11.引っ越し
「私はお前の部下になることにした。別になりたいわけでは無い。負けたからだ。勘違いするなよ」
俺たちの部屋にやってきたシノブはそう言い放って、そのまま自分の部屋に戻って行ってしまった。
「なあユアナ。部下になるってどう言うことだと思う?」
「うーん。負けたからグンモンに下るってヤツ?」
「やっぱりそうなのか。シノブも武道派な考え方だよな」
強者に従うってやつ?なんだかそんな考えを見たばかりのような……あっ、ゴブリンだ!
そうか、シノブはゴブリンと同じ思考回路なのか。そうかそうか。
「ナバラ。なんか変なコト考えてない?」
勘の鋭いユアナが俺の思考を見抜いたように問いかけてくる。
ギクッ!い、いや、そんなことありませんけど?別にシノブがゴブリンと同じって面白いなとか思って無いですし?
「ふーん。まあ、キョウだけは見逃してやろう」
必死で心の中で言い訳していると、物凄く冷たい目で見られはしたが見逃してもらえた。
「あ、ありがとう。ところで、結局シノブはどうしようか」
仲間が増えるのは嬉しいんだけど、ユアナに巨大花にシノブまでもとなると宿に住むのでは限界があるぞ。金銭面では問題無いけど、そろそろ広い場所に引っ越したい。
「んー。仲間にする!それで、広いトコいく!」
うーん。広いところね。できれば人があまり多いところは避けたいな。どこかあったっけ?
その時、ふと自分の首にひんやりとした感覚を覚えた。ゴブリンの長から貰った秘宝、それをネックレスにして首にかけていたのだ。
「ゴブリン族の村はどうだ? 長老に聞いてみるけど、多分大丈夫だぞ」
あそこなら広いし、人もそんなに多くない。それに、土クジラを使うとここから結構かかるけど、俺の移動速度なら多分3時間くらいで着く。というか1回言った場所には転移魔法を使えるから一瞬で着く。
「私は構わない」
ユアナにしてはやけに大人びた声が聞こえた。
後ろを振り向くとシノブがユアナを膝に乗せて座っている。ユアナはシノブに撫でられてご満悦な様子だ。
「ユアナも良いよね?」
「うんっ!」
とても平和で羨ましい光景である。シノブの口調がユアナに対しては優しいのは気になるけど。
「じゃあ、ゴブリン族の長老に聞いてみる。少し待っててくれ」
えーっと、転移、転移っと。
空間干渉系の魔法は細かい操作が必要だから少し大変だ。だが、無事に術式を構築することができた。
「転移」
「な、ナバラ様!?」
長老の驚いた声が聞こえた。どうやら転移は成功したようだ。安心して目を開けると、目の前に腰を抜かした長老がいる。
「こんにちは。今日は大切なお話があって来ました」
長老の家まで案内してもらった。家と言っても乾燥した草木を組み合わせた粗末な物だ。多分強風が来たら1発で吹き飛ぶ。
だが入ってみると、中は意外にも広い。家具も置いてあって快適そうだった。
「こんな粗末な家ですみません。どうぞご用件をお伺いします」
「簡潔に言うと、ここに引っ越したいんです」
「は、はあ……」
引っ越してくる予定のメンバーや引っ越す理由など諸々のことを説明したら、あっさりOKが出た。
「家は自分達で建てます。ただ、村の近くに土地を貸していただきたかったんです」
「もちろんナバラ様とそのお仲間なら大歓迎でございます。どこでも自由にお使いください」
「ありがとうございます。本当に助かります」
と言うことで、無事に引っ越しの許可が出た。あの土地はゴブリン以外には住んでいないらしいし、多分住んでも大丈夫だ。
俺から差し出したのはゴブリン村を守れる戦力。ゴブリン達には住むための土地を貰った。Win Winの関係だ。
「じゃあ、準備のために1回戻ります」
「ゴブリン一同、お待ちしております」
俺は長老の返事を聞きながら術式の構築を始める。2回目だからかさっきよりも簡単に完成した。
「転移」
「うひゃあ!」
ユアナの驚いた声が聞こえた。ゆっくり目を開けると、シノブに抱きついているユアナが見える。帰ってきたようだ。
「大丈夫だって。引っ越しの準備を始めよう」
「おー!」
俺達は、自分の荷物を各々まとめ始めた。と言っても俺とユアナは冒険者、シノブは家出娘なため、ほとんど荷物なんてない。5分もかからず終わった。
宿の主人とその娘に引っ越すことを伝えたら、例のごとく物凄いごねられたのだが、それはまた別の話で。
「それじゃあ、魔法陣の中に入ってくれ」
「りょーかいっ!」
ユアナを抱えたシノブが魔法陣に入ったのを確認して、術式の構築を始める。今回は人数が多いので少し魔素の使用量も多めだ。
「転移」
術式を発動した後もしばらく時間がかかった。シノブとユアナの魔素エネルギーを読み取って転移させているらしい。
数秒後、見慣れた荒地に着く。ゴブリン村の近くだ。
「着いたのか?」
「ついたのー?」
ユアナとシノブも固く閉じていた目を開けて辺りを見回している。とは言っても、周りは荒地とゴブリン村だけだから何も無いのだが。
「とりあえずゴブリン達に挨拶しに行こう。こっちだ」
ゴブリン村に向かっていて気が付いたのだが、やけに周りが静かだ。人の気配はあるのだけれども、音が無い。
「少し急ごう」
心配で少し早足になる。徐々にゴブリン村の全貌が見えてきた。
「うわ……。何あれ」
「マモノたくさんいるー」
「……ちょっと張り切り過ぎだな」
そこにはなんと、長老を筆頭としてゴブリン達が跪いていた。長い間その体勢だったようで、長老の手足がプルプルしている。
「ヤバイ! このままだとゴブリン達が筋肉痛になる! 急げ!」
全力ダッシュでゴブリン達の前に行った。とりあえず全員にその体勢をやめて楽になってもらう。
案の定、ゴブリンの中には体力を使い果たして動けなくなっている者もいた。例えば長老とか。
「こ、此度はこの土地に移り住んでくださるということで……感無量です。あなた様ならこの土地の守護者となり、栄えさせることができるでしょう」
長老が震えながら祝辞を述べてくれる。汗と涙で顔がぐちゃぐちゃだ。
「あ、ありがとうございます。改めて、
ナバラ・コーリスです。よろしくお願いします」
「おお、ありがたや……」
俺は一度この村に来ていただけあってすぐに受け入れられたようだ。中には感動して涙を流している者もいる。
「ユアナですっ! よろしくねー! こっちはお花ちゃんだよー。仲良くしてねっ!」
ユアナの可愛らしい挨拶も無事に認められたらしい。巨大花も利口そうにお辞儀をして、ゴブリン達をびっくりさせている。主に子ども達から人気になりそうだ。
「シノブだ。よろしく」
「ヒェッ……」
で、最後のシノブが問題だった。何せ腰にはナイフーーシノブによるとクナイと言うらしい。をびっしり下げ、鋭い眼光で睨んでいるのだ。ゴブリン達が完全に怯えている。
「あ、えっーと。少し怖いかも知れないけど良いやつだから是非仲良くしてやってくれ」
「ハイ……」
うん! 問題はありそうだけど、とりあえず挨拶完了!
「じゃあ、俺達は準備があるから。終わったら戻ってくるね」
急いで準備をしないと日が暮れてしまう。俺は平気だけど、シノブやユアナを固い床に寝かせるのは罪悪感がある。
大急ぎで目星をつけていた土地へ移動し、家を建て始めた。とは言っても、俺の魔法で大体のことはできるため、組み立てるだけだ。建材もゴブリン達が用意してくれたのか、綺麗に角材になっているものが置いてある。
「えーっと、あれは切断で、これと鋼糸でくっ付けて……」
魔法を使ってどんどん加工していく。魔法って便利だね。
「で、最後に硬質化」
これで完成! おそらく下級の龍では傷もつけられないような物凄い家が出来た。内装もバッチリだ。
「ナバラー、もうできたのー?」
「完成したぞ。しっかり全員分部屋があるからな」
ついでに水の出る術式を組み込んであるため、上下水道完備だ。いやー、魔法って本当に便利。
家なんて作ったことが無かったためほぼ魔法頼りだ。もう魔法が無いと生きていけない。
「あれ? そういえばシノブは?」
「村のゴブリンとコウリュウを図るそうです!」
「大丈夫かな……」
心配になったので村に行ってみると、何故だか無事に馴染んでいた。主に熟年の方々と仲良く話している。
「シノブちゃんは本当にスタイルが良いねぇ。ほら、私の息子とかどう? 村1番のイケメンって有名なのよ」
「あ、え、えっと……」
話し好きの方々に捕まって動けなくなっているようだ。まあ、楽しそうなので良しとしよう。
「あっ、ユアナちゃん! 一緒に遊ぼう!」
「うん! 今行くー!」
ユアナも小さい子と仲良くしていてとても素晴らしい。だが、14歳のはずなのに何故だかゴブリンの子ども達よりも幼く見えるのは不思議だ。
「ナバラ様! これどうぞ! 森で採れた木の実です!」
「ありがとう」
思っていたよりも村に馴染めている。とっても素晴らしい。
「な、ナバラ様……」
「あっ、長老! こんにちは」
完全に跪いていたせいでダメージを受けている長老が家から出てくる。杖を持っていて今にも倒れそうだ。
「ナバラ様、この村を守ってくださりありがとうございました。本当に感謝……」
「いえいえ、当然のことをしたまでですよ。あっそういえば、この村の家に強化の魔法かけても良いですか?」
「ありがたや……」
無事に許可が下りたので硬質化の魔法をかけることにする。1つずつやるのは面倒なので、範囲魔法で一気に発動する。
「硬質化」
それぞれの家に光の粒子が降り注ぎ、表面を覆った。
前来た時から家の強度が気になっていたのだ。多分だが、俺の1番弱い魔法弾で弾け飛ぶ強度だと思う。強化できて良かった。
「あと、村の周りに結界張っておきました。敵が弾かれる仕様です」
これで敵が攻めてきても大丈夫なはずだ。安心して生活できる。
何故だかこの村の守護者として祀りあげられてしまったので、しっかりそのその役目を果たさないといけない。言われ無くてもやるつもりだったけど、お世話になるからにはしっかり対価を払わないと。
「この村は平和ですね。静かでとても良い」
「ありがとうございます。以前ナバラ様に助けていただいた時から攻められることが無くなったのですよ。おそらくナバラ様の噂が広まったのでしょう」
束の間の休息だ。四天王になった50年前から働きづめで、追放された後も忙しかったからな。
ここでしばらくはゆっくり……
「コボルトが攻めて来ました!」
俺達の和やかな雰囲気は、顔面蒼白になって走ってきた兵士によって打ち砕かれる。
「な、ナバラ様ぁ! 助けてください」
「分かった分かった。結界で入れないようになっているからそんなに焦らないでくれ」
「ふええ……」
涙目の兵士達をなだめながら、ナバラはコボルトがいるという場所に向かったのだった。
……俺って、一生ゆっくりできないのかな?
【魔族図鑑】
コボルト
パワー ☆
知能 ☆☆☆
魔力量 ☆
・犬の頭に人間の体を持つ。
・性格は非常に穏やかで知能が高い。
・共通言語を使うため、多種族との意思
の疎通が可能。
・魔物界でのカーストはゴブリンと同
じく最下層。
・たまに進化するらしい。
・戦闘力は皆無だが、弓を使って狩りを
する。
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