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楽園は遙か遠く  作者: 加藤伊織
白いホスピス

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第3話

既に10万字弱で書き上がっているので、ちょこちょこ直したりエピソードで足す部分があったら直しながらアップしていくつもりです。



最初の内は頻度たくさん、あとは1日2回とか1日1回などで更新するつもりです。

「貴種じゃない、の?」


 陽樹が手を伸ばせば抱きしめられそうな距離まで近寄って、紗代は陽樹を見上げてきた。先ほどの様子がピエタだとしたら、今の彼女の題は『戸惑い』だ。期待と不安が入り交じった目が陽樹をみつめている。


「ごめん」


 気がついたら謝っていた。陽樹が人間なのは陽樹が悪いわけではなく、謝ることではないはずだ。なのに、すがりつくような紗代の言葉に、彼女を失望させることが悲しくなったのだ。


 みるみるうちに、紗代が落胆して肩を落とした。本を置き去りにしたベンチへと無言で踵を返した紗代を、陽樹は思わず引き留めていた。


「なに」


 肩を掴まれた紗代が振り向く。一瞬前の迷子のような心許ない様子は消え失せていて、人が近づくのを拒む空気が彼女を取り巻いている。


「寒いだろう? 中に入らないか」


「寒くてもいい。ここにいる」


「風邪をひいてしまうよ」


「どうでもいい。それに風邪なんてひかない。人間より丈夫だから」


 紗代が陽樹の手を払いのけた。それは決して荒々しい動きではなく、肩に止まった蝶をどかすだけのようなゆるやかな動きだった。


 どうでもいいと口では言いながら、見るからに彼女は自分の孤独を持て余している。紗代に触れた一瞬で陽樹にはそれが伝わってきた。


「どうでもよくなんかない。僕は今日から君の主治医になるんだ。君にこんなことで風邪を引かせる訳にはいかない。君が丈夫だからといっても、こんな冷えるところに薄着のまま放置できないよ」


 彼女が自分に背を向けようとするのを、そのままにしてはおけなかった。一度は払われた手で陽樹が紗代の手を取ると、革手袋に包まれた手を紗代が息を詰めてみつめる。


 知らぬ間に、紗代の手をぎゅっと握りしめていた。紗代の肌は驚くほど白く、強く握ったら折れてしまいそうな華奢な手だ。その感触で彼女が間違いなく生身の存在だと思い知って動悸が激しくなる。一目惚れ、とは思いたくなかった。外見の美しさは陽樹に取ってはほとんど価値がない。



「……離して」


 そのまま何秒が経ったのだろうか。紗代の困惑しきった声で陽樹ははっとして手を離す。


「私に構わないで」


 紗代がわざと平坦に出している声が痛々しいと思った。


 冷え切っていたその手をもう一度握りしめて、彼女を胸に抱きしめて温めたい。――そう思った自分がわからなくて陽樹は立ち尽くす。


「僕は医師だから」


 半分は自分に言い聞かせるように言葉を紡ぐ。そうだ、自分は医師で、紗代は陽樹が管理するべき対象なのだ。さっき自分で言ったように、こんな寒いところにいては心配に決まっている。


 無理矢理自分の中で理由を探し出して自分を納得させようとしていると、紗代は陽樹がなんとか行動と結びつけようとした言葉をあっさりと拒絶する。


「私に医師は必要ない」


「病気になってから治すのだけが医師の仕事じゃないよ。君が健康に過ごせるようにするのも僕の仕事だ」


「……勝手にしたら」


 なおも食い下がる陽樹を面倒に思ったのか、紗代は本を取り上げると建物の中へ戻っていった。そのまま一室のドアを開けて入っていく。あそこが彼女の部屋なのだろうかと陽樹はその背を目で追いながら思う。


 自分の行動に混乱しつつ陽樹が廊下に戻ると、永井が呆れ顔で腕を組んで待っていた。

なろう初投稿作品です。ガンガン更新しますので、気になったらブクマ・評価いただけると大変嬉しいです。よろしくお願いします。

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