第7話
既に10万字弱で書き上がっているので、ちょこちょこ直したりエピソードで足す部分があったら直しながらアップしていくつもりです。
全5章の予定ですが、年内に3章まで上げたいなあと思っています。その後は直し部分がたくさんあるのでちょっとペースダウンします。
彼女の声は落ち着いていたが、その中には悲しげな響きが滲んでいた。紗代は自分の目尻に置かれた陽樹の指を手で包み込み、一度目を閉じた。今はもう彼女の思い出の中にしかいない人を想っているのだろう。
「陽樹の手は温かいね。人の手が温かいことも、私はいつの間にか忘れてた。
ここに来る前は、お父さんがいてお母さんがいて、怒ったり笑ったりしながら毎日過ごしてた。子供の私から見ても、周りの人と比べてふたりとも綺麗だった。でも、何が特別って事もなくて、普通の人だったと思う。
お婆ちゃんが作ってくれたいなり寿司を持って皆で花見をしたり、雪が降ったらかまくらを作ったり、夏にはよく川へ遊びに行ったりした。パンツまで脱いで裸で泳いでたんだよ? 今から考えたら信じられないよね」
「君のお婆さん、って?」
紗代の祖父母もまた純粋な貴種だし、貴種は紗代の両親以外はここで暮らしていたはずだ。紗代が生まれた頃には既に亡くなっていた人もいたが、外の世界で彼女の両親と一緒に祖母がいたはずはなかった。
「私が小学校へ入学する前に、初めてランドセルを見せたら凄く喜んでたんだ。でも、あの人は本当は私の祖母じゃなかったんだよね……どうして両親と一緒にいて、家族のようにしていたかはわからない。私が事故に遭う少し前に死んでしまったから。
でも、両親と祖母と私は、仲が良くて幸せな家族だったと思う。――ちょっと、陽樹が泣かないでよ」
紗代の声に不機嫌さが滲む。自分が哀れまれたと思ったのかもしれない。陽樹は頭を振って、涙を流しながら紗代に向かって微笑みかけた。
「……よかった」
「よかった?」
「君が、幸せな記憶を持っていて良かった。奪われてきただけじゃなくて、人なら当たり前に受け取っていいはずの幸せを知っていて良かった。
僕は君にとってはただの他人で、貴種ですらないけども。それでも、君に幸せでいて欲しいって思ってる。だから、ここでいろいろなことをして一緒に笑おう?」
陽樹を目の中に映しながら、紗代の目にも涙が滲んだ。慌ててそれを指で拭って、彼女はそっぽを向いてみせる。
「陽樹は、他の人間と違うね。やっぱり変」
「そうかな。君から見て特別だって意味なら嬉しいよ。――ごめん、もうすぐ回収が来るから準備しないと。
今日のカレー、本当に頑張って作るからね」
「うん。凄く楽しみ」
ぎこちないながらも紗代が笑いかけてきた。それに笑い返して、陽樹は手の甲で涙を拭う。
紗代には幸せでいて欲しいのだ。心の底からそう思う。彼女が笑うところを、陽樹は側で見ていたかった。
なろう初投稿作品です。ガンガン更新しますので、気になったらブクマ・評価いただけると大変嬉しいです。よろしくお願いします。




