だったため、ある程度の知識はある。なんとか生きてはいけそうだ。


 そうして街をふらついていたとき、

俺の耳はかすかな唸り声を捉えた。

 

 だが気づいたのは俺だけみたいだ。普通の人間は魔族ほど耳が良くないのかもしれない。


「ガルルルル……」


 音の発生源はどうやらすぐそこの路地裏にあるらしい。正体を確かめようと一歩踏み出したとき、


「きゃあっ」


 突然、路地裏から黒い影が飛び出してきて目の前を歩いていた少女に襲いかかった。


 少女はなんとか逃れようともがくが、

腕に噛みつかれて離れることができない。

街を歩く人々は、ただ呆然とするしかなかった。


「Cランク魔獣、ヤルバデナか……」


 たった一人の男を除いてはーー。


「あまり美味しくはなさそうだな。ーーダンベガロード」


 男が詠唱を唱えた瞬間、少女の首筋に噛みつき、その命を奪おうとしていた魔獣が消えた。否。灰になったのだ。

 

 ナバラの詠唱によって生まれた雷が、魔獣を焼き尽くしていた。


「大丈夫か?」


 少女の元へ駆け寄り、怪我を確認する。

噛みつかれた右腕がかなり痛々しい。

もしかしたら病原菌が入っているかもしない。

 早く消毒液をーーいや、めんどくさい。


「アヌセダーヤ」


 こっちの方が早い。

 そんなに得意ではないが、一応使える治癒魔法をかけて治療する。傷は跡形もなく消え、元の滑らかな腕に戻った。


「それじゃあ、お大事にね」


「あ、ありがとう……」


 もう日が暮れかけている。いい感じの場所を探さないと、野宿も満足に出来なくなってしまう。


 俺は大急ぎで立ち上がってその場を立ち去ろうとした。

 歩き出して、自分に視線が集中していることに気がつく。


「どうしましたか?」


 俺の顔に何かついているのだろうか。


 次の瞬間、


「ありがとう!!」

「すごーい!」


 歓声が沸き起こった。街の人々が興奮気味で話しかけてくる。さらに、優しい人たちが何かお礼をしたいと申し出てきた。

 自分のことではないのに、なんて良い人たちなんだ。


 好意に甘えて、どこか泊まれる場所がないか聞いてみる。


「あぁ、そりゃあ……」


 ちょうど近くにいた果物屋のおじさんが、さっき助けた少女を見る。


「コナザバードさんのところだな。

嬢ちゃん、案内してやれ」


 なんと、助けた少女は宿屋の主人の娘さんだったらしい。だから身なりが良かったのか。


 少女の案内で宿まで行くと、ものすごい勢いで感謝され、ただで泊まらせてもらえることになった。

 なんだか今日は良い事ばかり起こっている。クビになっていなければ、だが。


 正直言ってだが、俺は四天王の職に対して未練タラタラだ。

 四天王としての仕事はとても充実していた。あの職場は、多少ブラックで、ほんの少しだけ魔王様の頭が悪くて、ちょっとだけ他の四天王の性格が悪いだけなのだ。


 でも、戻るのは無理だ。そもそも追放された時点で魔界での居住権を剥奪されている。できるだけ方法は探してみるが、諦めた方が良いだろう。


 過ぎたことを気にしていても何にもならないので、新しい職を探して宿屋の主人に何か良い仕事がないか聞いてみる。


「ナバラ様!?

そ、それなら街のギルドに行って見れば良いかと……。

場所ですか? 場所はここです」


 後日、教えてもらったギルドに行ってみる。どうやら冒険者の集うギルドらしい。


 かなりしっかりした石造りの建物で、入り口近くに武器を持った人達が沢山いる。


 たむろするガラの悪いやつらに睨まれたが、魔獣を撃退するのと同じ要領で負けじと睨み返したら慌てて逃げて行った。


 「すみませーん。

ここって冒険時ギルドであってますか?」


 ギルドの中は思ったよりも大きく、

仕事を求める勇者パーティーがざっと40組はいた。


「よぉ、兄ちゃん。見ない顔だな」


 歩いていると、結構たくさんの人が話しかけてくる。みんな困っていたら助けになると言ってくれて、本当に良い人間ばかりだ。


 受付のようなところに行ってみると、綺麗なお姉さんが1人で対応していた。男衆がどうでも良い用事を口実に行列を作っている。


「ご用件をお伺いします」


 並ぶこと数十分、やっとお姉さんのところまで辿り着いた。

 確かに可愛い。素朴な街娘という感じが良い。そして胸がデカい。これはこのお姉さん目当てで冒険者になったやつも少なくない気がする。


「冒険者登録をしたいのですが、ここで会っていますかね?」


「ええ、ここでできますよ。こちらをどうぞ」


 お姉さんのはテキパキと手慣れた仕草で何か紙に記入すると、銅色のカードを渡してきた。 

 受け取って眺めていると、カードが突然光りだす。


「うおっ!」


 びっくりして思わず放り投げると、それを受付のお姉さんがキャッチした。そしてカードに視線を落とすとーー


「あら? ……失礼します。ここで待っていてくださいね」


 驚いた様子で2階に駆け上がって行ってしまう。しばらくすると、スーツに丸メガネのいかにも仕事ができそうな人が階段から降りてきた。


「はじめまして、ギルドマスターの、

ダロゲッタと申します」


 どうやらギルドマスターらしい。ギルドマスターは俺を2階のマスター(ルーム)へと案内した。


「先程ギルドカードを拝見したところ、かなりの実力者のようですな。

あなたは一体誰なのですか?」


 えー、元四天王です。本当の仕事が暇すぎるせいで、表舞台にも出てこず、他にやった仕事は他の大臣の功績にされた、可哀想な元四天王です。


「ただの一般国民です。

それよりギルドカードってなんですか?」


 ギルドカード、ギルドカード言われても、それが何なのか分からない。多分さっきの銅色のカードのことだと思うが、一体何が書いてあるのだろうか。


 ギルドマスターが、さっきのカードを渡してきた。


「これをどうぞ。これがあなたのカードです」


 カードに目を通してみる。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ナバラ・コーリス  ☆F

年齢 :?

性別 :男

種族 :人間(?)


《ステータス》

魔力量:135/135

体力 :93/93

知能 :89/89

状態 :不明

属性 :雷

73/73

スキル:身体変化

   消滅

ジョブ:無職→冒険者

称号 :不運

   風神の加護

   追放されし者


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 なんだかよくわからないが、これが俺のステータスらしい。

 

 さっきカードを触っただけなのに、ここまで細かく出るのか。ギルドカード、恐るべし。


「カードの一番上にある星は、あなたのギルドランクを表しています。一番下のFですね」


 冒険者にはギルドランクというものが存在するらしい。これからどんどん上がっていくのか。

 それにしてもこれの見方が分からない。


「まず魔力量ですが、宮廷魔導師くらいは普通にあります。異常です。

次に、雷魔法のレベルですが、おかしいです。ぶっ壊れています」


 俺の気持ちが伝わったのか、ギルドマスターが丁寧に解説してくれる。


 そこまでおかしかったのか。だが、ステータスはチェックしたことなかったが、一応四天王だったからな。


「体力は武道家レベル。

知能は……、その辺の国の策士くらいですね」


 まぁ、四天王だったわけだし、ある程度の知能は必要だったからな。でも策士くらいレベルが高いのは意外だ。


「こちらを見てください」


 説明を終えたギルドマスターは俺に謎の紙を渡してきた。俺を呼んだのは何か話したいことがあったからのようだ。


「今、(わたくし)どもは強い冒険者を探しているのです」


 紙には、「ナブラサナに現れたダンジョンの調査」と書かれている。どうやらダンジョンの調査をして、報告書を書けば良いらしい。報酬は150000ゼナで、かなり良い。


「ここ数週間前、突然ナブラサナにいきなり魔物反応が出ました。とても強力なものです」


 魔物反応とは特殊な魔術具が感知する魔力のことで、冒険者ギルドには必ず置いてあるらしい。なんでもダンジョンが形成されたのを感知して、ボスの能力値とかも出してくれるとか。


 ちなみにだが、討伐完了の確認もこの魔術具でやっているらしい。

 基本的にダンジョンは魔獣が無限湧きなのだが、ボスが倒されると魔物反応がゼロになるとか。


 ここまで聞いて気がついた。ギルドマスターはおそらく俺にこの仕事を依頼したいのだ。

 難易度Sは初仕事には厳しいような気がするが、150000ゼナは大きい。引き受けるしかないだろう。


「調査に行った人たちは、みんなキング級のモンスターがいたと言っていて、怪我も酷くて……。誰も行きたがらないのです」


「良いですよ。引き受けます」


「あなた様にはどうかこの仕事を……ってはい?」

 

 言葉を連ねて頼み込んでいたギルドマスターが驚きの声をあげる。あんぐり口を開けてものすごい間抜け面だ。


「だから、良いですよ。それ、やります」 


 やるならば、なるべく早い方が良いだろう。装備は、軽いものだがマジックリュックに入っているから問題ない。


「終わったらここに戻ってきますね。

それでは」


「お、お気をつけて……」


 俺は装備を整え、地図を頼りにナブラサナへと出発した。


読んでいただきありがとうございます!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 元魔王軍幹部モノは好きで楽しみです [気になる点] 一人称視点の地の文で、俺は~と書くところでナバラは~と数ヶ所なっていました
[良い点] 最強の四天王の無双展開が楽しみですね!
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