第5話
既に10万字弱で書き上がっているので、ちょこちょこ直したりエピソードで足す部分があったら直しながらアップしていくつもりです。
他の締め切りが迫ってきたので、12時と21時の2回更新にします。
「うちは両親共に医師でね。祖父も医師だったんだけど、まあ、そういう家庭なんだよね。兄がふたりいるけど、ふたりとも医師になった。家訓なんだよ、生き延びられるから医師になれ、って。人の命に関わる知識も技術も、いざという時には必ず自分や他の人の役に立つからね。
私立だと医学部を出るだけでも大変なお金がかかるけど国立だとそうでもないし、両親からすると『ここまで投資してやるから、あとは自力で食っていけるようになれ』ってことなんだと思う。一理あるなと思ったよ。
実は医師になれって厳しく言われなかったら、僕は多分農学部にでも行ったと思う。でも、医師になって収入を得られるようになってからなら、自分のやりたかった勉強をやり直すこともできるんだ。お金ってそういう自由を買えるものだからね。まあ、好きなのは畑いじりで、どうしても本格的に農業を学びたいわけでもなかったから、そこまでしなかったけどね。
両親が僕に要求したことをクリアしたから、それ以上口出しされることもなかった。むしろ、ひとりの人間として僕を認めてくれたと思う。ここに来る経緯もいろいろあったけど、何も文句を言われたりしなかったし。僕が自活できるようになったから、親の役目は終わったんだなんて酒の席で言われたりしたから。結構、融通のきく人たちだと思うよ」
「そう……よかったね。前に陽樹が言った通り、ここは普通の人間から見たらあまりいいところではないと思うから、少し心配をしてた」
寂しげな紗代の様子に、陽樹は首を振って否定して見せた。
貴種にとっての悲しい理想郷、ただひとつの安寧の場所。けれど確かに陽樹と永井にとっては、仕事の上では流刑地に近い。だが、陽樹は決してここを厭ったことはない。
「最前線で過酷な勤務をしてる他の医師にこんなこと言ったら怒られると思うけど、僕にとってはここはいいところだよ。決して高くはないけどちゃんと給料ももらってるし、気を張らなきゃいけないことも少ない。毎日のほとんどの時間は自分の好きなことをしていられて――やっぱり、医者が忙しいって本来良くない状況だと思うんだよね。前にも言ったけど、君も永井くんも健康に問題がないから、そういう意味では僕の存在意義が薄くて助かってる」
「そう。それならよかった」
紗代がほっとしたように目の端を緩ませた。
「シャングリラ、って聞いたことがある?」
「シャングリラ?」
「チベットの高地にあるという伝説上の理想郷で、そこに住む人間は普通の人間より長生きなんだって。ユートピアとか桃源郷とか、理想郷を表す言葉はたくさんあるけど、お爺ちゃんたちはここをシャングリラと呼んでた。私はここが理想郷だと思ったことはないけど、今なら少し、お爺ちゃんたちの気持ちがわかるかな。穏やかに過ごしていきたいなら、ここは悪いところじゃない」
「確かに。……ずっとこんな日々が続いていったらいいって、僕は心から思うよ」
手の中の紙飛行機をそっと投げると、春らしく暖かな空気を白い機体が切り裂いて飛んでいった。
なろう初投稿作品です。ガンガン更新しますので、気になったらブクマ・評価いただけると大変嬉しいです。よろしくお願いします。
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これ、まとめてガッと読む話の系統なので、向いてない投稿の仕方をしましたね……。




