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楽園は遙か遠く  作者: 加藤伊織
ソライロアサガオ

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第8話

既に10万字弱で書き上がっているので、ちょこちょこ直したりエピソードで足す部分があったら直しながらアップしていくつもりです。


1日2回更新は果たして意味があるのか? と我に返ったので、次回から1回の分量を多くして21時更新にします。

 それから1週間ほどが経った。朝顔を植えてから1ヶ月弱、勢いよく伸びた蔓を紗代が丁寧に支柱に巻き付けたおかげで、青々とした葉が生い茂り始めた。紗代の勉強の成果で肥料もきちんと与えられた朝顔は、多くの花を咲かせることを予想できるほど順調に育っている。まだ蕾は付いていないが、それも間近だろう。

 陽樹の出した課題について答えを出したと宣言して、紗代は鉢の前に陽樹を連れてきていた。


「これは、セイヨウアサガオの一種。理由は、茎と葉の表面に毛がほとんどないことと、葉の形がハート型をしていること。葉の形がマルバアサガオとは若干違うから、それ以外で茎の色の濃さから花色を推測すると、おそらく濃い色の花が咲く品種。私の答えは」


 理路整然と、静かに紗代は語った。けれど彼女の目の奥には隠しきれない高揚が踊っていて、陽樹も紗代の論の展開を聞いて胸を躍らせていた。

 一呼吸置いて、紗代がゆっくりと答えを告げる。



「ヘブンリーブルー」



 紗代が導き出した答えに満足し、陽樹は天を仰いだ。


 蕾が付いて花が開くまで、どんな色の花が咲くのかを紗代には楽しみにしてもらいたかった。だから陽樹は買い求めた種をわざわざ袋から出し、ティッシュに包んで渡したのだ。パッケージの写真を見てしまったら、興醒めになってしまうから。


 けれど、紗代は自分の観察と推測で答えに辿り着いた。彼女の頭の中には、深い空色の花をたくさん咲かせた朝顔の姿がもうイメージされているのだろう。まだ蕾も付いていないのに、手を掛けた花が満開に咲き誇ったかのように満足げに笑っている。

 感無量という言葉はこういうときのためにあるのだろう。陽樹は思わず紗代を抱きしめていた。自分の嬉しさを表すのに、他の行動が思いつかなかったのだ。


「凄いよ、紗代。よくわかったね。

 ヘブンリーブルー、天上の青。凄くいい名前だと思ったんだ。ピンクや白の朝顔も綺麗だろうけど、君は空を見上げるのが好きだから」


「この花は秋咲きなのね。朝顔って夏の花だと思ってた」


 推測してから確証を得るのに更に様々なことを調べたのだろう、陽樹がこの花を選んだ理由のひとつを紗代が気に留めてくれたことが無性に嬉しい。


「ここは少し夏が短いからね。日が短くなっても咲く花がいいと思った。そうしたら、きっと君はその分長く喜んでくれるから」


「あなたは……そんなにいつも私を喜ばせることばかり考えてるの?」


「当然だよ。君はいつでも僕の世界の中心だ」


 陽樹の肩に頭を乗せていた紗代が、正面に向き合って金色の目でみつめてくる。その目に吸い寄せられるように、自然に陽樹は彼女に顔を寄せていた。


 当たり前のように唇が柔らかく重なって、一呼吸置いてから離れる。


 眼前の紗代は一瞬で硬直していた。その手がゆるゆると上がってきて、確かめるように自分の唇に触れる。その動作で陽樹は自分が何をしたのかを改めて気づいた。


「……嫌だった?」


 自分のしてしまったことに自分で驚きながら、陽樹は恐る恐る紗代の様子を窺った。紗代は無表情になってしきりに唇を触っている。


「今のは、キスってやつ……かな?」


「キスってやつ、だね」


 テレビや本などで知識はあっても、紗代にはされたことの実感がわかないらしい。陽樹から体を離さないままで悩んでいる様が妙におかしかった。


「なんでキスされたの? 恋人同士がするものじゃないの?」


「体が勝手に動いて……っていうのは言い訳だね。

 僕の毎日は紗代が中心なんだよ。君のことばっかり考えてる。それは前からわかってたけど、僕は君のことが好きだ。今、はっきりわかった」


 紗代の目がさざ波のように揺らいだ。迷子の子供のような頼りなさを浮かべて、陽樹を見上げてくる。


「陽樹が、私のことを好き? ――私、私は……」


 口ごもるのは葛藤のせいなのだろう。紗代が陽樹を嫌っていないことは陽樹にもわかっている。その証拠に、紗代は未だに陽樹に体を寄せたままで離れようとはしないのだから。



 紗代が陽樹から向けられる気持ちに、素直に気持ちを返せない理由は陽樹にもなんとなく理解できる。紗代にとっては、陽樹を好きだと自覚してしまうのは苦しみでしかないはずなのだ。

 そこまで思い至れずに、短絡的な行動を取ってしまったことを陽樹は後悔し始めていた。


「君は、いつものままでいいんだよ」


 紗代の緩やかにうねった髪を撫でながら出た声は、いつもよりも優しく響いた。溢れてしまった想いは、見返りを求めたものではなかったのだ。紗代を苦しませることは、陽樹は望んでいない。


「悩ませてごめん。そんなつもりじゃなかったんだ。本当に、気がついたらキスしちゃってたっていうくらいでね。だから、そんな顔をしないで」


 泣きそうに歪んだ紗代の唇に指を当てて、もうしゃべらなくていいと行動で示す。


「それより、君が花色どころかヘブンリーブルーっていう名前まで当てたご褒美を考えよう。そうだなあ……永井くんに頼んで外出させてもらって、そこの山にハイキングでも行こうか。お弁当と飲み物とおやつを持ってね。なんなら虫取り網も持って」


「ここの、外に? いいの?」


 陽樹の提案は思ってもみないことだったのだろう。驚きのあまりか、紗代の顔からは悩みの色がかき消えて、一瞬のうちに期待に満ちたきらめきが目の中で踊る。


「僕は問題ないと思うよ。もしかしたら、少しずつ外出許可を伸ばしていけるかもしれないし、そうしたら飛行機を見に行ったりもできる」


「外に……そんなこと、考えたことなかった」


 大きな目を閉じて、紗代は深いため息をついた。

 彼女の心は、早くも壁を飛び越えて外の世界に広がっていったようだった。

なろう初投稿作品です。ガンガン更新しますので、気になったらブクマ・評価いただけると大変嬉しいです。よろしくお願いします。

評価頂けて嬉しいです!

これ、まとめてガッと読む話の系統なので、向いてない投稿の仕方をしましたね……。

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