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楽園は遙か遠く  作者: 加藤伊織
断章・1

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31/59

菊江と和豊 第1話

既に10万字弱で書き上がっているので、ちょこちょこ直したりエピソードで足す部分があったら直しながらアップしていくつもりです。


全5章の予定ですが、年内に3章まで上げたいなあと思っていま……した。2章と3章の間に断章があった……自分で忘れてました。


その後は直し部分がたくさんあるのでちょっとペースダウンします。

「すみません、誰かいませんか」


 夜半響いた戸を叩く音に、フサ子はそろそろと布団から這い出した。


「誰か、助けてください! 誰かいませんか!」


 こんな夜中にフサ子を起こしたのは、若い男の声だった。強盗ではないだろうかと警戒心が先に立ったけども、少し迷って寝間着のままで戸を開けた。重い木の引き戸は湿気を吸って更に立て付けが悪くなっていて、年をとった彼女には最近開け閉めが難儀になってきている。

 出てみようと思ったのは、外から呼びかける声が必死だったからだ。


 玄関に置いた懐中電灯を点けて外を照らすと、声の通りに若い男が光の中で眩しそうに目を細めて立っていた。背中に誰かをおぶっている。彼の背にいる長い髪を垂らした女はうなだれていて、顔色が紙のように白かった。


「どうしたの、こんな……まあまあ」


 戸を開ける前は警戒していたというのに、彼らの姿を見たらそんな気持ちは吹き飛んでしまった。外はしとしとと雨が降っていて、若者たちはずぶ濡れだった。それだけではなくて泥もあちこち付いている。慌てて戸を目一杯に開けて、フサ子は彼らを招き入れた。


「ありがとうございます。ありがとう……」


 何度も礼を繰り返しながら、土間に入ったところで青年はへたり込んだ。それでもおぶった女性を落とさないよう、必死に背負い直している。


「山で迷っているうちに連れが熱を出して」

「今タオルを持ってくるからね、その人はそこに下ろしなさい。早く拭かないとあんたまで熱を出してしまうよ」


 口早に言ってバスタオルとタオルをありったけ持ってくると、青年は今にも泣き出しそうな顔でそれを受け取って女性を包んだ。苦しげに目を閉じているが、彼女の黒髪に縁取られた顔はまるで天女のようで、タオルを持ったままでフサ子は一瞬みとれた。


「女の人は私が拭いてあげるから、あんたは自分を拭きなさい」


 乾いたタオルがすぐに服の水を吸って重くなってしまう。これでは埒が明かないと、意を決して青年に告げる。


「この人を奥に寝かせたいんだけど、この濡れた服を着替えさせちゃってもいい?」

「は、はい。何から何までありがとうございます!」


 土間に額を擦り付けるばかりに頭を下げる青年は、一瞬でも強盗かと疑ったりしたのが申し訳なくなるほど人がよさそうだった。


「その間にお湯を沸かせる?」

「はい、やります!」


 がばりと顔を上げて、フサ子が示した台所で青年は湯を沸かし始めた。フサ子は女性の濡れた髪を絞り、タオルに包んで、服に手を掛けた。

 飾り気はないが品のいいブラウスと長いスカートは、とても山を歩く格好ではない。けれどスカートの裾はあちこち裂けて土に汚れていて、その姿のままで山中をさまよったのは本当のようだった。


 青年も汚れてはいるけども、身なりはそれほど悪くはない。なぜこんなふたりが助けを求めてきたのか不思議だった。駆け落ちか何か、とにかくわけありなのだろう。

 下着だけを残して服を脱がせきり、沸いた湯でタオルを温めて冷え切った手足を包む。そうしている間に他の場所を拭き、またタオルを温めて手足を包み直す。乾いた寝間着を着せたところで振り返ると、目のやり場に困ったように青年が立ち尽くしていた。布団へ運ぶのを手伝わせたいが、彼はまだ濡れた服を着ている。


 女性が細身で小柄なことが幸いして、フサ子はなんとか彼女を布団に寝かせることができた。そのまま風呂場へ行って、残り湯を沸かし直す。風呂が沸くまでの間に押し入れをひっくり返して、古びた行李の中から男物の浴衣を引っ張り出した。


「今風呂を立てたから、あんたはよく温まりなさい。これ、死んだ亭主のだけど濡れてる物を着るよりはましでしょう。つんつるてんかもしれないけど、我慢してね」


 押し頂くように浴衣を受け取った青年は、奥に寝かせた女性とどこか面立ちが似ていた。



 しばらく干していなかったせいで、余っていた布団は少し押し入れのカビ臭いような匂いがしていた。それでも隣の部屋にそれを敷いてやると、青年は何度も何度も頭を下げた後でぱたりと寝付いてしまった。余程疲れていたのだろう。

 濡らした手拭いをこまめに変えて女性の額を冷やしてやっていると、夜が明ける頃には苦しげだった息が段々落ち着いてきて、表情も安らいだものになっていった。


 青年が目を覚ましたのは夜になってからだった。味噌汁を温めて、作っておいたおにぎりと一緒に出してやると、彼は申し訳なさそうにしながらもそれを全て食べきり、やっと人心地付いたように長いため息をついた。

なろう初投稿作品です。ガンガン更新しますので、気になったらブクマ・評価いただけると大変嬉しいです。よろしくお願いします。

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