第4話
既に10万字弱で書き上がっているので、ちょこちょこ直したりエピソードで足す部分があったら直しながらアップしていくつもりです。
最初の内は頻度たくさん(年末年始ですしね)、あとは1日2回とか1日1回などで更新するつもりです。
ここではついぞ聞いたことがなかった賑やかな声とその声の元の光景に、永井は驚いて立ち止まった。
バタバタとせわしない音を立ててテーブルを行き交うふたりの手。紗代の手元に置かれたトランプの最後の一枚が山に重なると、陽樹がオーバーリアクションでテーブルに伏して声を上げた。
「ああーっ! 惜しいところまで行ったのに! 今回こそ勝てると思ったのに!」
「また私の勝ち!」
「紗代ずるいよ、手の速さが僕と違う! スピードで勝てるわけない!」
「手加減しなくていいと言ったのは陽樹でしょ。私は別にトランプやるなら神経衰弱でもポーカーでも構わないけど?」
楽しげにしている紗代を永井は初めて見た。もちろんそれにも驚いたが、朝食から昼までの僅かな時間でふたりがお互いを呼び捨てにしていることには目を限界まで見開くほど驚いていた。
「おまえたち、随分と仲良くなったな」
声を掛けてやっと陽樹が永井に気づいて振り向く。手元で音を立ててトランプをシャッフルしながら陽樹は永井を呼び寄せた。
「永井くん、いいところに来た! ババ抜きしよう!」
「ババ抜き? 俺は昼食を食べに来たんだが」
「あれ、もうそんな時間か。昼ご飯の後に永井くんも付き合ってよ。1対1のゲームじゃ紗代に太刀打ちできないんだ。もうちょっと運の要素のあるゲームをしたいけど、僕の知ってるのではふたりだとできないのばかりで」
「ここでずっとトランプをしてたのか?」
「今お昼だよね。2時間ちょっとかな。大人になってからやると熱いものだね。すっかりヒートアップしちゃったよ」
「その間に呼び捨てになったのか」
陽樹と紗代はふたり揃って、なにが? という視線を永井に向けた。気づいていないのか、と永井は口を開けて呆れる。改めてふたりがお互いに名前を呼び捨てにしあっていることを永井が指摘すると、陽樹と紗代はようやくそれに気づいたのか、首をひねって悩み始めた。
「違和感がなかった……いつからだろ」
「僕も全然記憶がないな。途中から結構興奮してたからその辺りかな? 僕は陽樹で構わないよ。むしろ先生って言われる方が少しむずむずしてたから」
「私も別に構わない。永井さんにも呼び捨てにされてるし。こんなゲームをしたのは久し振りだなあ。なんだか凄く懐かしかった」
紗代が表情を和ませていて、陽樹が笑ってそれを見ている。まるで長い間そうしてきたかのように向かい合っているふたりを見ていると、永井にもそれは懐かしい光景のような気がした。
「いいんじゃないか。確かに俺も紗代の事は初対面から呼び捨てだ」
「なんだろう、そっちも違和感ないね。それじゃあ、永井くんもやろうよ、大富豪」
「俺は誰かと違って勤務中だ」
「僕だってここでは24時間365日勤務中だと思ってるよ」
「いいことを言った感じだが、ドヤ顔なのが腹が立つな。1ゲームだけだぞ」
「革命あり8流しありで。永井くんが大貧民になってるうちは抜けさせないからね。よーし、勝つぞー」
プラスチックのトランプが卓上を滑ってくる。紗代どころか、陽樹がこんなに屈託のない表情を見せているのも学生時代以来だと気づいて、永井はトランプを受け取りながら自らも口元を綻ばせた。
なろう初投稿作品です。ガンガン更新しますので、気になったらブクマ・評価いただけると大変嬉しいです。よろしくお願いします。