17.パーティ
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どうもはじめまして。
私は、ダロゲッタと申します。
え? 誰ですって? いやいや、ご冗談を……。
……まさか、本当に分からないのですか?
まあ、仕方ありません。皆さんには、いつも「ギルドマスター」と呼ばれています。そうです。やっとお分かりいただけましたか。
さて、わたくしには最近楽しみができました。
皆さまお察しのようにナバラ様御一行です。
まずナバラさんです。
ナバラさんはとにかく規格外ですね。
ギルドカードで出た数値では、魔力量、レベルを考慮すると宮廷魔法師、いや大魔導師をも軽く凌駕しているでしょう。
さらに並ならぬ運動神経、知性とあればもう完璧です。
天は二物を与えずということわざはどこに行ったのでしょうか。
まあきっと、ナバラさんは努力なさったのでしょう。
続いて、ナバラさんが依頼の後に連れてきたユアナさんです。
彼女がナガーラの森に出ていた魔物と言うことで、とても驚きましたよ。しかもギルドカードで調べたところ、彼女も数値が物凄かったんです!
なんと魔力量は脅威のナバラさん超え!
レベルはまだまだ未熟のようですが、これから鍛えていけば物凄いことになるかもしれません。
あと、彼女はどうやら鳥人のようです。
教えていただいた時は、信頼されている気がして嬉しかったですよ。
私は人間以外の種族を理不尽に差別することが無いので、そこはご安心ください。
私も昔『北星の風』という名前のパーティを組んでいたことがあります。
私自身も『風の弓使い』なんて言うカッコいい異名をつけられたSランク冒険者だったりしたんですよ。
だから分かります。
ナバラさん達は物凄いです。何がと言われましてもよく分かりませんが、冒険者としての勘が言っています。
彼らは凄いです。きっと、そのうち勇者にでもなってしまうでしょう。
「ギルドマスターいますか?」
「ますたー!」
「し、失礼します」
おやおや、噂をしたらナバラさんが。
ハッ! 後ろにいるのは……美女! これは詳しく聞かなければ!
では、またの機会にお会いしましょう。
……私は誰に向かって話していたのでしょう?
「シノブ、ここで冒険者登録をするんだよ」
「そ、そうなんだな」
「シノブさん?」
俺達はギルド街を歩いていた。
少ししか経っていないはずなのに物凄い久しぶりな気がする。
緊張して口調がいつもより厳しいシノブとユアナを連れ冒険者ギルドに入る。
すると、空気がザワッと揺れた。
「うおっなんだあの美人」
「おいっ、あいつは『新星』ナバラだぞ!
下手言ったら殺される!」
「なんか……増えてね?」
と、名誉なのか不名誉なのか分からない呟きを聞き流してマスター室に逃げ込んだ。
「ナバラって、有名人なのか?」
「いや、俺も知らん」
「ナバラ、ゆーめいじん!」
そこそこ有名なのは知ってたけど、『新星』なんて言う異名までつけられているとなると恥ずかしいな。
「お待たせしました。……おや、はじめまして。ギルドマスターのダロゲッタと申します」
「はじめまして。シノブだ」
ああ、シノブがポーカーフェイスに戻っている。完全に緊張でやられてるな。
「シノブの冒険者登録をしたいんだ。頼めるか?」
「ええ、お任せください。すでにカードは持ってきております」
流石ギルドマスターだ。準備が良い。
「シノブさん、こちらのカードを手に持ってください」
「わ、分かった」
さてさて、シノブの数値はどうだろうか。俺の見立てではかなり良いと思うんだよね。
とか考えていたら、カードが光った。
「ひぇっ」
案の定シノブもカードを放り投げたので、すかさずキャッチして物色する。
「ユアナにも見せてー!」
ユアナも横から覗き込んできた。
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シノブ ☆F
年齢 :17
性別 :女
種族 :人間
《ステータス》
魔力量:46/46
体力 :127/127
知能 :63/63
状態 :普通
属性 :風
12/12
スキル:隠密
投擲
ジョブ:忍び→冒険者兼忍び
称号 :忍びの姫
隠密
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あらまあこれは物凄い運動神経ですね。
常人離れし過ぎですよ。
「意外と魔法も使えるんだな」
「物を投げる時に風の魔法で補助してたから……」
魔力量は平均値だが、体力はヤバいな。この間ギルドマスターに教えてもらったのだが、このカードでは大体50が平均らしい。
属性ごとのレベルでは10行ったらそこそこって感じだとか。
3桁なんて聖人レベルでないとあり得ないって言われた。
俺達は3人とも『規格外』のレッテルを貼られてしまった。
「パーティ申請はどうしますか?」
パーティ? って何ですか?
「普通の(・・・)冒険者は仲間と助け合って冒険をします。そのためにパーティを組むんです。普通の冒険者はですけどね」
「お願いします」
とても「普通」を強調された気がしたが、確かに仲間はいた方がいいだろう。作業を分担できて効率が良い。
「パーティ名は?」
「うーん、何が良いと思う?」
試しにシノブとユアナに聞いてみると、2人はおしゃべりに夢中で何も聞いていなかった。悲しい……。
もういい! 1人で考えるもんね!
できれば3人の要素を入れたいな……
「ユアナは、命かな。シノブは投げ道具、忍者。俺は、何だろうな?」
「家無しは?」
「ん? ああ、確かに」
家無しか。確かに俺は追放者、ユアナも追放者、シノブは家出少女だからなぁ。
でも、それだけだと寂しいな。
「ナバラー、しんてのーの時のいみょーは?」
「ん? 『慈悲の雷』って呼ばれてたよ」
「あっ、じゃあ『慈悲の家無し達』とかは?」
慈悲の家無しってどういう意味だよ!?
「『慈悲の家無し達』ですか! 良いですね! それにしましょう」
謎にノリノリなギルドマスターによって俺達のパーティ名は『慈悲の家無し達』になってしまった。
ちょっと、いやかなり恥ずかしい……。
無事に手続きを済ませてギルドマスター室を出ると、見知らぬ冒険者達が押し寄せてくる。
「親分、わしをパーティに加えてくれや」
「旦那ぁ! おれも!」
どこから伝わったのか俺たちがパーティを組んだことが広まったらしい。凄いスピードだ。
「いや、人は足りてるので」
ん? いや人族は1人しかいないんだっけ? まあ良いや。
とにかくこれ以上仲間が増えると仕事も増える。それは断固として阻止せねば。
「そんなこと言わないでくださいよ!
よっ! 『慈悲の家無し達』!」
「「「マーセフル・ハウスレスッ!」」」
とうとうおだててパーティに入れてもらおうとし始めた。これもどこから知ったのかパーティ名まで唱え始めた。
「そう! まーせふるはうすれす! おぬしら、なかなかみどころがある。よいだろ……もごもご」
「ちょっとユアナは静かに」
これが共感性羞恥心というやつか?
物凄い恥ずかしい。早くここから逃げよう。
シノブの方を見ると、こちらも複雑そうな顔をして立って……違う! 人見知り発動して固まってるだけだ!
「シノブ! ユアナ! 逃げるぞ」
「りょーかいっ!」
この状況じゃ転移を発動するのが面倒だ。
かくして、俺たちは迫りくる群れから全速力で逃げ出したのだった。
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マーセフル・ハウスレス……ふふっ。私は少し笑ってしまいました。ごめんなさい。