チハルとシオリ
――少し遡って一年の教室。
立花千晴は教室の自分の座席に座り、スマホでゲームをしながらガッカリしていた。ゲームにガッカリしていた訳では無い。
チラシを受け取ってくれた人は思ったよりずっと少なかったし、チラシに軽音部入部希望者は自分の教室に来て欲しい旨を書いたにも拘らず、誰も来ない。もう一時間は待っている。
教室にも廊下にも人気は感じられず、シーンとしていた。
座席は教室の真ん中の辺りだったので、余計寂しく感じられた。
――今日は誰も来ない。もう行こう。
失意の中、ギグバッグを背負い教室の扉を開けると廊下にチラシを持って立っている眼鏡のポニーテールの子が一人いた。
「あ! そのチラシ! 軽音部に入部ですか!?」
思わず声が出た。
上履きで同じ一年生だと分かったが、嬉しさと興奮で訳が分からなくなり敬語になってしまった。
「……」
「入部ですか? 入部ですね? 入部!?」
沈黙で返されたが祈るような思いで詰め寄る。
「……はい」
「やったー!!」
心底嬉しかったので声を張り上げて万歳をしてしまった。
念のため学年を確認しつつ自己紹介をする。
「一人目! よろしくお願いします! 私は立花千晴です! 一年ですよね?」
「はい、一年生の西川栞です」
「よかった~! 待っても誰も来ないから今日は諦めたところだったんだ~! よかった~!」
昨日は「三十人くらい来ちゃったらどうしよう」などと皮算用してニヤけていたので、誰にも来てもらえなかったショックは大きかった。
そこからの逆転満塁ホームランに等しい一人目の入部希望者だった。
「じゃあ早速行きたいところがあるから付き合ってもらえる?」
「どこに?」
お願いすると西川さんは無表情で返した。
私に詰め寄られたときに少し驚いたような表情はしたが、それ以外は無表情だった。
「DTM部!」
「ディーティーエムってなに?」
「デスクトップミュージック! パソコンで曲作るやつ!」
「行ってなにするの?」
「軽音部に曲を作ってもらおう!」
西川さんが来てくれたお陰でとても元気が出た。きっと上手く行く。
そう期待して、二人でDTM部の部室に向かった。