12.配下
「こ、こらー。通せ……です」
「長老を出せー……です」
犬のような魔物達が木の枝片手に結界を叩いている。身長は俺の腰までくらいで、小さい声で必死に何かを言っているようだ。正直言って全く怖くない。むしろ可愛い。
「わしはここですよ。どうしましたか」
長老が優しい笑みを崩さずにコボルトの1人に近づいていく。どうやら彼らのリーダーらしい。もしかして仲が良いのだろうか。
「あ、長老さん! 援軍に来ました!」
「え、援軍……?」
コボルト達は長老の姿を見ると安心したように柔らかい笑みを浮かべた。今まで余程不安だったのか目尻に涙が浮かんでいる。
「魔人がこの村に攻め入ったという話を聞きました! それで援軍に……あっ、あいつです!」
「アッ、ハイ……。それ多分俺のことです」
話している途中で俺の存在に気がついたらしい。指差しながら恐怖で震えている。
一方長老の方は何を言っているんだと言うように首を傾げると、
「あのお方は我が村の守護者、ナバラ様ですよ。この間話したではないですか」
「え、えっ……?」
俺が敵で無いことを説明してくれた。コボルトはあまりの驚きで俺を見つめたまま固まってしまっている。
おそらく友達の村に敵がいると聞いて急いで駆けつけてくれたのだろう。そう思うと少し可哀想になってきた。
「た、確かに……。あ、あの四天王のナバラ様ですか!? ヒエェ……お許しくださいませぇ」
我に返ったコボルトの1人が、地面に頭を擦り付けるように土下座を始めた。コボルトのリーダーだ。今の反応を見ると、彼も俺のことを知っているらしい。
他のコボルトは良く分かっていないようできょとんとしたまま俺を見ている。
「あ、別に大丈夫ですよ。顔を上げてください」
「ふえぇ……殺される、殺されるぅ」
「いや大丈夫だから」
ここに来てやっと残りのコボルトも状況を理解したらしく、全員で身を寄せ合って震えている。可愛い。
俺はそのコボルト達の目の前に立った。所々から「ヒェッ」と言う声が聞こえる。
「俺がこの村の守護者のナバラです。別にあなた達をどうこうするつもりはありませんよ。安心してください」
「ナバラ様は魔界でもお優しいと有名だったお方です。あなたも覚えているでしょう」
「そ、そう言えば……」
長老の言葉で落ち着きを取り戻した様子のコボルトが俺の目を見つめて言った。
「わ、たしも長老さんと同じで元々魔界に住んでいたコボルトです。先程は申し訳ありませんでした」
このコボルトも元々魔界にいたらしいし、意外と多いのかな?
気になって聞いてみると意外なことが分かった。
「わしらのような弱小種族は地方の武官や上位種の気まぐれで追放されることが多いのです」
「さらに魔界で生まれた魔物はこちらで生まれた魔物より強い力を持つので、わたしの知っている同じような境遇の者は大抵種族の長です」
俺はずっと魔王城に篭って仕事をしていたので知らなかったが、こういうことは良くあるらしい。
さらに、魔界で生まれた魔物は力が強いと言うのも初耳だ。でも、あの危険な魔界とは違ってこの世界では強い力が必要無いのかもしれない。
「な、ナバラ様……」
コボルト達の視線が俺に集中している。深く考え込み過ぎていて気が付かなかったようだ。
「ん?どうした」
俺が話しかけると、一瞬ためらうような仕草を見せた後に全員揃って土下座した。
「わたし達を配下に加えてくださいませ!しっかり働きます!」
代表してコボルトのリーダーが俺の配下になりたいと申し出る。
俺の方は突然のことにびっくりだ。
「え、なんで?」
「近年、魔物が力を強めてきています。そんなやつらに対抗するために、是非ともあなた様の庇護下に入れていただきたいのです!」
ゴブリン村を襲っていた魔獣のように、コボルトの村に攻めてくる魔物も少なく無いらしい。
コボルトは下位の魔物だ。多少知恵があるが、力も無いため攻撃されたらあっという間に滅ぶだろう。
「……それに、わたしは昔からナバラ様の大ファンだったのです」
コボルトのリーダーが懐から何やらカードを出してきた。それを自慢げに差し出してくる。
「えーっと会員番号1000923番 ナバラ教……ってなんだ?」
声に出して読んでから首を傾げる。長老の方を向くと何やら彼もカードを出していた。心なしか自慢げに見えるのは気のせいだろうか。
「わしは会員番号1000922番です。あやつとはナバラ様への愛を競いあった仲なのです」
「何をっ。1つ番号が早いからって偉いわけでは無いんだぞ」
そのまま2人で言い合いを始めてしまった。慌てて仲裁に入ってナバラ教について詳しく訊ねる。
「ナバラ教は、ナバラ様を崇拝する者の集まりです」
「わしらのような下位の魔物だけでなく、名家のご令嬢なども入信しております」
「ナバラ様の名のもとには皆平等なのです」
どうやら俺を教祖とする謎の宗教ができていたらしい。ナバラ教の話をする長老とリーダーのセリフが完全に怪しい宗教の人だ。
「ソ、ソウナンダ……」
さっき名家のご令嬢方も入信しているって言ってたし、俺が知らないだけでそこそこ大きい宗教なのか?
「ナバラ教は魔界の3大宗教の1つですよ。ご存じ無かったですか?」
長老が不思議そうな表情で尋ねてくる。
一方俺の方はあまりの驚きで内心嵐が吹き荒れていた。
俺の知ってる3代大宗教と違う!
俺の知ってる3大宗教は、ガズール教、ゲイン教、ネソリナ教だったと思う。俺が城で仕事をしていた50年の間に一体何があったんだ。
「現在の3大宗教はガズール教、マリア教、ナバラ教となっております」
コボルトのリーダーが混乱する俺に説明してくれる。
まあ、なんだか俺が城に篭っている間にいろいろあったらしい。
あの頃は激務すぎて外に目を向ける余裕なんて無かった。何せ凡界の監視をしながら大量の書類や会合をこなしていたからな。謎に他の四天王の仕事と凡界にばかり詳しくなってしまった。
「ナバラ様はその美しさと勤勉さ、さらに鬼人からの成り上がりで多くの方から支持を集めております。そんな教祖様が目の前に……ふふふ」
コボルトが若干変態じみた目で俺を見てくる。少し居心地が悪い。
「うん、分かった。よし、この話は終わり! 俺はコボルト達を守護する。長老もそれで良いですか?」
「ありがとうございますナバラ様。これでわしらも安泰です」
「「「ありがとうございます」」」
コボルト達から歓声が上がる。口は出さなくてもしっかり話は聞いていたようだ。
こうして、コボルト襲撃(?)事件は無事に収まり、俺の守護者としての立場が増したのだった。
……次からはしっかり社会状勢も気にしよう。
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今、このお話のもう少し先の部分を書いていたのですが、当初主人公候補に上がっていた人物が登場する予定です。彼は私の推しなので、つい前に出し過ぎてしまうかもしれませんが許してください。