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楽園は遙か遠く  作者: 加藤伊織
空と夢は遠く

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28/59

第14話

既に10万字弱で書き上がっているので、ちょこちょこ直したりエピソードで足す部分があったら直しながらアップしていくつもりです。


全5章の予定ですが、年内に3章まで上げたいなあと思っていま……した。2章と3章の間に断章があった……自分で忘れてました。


その後は直し部分がたくさんあるのでちょっとペースダウンします。

「とうもろこし……も豆ご飯なのか。確かに豆だなあ」


「さすがにとうもろこしは私でもわかるから」


 食後にふたりは陽樹の部屋で、並んでパソコンのディスプレイを覗き込んでいた。豆ご飯で検索を掛けるとグリンピースが圧倒的に多いが、中に時々違う豆が混ざってくる。


「枝豆か。これはどう?」


「もっと、大きい豆だった……と思う」


 紗代の語尾が力なく掠れた。彼女の言う豆ご飯は祖母の作ってくれたもので、それこそ40年以上前の記憶の中にあるものなのだ。子供の頃に感じた大きさと、成長してから感じる大きさには違いが出ることが多い。紗代もそれに気づき、記憶の頼りなさに不安を感じ始めたらしい。


「大きい豆、なるほどね。これで大分近づいた気がする。緑色だったかい?」


「緑色だった」


「これ! これじゃないかな、どう?」


 陽樹が画面に映し出したのは、大振りの豆を使った豆ご飯の写真だ。それを見た途端に、紗代はあっと声を上げた。


「そう、これだと思う。ほくほくした豆が少し崩れてご飯に混じって、それが好きだったの」


 紗代の「豆ご飯」に使われていたのは空豆だった。少しくびれた形の平たい豆は特徴的で、グリンピースとは一目で違いがわかる。これなら紗代が見た瞬間に違うと感じたのも当然だった。


「空豆だね。うん、確かにえんどう豆とかに比べてちょっと手間がかかるけど、炊き込んだら美味しそうだね。今度はちゃんとこっちを作るよ」


 紗代の思い出の味を突き止められたことに満足して陽樹は振り返った。けれど紗代は穏やかな顔をして、やんわりと首を横に振ってみせる。


「ううん、別にいいよ。陽樹の豆ご飯はグリンピースだから、それでいい。こうやって、私の中のいろんなことが変わっていくんだよ」


 穏やかながら僅かに寂しさを滲ませたような紗代の言葉が、陽樹にはどうしても引っかかる。


「どうしたんだい、急に」


「ここでは、豆ご飯は今まで食べたことがなかったの。だから今まで私の豆ご飯は、お婆ちゃんが作ってくれた空豆の豆ご飯だった。でも、多分今日からは陽樹の作ったものを、私は豆ご飯と呼ぶんだろうなと思ったから」


「……変えなくていいよ、そんなことは。思い出なんだろう?」


「でも、味もはっきりとは思い出せないし、陽樹の豆ご飯を美味しいと思ったから、それでいいの」


 思い出を切り捨てようとするかのような紗代の言いように、思わず陽樹は彼女の肩を掴んでいた。


「春になったら、空豆のご飯作るよ。君がそれを食べたいと思ったのは間違いないんだから。君がそうやって思い出すのって、お婆ちゃんもきっと嬉しいんじゃないかな」


「お婆ちゃんも嬉しい……そう思う?」


「僕だったら、嬉しい。もし僕がいなくなった後に、君がこの前喜んで食べてくれたスペアリブのカレーを、どこかで君が同じようなものを食べて僕のことを思い出してくれたら嬉しいと思うよ」


「陽樹が、いなくなる……?」


 陽樹が掴んだ肩が強ばったのを感じた。今までそんなことを考えたことはなかったのだろう、紗代は激しくショックを受けたのを隠せずに、愕然として陽樹をみつめている。



 紗代の顔は蒼白で、唇は微かに震えていた。その反応に陽樹は己の迂闊さを呪った。


 紗代が高熱を出して寝込んでいたとき、陽樹の手を握ってどこへも行かないでくれと懇願していたではないか。あれは熱にうなされていたとはいえ、紗代の心の奥底に眠っていた本心かもしれないのだ。


「僕は……」


 どこへも行かない、と言いきりたかった。それでも、紗代の意識がはっきりしている状態で気休めの嘘をつけやしない。


「春になったら」


 嘘をつくことは自分で許せずに、陽樹は少し先の未来を語ることにした。春を過ぎたら、夏の約束をしよう。夏の次は、秋の約束を。そうして今を共にすることしかできないのだ。


「空豆は春になったら出回るから、そうしたらまた豆ご飯を作ろう。……僕の意思とは関係なく、僕がここから離れる時が来るかもしれない。でも僕は今は自分からここを去ろうとは思ってないし、ここで過ごす1日1日を大事に思ってる」


「そうだよね……陽樹は、私とは違って普通の人間だった」


 紗代が平坦に呟いた響きの中に、陽樹は深い絶望を感じ取った。


 どんなに一緒にいると言おうとも、ふたりの命の長さは違う。陽樹はほぼ確実に紗代より先に老いて、ここを去るだろう。それは種の違いによって避けられない未来だった。


 無言で部屋を出て行く紗代を、陽樹は黙って見送るしかなかった。

なろう初投稿作品です。ガンガン更新しますので、気になったらブクマ・評価いただけると大変嬉しいです。よろしくお願いします。

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