第12話
既に10万字弱で書き上がっているので、ちょこちょこ直したりエピソードで足す部分があったら直しながらアップしていくつもりです。
全5章の予定ですが、年内に3章まで上げたいなあと思っていま……した。2章と3章の間に断章があった……自分で忘れてました。
その後は直し部分がたくさんあるのでちょっとペースダウンします。
「なんで、僕にその話を?」
どこか紗代に似た健一郎の色の薄い目に射貫かれて、陽樹は急に喉の渇きを覚えた。息が苦しくなって思わず首を押さえていると、彼の目が和らいで視線の圧力が消えた。
「君が、紗代にとっての特別だと思ったからだよ」
「僕が彼女にとって特別だと?」
「ああ、そうだとも。陽樹が来て、明らかに紗代は変わった。誰かと食卓を囲んで、楽しそうにしている。そんな紗代を見られる日がまた来るなんて俺は思ってなかった。紗代が待っていた誰かっていうのは、陽樹のことなんじゃないかと俺は思う。
俺も紗代も永井も、陽樹の料理を食べて懐かしいと思った。まあ、永井は君の知己だそうだから当然だろうな。俺と永井は泣くほどのことはなかったのに、紗代が泣いたっていうのは、それこそが陽樹が特別だっていう証拠だ」
「……待って。まずその前提の『懐かしいと思った』が、当たり前みたいに共通になってるのが僕にはよくわからない」
「それじゃあ俺から聞くが、君は紗代に妙な懐かしさを感じたことはないかね?」
「それは」
健一郎の問いかけは、陽樹が「ある」と答えるのをわかっていて尋ねたようなものだった。心中を見透かされた居心地の悪さにむずむずと落ち着かない気分になる。
「もしかすると、前世なんてものがあったりしたら、君たちはごく近しい関係だったじゃないかと思う。――おっと、その顔は疑ってるな? まあ、仕方ない。本気で信じるには信憑性がなさ過ぎると自分でも思うからね。ところが、健さんは貴種本来の能力が薄い代わりに、妙な物がいろいろ視えることがあるんだなあ。
だから、俺にはわかるよ。君と紗代の間には、きっとなにかしら特別な糸が繋がってるのさ。わけもわからず、涙を流すくらいのな」
「確かに、初めて会ったときから彼女のことを昔から知ってる気がしたけども。でも、僕は――」
「と、まあ、ここまで言っておいてなんだが、気にしないことだな!」
急に声の調子をがらりと変え、健一郎は陽樹の背を叩いた。あまりの切り替わりの速さについて行けず、陽樹は目を白黒とさせる。
「え?」
「気にするな、あるかどうかわからない昔のことなんか。香川陽樹というひとりの人間が紗代をどう思うのか、どう付き合っていきたいのか、それだけ大事にすればいいさ。いいかい? 前世がどうだとかがもし本当のことだとしても、それは俺たちには確認しようがない。君が紗代のことをそれで気になったとしても、それはただのきっかけだ。現在の香川陽樹は、昔の想いに取り憑かれて動くような根無し草か?」
健一郎の言葉は陽樹を力づけた。確かに、きっかけはどうであれ、陽樹の行動を決められるのは陽樹自身なのだ。
「――いや、そうじゃない。僕は僕だよ。ありがとう、健さん。僕は自分自身の意思で動く」
目に力を取り戻して落ち着いた声で話す陽樹に、健一郎は淀んだ空気を吹き飛ばす風のような笑顔で応える。その深い表情は、彼が生きてきた年月の長さを底に秘めているようだった。
「うん、いい顔だな。爽やかダンディで鳴らした健さん二代目を襲名させたいくらいだ。地に足の付いた男の顔っていうのは格好いいもんだねえ。――それはそれとして、紗代のことをよろしく頼む。俺にとっては娘みたいなものだからさ」
「紗代に少しでも幸せになってもらいたいっていう僕の気持ちは本物だよ。安心して」
「そうか」
陽樹の言葉に健一郎は晴れ晴れとした様子で頷くと、車のキーを振り回しながら歩き出した。
「次に来るときには、特上の肉を山ほど持ってくるからな。バーベキューをしよう」
「そうだね。楽しみにしてるよ」
「またな」
「また」
陽樹に背を向けたままでひらひらと手を振って去って行く健一郎に向かって、陽樹も手を振り、短い言葉だけを交わして別れた。
彼は約束を違えるような人物ではないと、遠くないうちにまた約束通りに再会できるのだと、陽樹は信じることができたのだ。
なろう初投稿作品です。ガンガン更新しますので、気になったらブクマ・評価いただけると大変嬉しいです。よろしくお願いします。




