第8話
既に10万字弱で書き上がっているので、ちょこちょこ直したりエピソードで足す部分があったら直しながらアップしていくつもりです。
最初の内は頻度たくさん(年末年始ですしね)、あとは1日2回とか1日1回などで更新するつもりです。
翌日、陽樹は身支度を整えると鏡に映る自分を確認して、両手で頬を叩いて気合いを入れていた。
今日からはある程度の手術まではできるほどの設備を持った医務室が、陽樹の仕事場になる。けれど、医務室でなければできないことよりも、今は紗代と接することの方が大事なことに思えた。
昨日は紗代に見事に避けられた。今日こそはなんとかコミュニケーションをとろうと心に決めている。
食事は時間の目安はつけているが永井と紗代ふたりきりの時は各々が好きな時間に食べていたらしい。運悪く陽樹が自室の整理をしている間に紗代は食事をとってしまったらしく、彼女の姿を見かけることはできなかった。
居住用の区画にある一室に私物が運び込まれていたので、それを簡単に整理しているだけで結局初日は終わってしまった。
永井に部屋を案内された時、陽樹は少なからず驚いた。風呂もトイレも完備の個室は、リビングと寝室も分かれていてかなりゆとりがある。ベッドは備え付けのものだったが、サイズはセミダブルだったし、永井が言うには新しい入居者のためにマットレスは新品を用意したらしい。下手なホテルよりは余程豪華だった。
中河内製薬ありがとう、と陽樹は思わず心の中で合掌した。そして、職員や備品を含めてあらゆるものが結局は紗代を守るために存在しているのだと思い至って、彼女がどれだけ重いものを背負っているかに改めて気づいた。
親から引き離され、ここで出会った身内とは次々と死に別れてきた少女。その孤独を思えば、紗代が人に接したがらないのもわかる気がする。
だからこそ、彼女の傷とこれから過ごすはずの長い生を考えたときに、紗代にとって心を許せる存在になりたいと思った。
ひとりで生きていくには、その生は長すぎる。
いくつかの器具を乗せたワゴンを押して、陽樹は紗代の部屋を訪ねていた。ノックをすると少しの間が開いて、「なに」という素っ気ない声が返ってくる。
「紗代さん、開けてもらえるかな。健康診断をしたいんだけど」
「……必要ないって昨日も言ったでしょ」
軽く不機嫌さを滲ませた低い声。昨日の態度から予想していた通りだったので、陽樹は思わず苦笑した。
「必要かどうかは僕が判断することだよ。問診と簡単な診察と採血とかだけだから。ね?」
「私は風邪もほとんどひいたことないし、病気の心配はないから」
「それは凄いね。でも、風邪なんて誰でもひくものだし、貴種だからって病気に全くならないってことはないだろう? 僕もちゃんとデータは目を通してきたからね。
病気はなってから治すより、ならないように予防するのが一番なんだよ。だから僕の主な仕事は、君が病気になったときに治療することじゃなくて、君が病気にならないように健康管理をすることだ。
僕にちゃんと仕事をさせてくれないかな」
理路整然と並べ立てた最後に、ダメ押しでお願いの体をとってみる。なんとなく紗代はお願いに弱そうな気がしたのだ。陽樹の読みが当たったのか、ドア越しに深い深いため息が聞こえてから、ドアがゆっくりと開いた。驚いたことに施錠はされていなかった。
「仕事をさせろと言われたら、どうにもならないでしょ……」
陽樹と目を合わせずに、渋々紗代は陽樹が部屋に入ることを許してくれた。
部屋の造りは陽樹の部屋と変わらず、家具も同じだった。そして、驚くほど物が少ない。散らかっているわけでもなく、まめに掃除はしているようだ。そのせいで生活感が薄く、長い間紗代が住んでいるはずの場所なのに、まるでホテルの部屋のように見えた。
寂しい部屋だ、と陽樹は思う。写真の一枚もなく、紗代の趣味を表すようなものも見当たらない。
一通りの問診や血圧測定をし、胸部と腹部の簡単な診察をする。紗代はどれも特に問題はなく、陽樹はほっと胸を撫で下ろした。問題は、この先なのだ。
なろう初投稿作品です。ガンガン更新しますので、気になったらブクマ・評価いただけると大変嬉しいです。よろしくお願いします。




