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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

~とある異世界における三匹のこぶた物語~

オブ・アナザー ~とある異世界における「三匹のこぶた」物語……の裏側~

作者: 3ツ月 葵

「「「行ってきま~す!」」」


「いってらっしゃい。暗くなる前には帰ってくるのですよ~。」



 今日もオーク三兄弟たちは、いつものように元気よく森の中へと遊びに出かけた。

 森の中に方々の集落から隔離される様にして、ポツンと建てられた小さな家に住むオーク三兄弟たちにとって、森は慣れ親しんだ庭であり、遊び場なのである。


 そんな兄弟たちの母であるミルフィーユ・カッツもドアの前に立っていつものように手を振り、笑顔で子供たちを送り出したのだった。



「さぁ~て、この間に洗濯と掃除と……家事を一通り済ませてしまわないとねぇ。子供たちは可愛いけども、男の子が三人もいると色々と大変だわ~。フフッ。」



 ミルフィーユ・カッツはそうボヤキながらも楽しそうに笑みを浮かべ、「さぁ、やるぞ!」と腕捲りをしてバタバタと家の中や外も歩き回り、次々に家事を済ませていった。


 毎日毎日たくさんの洗濯物や食事の支度にと大変ではあるが、ミルフィーユ・カッツはこうした事に不満を漏らしたことは一度としてない。


 なぜなら母として可愛い子供たちの世話ができる充実した日々に、何をするにも幸せを感じていたからだった。



「ふ~ぅ……。あとは夕飯の準備ぐらいね。まだ少し時間が早いし――ちょっと休憩しようかな。」



 家事が一段落ついたミルフィーユ・カッツはお茶を淹れ、椅子に座って暫しの休息をとることにした。

 これが一日の内で唯一、ミルフィーユ・カッツがホッと一息つける一人時間。



「あの子たちももう巣立ちの年か……。早いものね~ぇ。まだまだ子供だと思っていたのに……。」



 そうしみじみとオーク三兄弟たちが生まれてから今日までを、ミルフィーユ・カッツは自分の日記帳を読み返しながら振り返った。


 更には自分の誕生日には毎年素敵なプレゼントをくれる子供たちが、今年が一緒に過ごす最後の記念すべき日に何をくれるのだろうかとワクワクしながらも寂しくもなっていった。



「巣立った後の子供たちのことも心配だけど、そろそろその後の自分のことも考えなきゃ……ねぇ。」



 オークは通常、年に一回複数の子供を産む。

 人間と違ってオークの成長は早いのでその子供も三年程度で巣立ちをし、五歳になる頃には発情期を迎えて大人といえるまで成熟する。


 そうしたサイクルを繰り返し、この世界ではどのオークも子作りするパートナーを毎度変えながら生涯に何度も出産をして生きているのだった。



「パートナー……か。また探すことが、私にできるかしら――。」



 そんな風にぼんやりとこの先の自分の人生について考えていると、突如としてけたたましくドアをノックする音が聞こえてきた。


 ドアが壊れるんじゃないかと思うほどの忙しないノックの音に、誰が来たのか確認もせずにミルフィーユ・カッツは急いでドアを開けてしまった。



「はい、はい。今――っ!!」



 まさかだった……。

 そんなはずはないと、ドアの前に立っていた男を見たミルフィーユ・カッツは思わずバタンとドアを閉めて拒絶した。



「おい、おい、おい。そりゃないぜ~。せっかく、俺様がこうして訪ねてきてやったというのによぉ。」



 ドアの前に立っていたその男は優しい声で語り掛け、一度閉められたドアを力づくで開けて無理矢理家の中へと入ってきたのだった。



「なっ――!」



 ミルフィーユ・カッツはそれを見て驚きの余り目をカッと見開き、ガタガタと震えながら床にペタリとへたり込む。



「俺たちさ~、あの時はあんなに愛し合っていたじゃないか~。ん~?」



 男は尚も優しく語りかけながらミルフィーユ・カッツの顎を右手で持ち、クイっと上へと持ち上げて笑顔を見せた。



「そっ――れは……。あ、あなた……が、無理、矢理……してきた……から、で…………。」



 この男、実はミルフィーユ・カッツの生まれ故郷であるオーク集落の族長の息子である。

 族長の息子という高い権力を使って集落中の女を漁り、好き勝手をしている所謂ボンクラ息子なのであった。


 かつて集落で暮らしていた娘時代、ミルフィーユ・カッツはこの男に目を付けられ、農機具の置かれた小屋に引きずり込まれ――――レイプされた。

 子作りは互いの同意の元で……そういう集落の掟があるにも関わらずだ。



「なにっ!? 誘ってきたのはお前だろ? 俺はそれに答えただけだ!!」



 男は(ひたい)に青筋を立てて急激に表情を怒りへと変え、たどたどしくも反論してきたミルフィーユ・カッツに対して怒鳴った。



「お前だってまんざらでもない顔をして、アンアンよがっていたじゃないか! あれは互いに同意の元のことだろっ!? 無理矢理なんて、俺は嫌いだからしてない!!」



 尚も男はミルフィーユ・カッツに怒鳴り声をあげ、自分を正当化する言葉をつらつらと重ねていく。


 そんな状態の中で、この男から一度恐ろしい目に遭わされた経験のあるミルフィーユ・カッツはすっかりと顔が青ざめ、怒鳴り声に呼応するように体の震えが増していった。



「――この広い森の中、探したんだぜ~ぇ。ミルフィーユ。」



 男はミルフィーユ・カッツの耳にそっと口を近づけ、優しく囁いて名前を読んだ。

 ミルフィーユ・カッツはその行為にビクリと体を強張らせる。



「また、お前とヤリたくなっちまったってのもあるのだが――。」



 そこまで言うと、男はニッと口の端をもたげた。



「お前――――ガキいるだろ? しかも男の。」



 その言葉に、ミルフィーユ・カッツは息が止まりそうになった。


 ――もう、オシマイだ…………。


 もう巣立ちが目の前というここまで来たのに、遂にやってきてしまった災厄にミルフィーユ・カッツは絶望を見た。



「俺な~、族長の息子――いや、次期族長として頑張ったんだぜ~。こ・づ・く・りっ! でもなぁ……ガキ、出来ちまっても女続きでよ~ぉ。」



 ここまで聞いて、恐怖に支配されたミルフィーユ・カッツの頭でも、男が何を言おうとしているのかが分かった。



「まぁ、娘は娘で大きくなりゃあさ、俺の床の相手でもさせれば良いんだけどよっ。如何せん族長って地位には跡継ぎとして男がいなきゃならん!」



 ――自分の娘をっ!? 床の相手にっ!?!?



 男の口から出るゲス発言に、ミルフィーユ・カッツは背中にゾワリと冷たいものが伝っていくのを感じた。



「そこでだっ――! 風の噂でお前が俺のガキを……しかも男を産んだって聞いて探したわけよ。お前、なんでか集落から消えちまってたから探すのに苦労したわ~。」



 ミルフィーユ・カッツは父が早くに死に、母一人娘一人で慎ましやかに幸せに暮らしてきていたのだが、レイプをされて後に妊娠していることに気が付いた。


 あんな男の子供をとミルフィーユ・カッツは苦悩し、一時期精神を病んだこともあるが……デキたなら産むしかないとあの時、腹をくくった。


 そんな娘を見て、ミルフィーユ・カッツの母はここに居てもまた酷い目に遭うだけだと集落から娘を逃がしてくれたのである。


 本当は共に逃げたかったのだが、ミルフィーユ・カッツの母は足を患っていて走る事もできず、誰にも見つからずに一緒に逃げることなんてできなかった。


 苦肉の策として、ミルフィーユ・カッツ一人で集落から、この男から逃げることになったのだった。


 集落の民の誰もが恐れる、族長一家の圧政の魔の手から――。



「あれから3年半か……。そろそろガキも巣立ちの頃だろ? お前の体も疼いて来てる頃合いじゃあないかと思ってよ。ヒッヒッヒッヒッヒッ!」



 男はなんとも下卑た笑い声をあげ、ミルフィーユ・カッツの下腹部をジーと見ながらペロリと舌舐めずりをした。



「相性っていうのかな~。お前とは良かったと思うんだよ、ミルフィーユ。男のガキがデキたのってお前とだけだったし。久しぶりに、もう一度ヤろうぜ~!」


「ヒッ――ヒィヤッ……!」



 上機嫌でミルフィーユ・カッツの体に手を伸ばす男を拒絶し、全力で逃げようとするが恐怖で体に思う様に力が入らない状態で、床を這うようにして逃げようとした。


 だが――――。



「やっぱりお前の体は堪らないわ~。うん。他の女を抱いてもここまで気持ち良くないし――。」



 再び悲劇は起こった。


 男は鼻歌を歌いながら楽し気に自分の着ている乱れた衣服を直す。


 ミルフィーユ・カッツはまた――レイプされ、この男にいいように弄ばれてしまった。



「親父も、跡取り産んだお前には褒美として立派な家と財産やるって言ってるし、喜べよ~。」


「もう――。」



 ミルフィーユ・カッツの精神はもうボロボロに崩れてしまった……。



「――無理……。許さない…………。」



 ミルフィーユ・カッツは暖炉にくべていた火の点いた薪を一つ手に取り、家に火を付けた。

 体の奥底から響くような低い、どす暗い声で話しだしたミルフィーユ・カッツに男はギョッとした。



「えっ――?」



 男が驚きの声を出したと同時に、ミルフィーユ・カッツは男にしがみ付いた。



「あなたは――生きていちゃいけない。いけない存在なのよ!」



 火がボウボウと燃え盛っていく中、ミルフィーユ・カッツは逃がさぬものかと必死に男に抱き着いて離さない。



「あっ――チッ! 何するんだ、てめぇ!!」


「私と一緒に死ぬのよ。あなたは生きてちゃダメなの――。私ももう――生きていたくなんかないの……。」



 これでもかとしがみ付くミルフィーユ・カッツを離してこの火の付いた家から逃げ出そうとするも、なかなか離す事ができずに火の勢いは増していった。



「離せっ! 離せって言ってるだろ、てめぇ!!」



 男が何度殴ろうが蹴ろうが離れないミルフィーユ・カッツの奇行に、男は恐怖さえ覚えた。



「一緒に死のうとか、気持ち悪いんだよ、てめぇ!!」



 そうして何度かの攻防の末、男は間一髪のところで家の外へと出ることができたのだった。

 ミルフィーユ・カッツはといえば一人、火事の中取り残され……。



「まったく……ひでぇ目にあったもんだ。」



 逃げ出した男は暫し歩いた所で自分の衣服に付いた煤を手でパンパンと払い落とすと、ミルフィーユ・カッツから受けた仕打ちにチッと舌打ちをした。



「せっかく可愛がってやろうって言ってるのにあいつ……許さねぇ。あんな女が産んだガキなんざ許しちゃおけねぇ――。覚えていろよ!」



 男の怒りは沸点をとうに超え、仕返しをしてやると決めて集落へと戻っていったのだった。

 その後、何か都合の悪い事があればいつも利用している裏世界の仲介人へと書状を出し、ミルフィーユ・カッツが産んだ子供を殺そうと画策した。



「ヒッヒッヒッヒッヒッ! 鼻の良いダイアウルフの殺し屋を放てば問題あるまい……。」

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