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楽園は遙か遠く  作者: 加藤伊織
白いホスピス

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8/59

第7話

既に10万字弱で書き上がっているので、ちょこちょこ直したりエピソードで足す部分があったら直しながらアップしていくつもりです。


最初の内は頻度たくさん(年末年始ですしね)、あとは1日2回とか1日1回などで更新するつもりです。

「ふたりの貴種がここから脱走をしたことで、残った貴種は改めて各自の意思を確認した。その時点でここにいたのは4人。全員がここを去る意思はなく、残りの生を静かに過ごしたいと願っていた。それを受けて老朽化した建物を建て替えて、自分たちに逃げる気はないのだと示すような今の造りになった。――俺がホスピスと言ったのは、そういうわけだ。


 ところが、今から43年前に紗代が見つかった。あいつが発見された理由は、小学校に向かう途中で交通事故に遭って、病院へ救急搬送されたからだそうだ。命に別状ないとはいえ重傷だった。手術が必要で血液型を調べたら、人間には当てはまらない結果が出た。それで、もはや一般的には物語の中の存在のようになっていた貴種なのだとわかって、現場の病院は軽くパニックになったらしい

 そこで中河内製薬を通して紗代はここに保護された。紗代が貴種だとわかって職員が慌てて家に向かったが、既に両親は姿を消していた。


 怖かったんだろうな、一度得た自由を失うのが。特に紗代の母親にとっては、一度は奪われたものであり、危険を冒してようやく取り戻したものであり……」


「それでも、子供をひとり置き去りにしてでも失いたくないほど大事なものなんだろうか。僕は子供を持ったことがないから、そんなことを言える立場じゃないかもしれないけど。幼い子供を残して逃げるなんて」


 すっかり冷めたコーヒーを陽樹は一気にあおった。心の中にわだかまる苦さと、舌の上に残る苦さはよく似ている。無理矢理飲み込んだそれは腹の中でどろどろと渦巻いて、陽樹を一層暗い気持ちにさせた。



 目を伏せてすっかり沈み込んでしまった陽樹を見やって、永井は重いため息をついた。


「娘を追って行けば、何百年壁の中に閉じ込められて生きることになるかわからないんだぞ。実際のところ、紗代の両親がどうなったのか本当はわからないんだしな。もしかしたら紗代のところに向かう途中で何かがあったのかもしれない。本当に逃げたのかもしれない。――本当に逃げたんだとしても、俺たちに責める権利はない。貴種を高い壁の中に閉じ込めて生きるしかないように追い詰めたのは人間なんだ」


「僕は……正直なところ、いろいろとよくわからないんだ。さっきの彼女を見ていると貴種がどう人間と違うのかわからなくなる。体の構造も同じで、メンタルだって変わりが無いとしか思えない。差異があるのは認めるけども、彼らがそんなに恐れられなければならなかった理由が僕にはわからない」


 額を押さえて陽樹は呻いた。やはり陽樹にとってはこのラボと関わることになる前までは、貴種は現実感のない存在だった。もちろん恐れる対象ではなかったし、永井の話を聞いても貴種が何故そこまで疎外されたかが実感できない。


 それに対して、永井は軽く眉を上げて低い声で言葉を連ねた。彼は何かに怒っているようであり、悲しんでいるようにも陽樹には見えた。


「おまえもわかってるだろう。社会の中で罪の無い異端が、ただ異端だという理由だけで虐げられる事を。マジョリティを自称する奴らから見たら、違いがあるだけでそれは相手を貶め、虐げていい理由になるんだ。肌の色とか外見のわかりやすい違いや、何らかの能力が劣っている事、そして、逆に抜きん出て優れている事――なんでもいいんだ。


 それに、人間は自分より優れているものを本能的に恐れる。同じ人間相手ですらそうなんだ。それが『似て非なるより優れたもの』に対して集団でどう対処するかなんて容易に想像付くだろう。


 俺もおまえも組織の中で『異端』だったからここに追われた。紗代だけじゃない。俺とおまえ、三人にとってここはシェルターみたいなものだ。この外に出れば、安全は保証されない。なにせ『異端』だからな」


 永井の言葉に反論することができず、酷く打ちのめされた気分になって陽樹は目を閉じた。



 永井に傷つけられたとは思わなかった。自分を取り巻いた不条理について薄々感じていた疑問が、ひとつの答えを見つけたような気もする。

 気持ちが落ち込んだのは、自分もまた醜ささえ感じるそんな「人間」のひとりに違いないからだった。

なろう初投稿作品です。ガンガン更新しますので、気になったらブクマ・評価いただけると大変嬉しいです。よろしくお願いします。

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