菊江と和豊 第3話
既に10万字弱で書き上がっているので、ちょこちょこ直したりエピソードで足す部分があったら直しながらアップしていくつもりです。
全5章の予定ですが、年内に3章まで上げたいなあと思っていま……した。2章と3章の間に断章があった……自分で忘れてました。
その後は直し部分がたくさんあるのでちょっとペースダウンします。
ついさっきまで寝付いていたとは思えないほど、菊江の目には強い光があった。和豊にそんな様子はなかったけれども、菊江はきっと人間を恨んでいるに違いない。
「辛かったろうね……家族を殺されたら」
菊江の手を取ると彼女はびくりとしたが、その手にフサ子が涙を落とすと戸惑いながら見上げてきた。
「私の亭主も息子も娘も、みんな戦争で殺されてしまったからね……国が違うとか、種族が違うとか、すぐ相手を殺そうとする人間は馬鹿だねえ」
はらはらと涙をこぼすフサ子に菊江が息を呑んだ。きゅっと唇を噛みしめている彼女の肩に和豊が手を掛ける。
「悪い人間ばっかりじゃないって、俺に言ってたのは菊江さんだよ」
たしなめる和豊の口調に、菊江はしゅんとうなだれた。今し方の怒りはすっかり消えていて、今は叱られた子供のように心細げな表情をしていた。
「素性もわからない私たちを助けてくれて、ありがとうございます。わかってるんです、私たちに酷いことをしたのはほんの一部の人間でしかないって。利益があるからだとしても、中河内の人たちも、高倉の人たちも、私たちを助けて守ってくれた。でも、あそこにいるのは辛かった……」
「その話は、もっとあんたが良くなってから聞かせてちょうだい。ねえ、こんなことを言ったらもしかすると怒られるかもしれないけど、家族を亡くした悲しさを抱えてるっていうところでは、私たちは仲間みたいなものなんだよ」
「……そうかも、しれませんね……」
フサ子の言葉に菊江は弱々しい笑みを浮かべて見せた。
和豊と菊江がフサ子の家に居着いてから、半月が経とうとしていた。
何度も菊江は「山の中で暮らす」と出て行こうとしてはフサ子と和豊に引き留められていたが、和豊がフサ子に教わりながら嬉々として家の修理や薪割りなどをしているのを見て、自分もフサ子を手伝うようになっていた。
菊江は驚くほど料理が下手だったけれども、長いことひとりで暮らしていたフサ子にとっては自分以外の誰かが作った食事を食べるのは楽しかった。
「和ちゃん、休憩にしなさい」
「はい」
庭で薪を割っていた和豊に声を掛けると、彼は素直に鉈を置いて縁側へやってきた。鉈の使い方も、金槌で釘を打ったりすることも知らなかった彼だが、教えれば飲み込みは早く、家の傷んでいたところなどを次々に直してくれた。見かけによらず驚くほど力もあるし身も軽い。貴種はみんなそうなのだと言われて、確かにこんな人間が集団でいたら、恐れを持つ者もいるかもしれないとフサ子もおぼろげながら理解するようになっていた
。
一方で、家の中のことをすることが多い菊江は針仕事はうまいのだが、仕事にするのでなければ毎日必要なことではない。壊滅的な料理を披露してしまってから、フサ子に一から料理を教わっていた。調味料を入れる順番や、水のうちから鍋に入れる野菜とお湯になってから鍋に入れる野菜との違い、だしを入れる必要のある味噌汁の具とだしを入れなくていい味噌汁の具など。娘に昔教えたように、フサ子は菊江にひとつひとつ料理の仕方を教えた。
「お茶が入りましたよ」
熱い湯で煎れた渋い番茶を菊江が縁側に持ってくる。庭の隅に植えた木にたわわに実った柿も添えられていた。
柿が実ると、冬がそう遠くはないことをフサ子は実感する。
「ねえ、和ちゃん、菊江ちゃん。このままここにずっといなさいよ」
ふたりがこの家に来てすぐの頃から密かに思い続けてきたことを、フサ子は切り出した。
なろう初投稿作品です。ガンガン更新しますので、気になったらブクマ・評価いただけると大変嬉しいです。よろしくお願いします。




