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ガルテナ ~私の一番の音楽~  作者: しーせん
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はじまり

 一生忘れない言葉というのは誰にでもあると思う。


 それをもたらせてくれる人は、人によって違う。


 家族、友達、恋人のような近しい人。

ミュージシャン、役者さん、タレントさんのような実際に会わない人。

漫画や映画のキャラ、エッセイや小説の一節のような実在しない人。


 私の場合は夕日の中の親友からの言葉。


「だからお願い。ユカの曲を歌わせて」


 私の、私達の人生を大きく変えた、切実なお願いの言葉。


 二年生になった成瀬由香里(なるせゆかり)はいつもの待ち合わせ場所にいた。

入学式の日から土日を挟んで月曜日。まだ少し寒いけど、晴天の気持ちいい朝だった。

風は無かったのでセミロングの髪が揺れることも無い。


 由香里が待っているのは中村真梨子(なかむらまりこ)。お互いを「マリ」「ユカ」と呼び合う親友。

家は近く、お互いの家の中間あたりの曲がり角で待ち合わせをして、いつも一緒に登校していた。





 待って三分もせずにマリはやって来た。

髪は二つ結びで優しい目、進級してもお互い変わらずいつも通り。

近づくにつれマリは笑顔になった。私も頬が緩むのを感じた。


「おはよー」

「おはよう」


 朝の挨拶を返し、二人で学校に向かう。


「いよいよ新入生が入ってくるねぇ」

「だねぇ。まぁあんまり関係無いだろうけど」


 マリは少しワクワクした様子だが、私は新入生に興味が無かった。

あまり関わることはないだろう。


「分かんないよ~。新しい風吹いちゃうかもよ~」


 ふざけた調子に苦笑してしまう。


「なにそれ」

「部員勧誘しないの?」

「しない」

「メンドイから」


 マリは私の思考を見抜いてニヤリとした。実際、それは当たっていた。


「正解。それに部室が私の部屋みたいになっていいかも」


 三年が卒業し、部には私一人となっていた。

マイナーな部活なので誰も入らないと思うし、人付き合いは得意ではないので、それは大歓迎。


「そうはさせんぞ! 私が入り浸るからな!」

「別にいいけど」


 なぜか正義の味方気取りで勢いよく言われたが、小学校一年生からの気心知れた仲、全然構わない。

 というかマリは帰宅部なのに一年の時から部室に入り浸ってダラダラしていた。


「今日部室行くの?」

「うん」

「じゃあ私も行こ。あ、部室のコタツ片づけてないよね?」

「片づけてないよ。コタツ布団、冬休みに洗っておいた」


 わざわざ親にお願いして車を出してもらった。

前から気になっていたので、決してマリの為ではない。


「ナイス! もーそういうとこホント好き!」


 そう言いながら腕を絡ませてくる。スキンシップが多いのは前からだけど、やめて欲しい。


「やめて」

「あのコタツもとうとう私専用になるのか……」


 マリは離れながら感慨深そうに言った。


「既に占領してたじゃん。部員でもないのに」


 卒業した先輩達とコタツの占有権について揉めながらも、一番コタツに入っていたのだ。


「いやぁ」


 頭を掻いて照れ臭そうにしたマリにツッコむ。


「褒めてないよ」

「ユカが一人ぼっちで寂しくないようにこれからも通ってあげるよ」

「いや一人になる前からくつろぎスペースにしてたじゃん」

「いやぁ」

「褒めてないからね?」

「うんうん、二年目もよろしくね」


 なぜか諭された雰囲気を出されたのが少し気に障ったので雑に返す。


「はいはい」

「くつろぎスペース管理人さんとして」

「おい」


 まさかの言いように声が出た。





 そんないつも通りの会話をしながら学校に着く。


 校門の辺りでは様々な部活の部員が新入生に向けて声を掛けながら勧誘のチラシを配っている。

のぼりや旗を振っている部員もいた。ああいうのはどこで作るのだろうか。

部活は多種多様で、野球部、サッカー部などメジャーなところから、セパタクロー部やボードゲーム部など、マイナーなところまで。

私達の通う明音高校は部活の立ち上げに寛容だった。


 多くの勧誘の声が聞こえる中で、一つ気になる声を聞いた。


「軽音部です! よろしくお願いします!」


 セミショートの髪と大きな瞳が印象的な少女がチラシを配っていた。

快活な声に笑顔はアイドルっぽいな、と思った。アイドルに会ったことはないけど。


 疑問が一つ湧く。

多種多様な部活がある中、軽音部は聞いたことが無かった。

マリに視線を向け尋ねる。


「軽音部ってあったっけ?」

「聞いたこと無いね」


 マリは答えた後、少女からチラシを受け取り、それを見ながら言った。


「あぁ『軽音部を作ろう』だって」


 なるほど、新しい部活立ち上げの勧誘だったのだ。

マリは視線を私に移し、続けて言った。


「これ、新しい風では?」


 なぜかドヤ顔。さっき自分で言ったフレーズが気に入ったのだろう。


「関係無いでしょ」


 純粋にそう思った。既に部活には入っているし、絡むつもりもない。


 ただ自分の髪が少し揺れたような気がした。


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