第1話
既に10万字弱で書き上がっているので、ちょこちょこ直したりエピソードで足す部分があったら直しながらアップしていくつもりです。
最初の内は頻度たくさん(年末年始ですしね)、あとは1日2回とか1日1回などで更新するつもりです。
紗代の部屋から追い払う口実だったにしろ、永井に粥を作らせたことを後から陽樹は不安になっていた。料理スキルがあまりに低いと、白粥すら作れないと聞いたことがあるのだ。何をどうすると粥にならないという事態が発生するのか陽樹には理解不能だが、失敗料理の多くはできる人間にとっては理解不能な状況で起きるものだ。それに、永井が普段料理などしないことを陽樹は知っていた。
しかし、意外にも永井が作った粥は見るからに美味しそうな卵粥で、塩味も程良く、試食した陽樹はこくこくと頷きながら指でOKサインを出してしまった。一口食べたら自分が空腹であることを思い出したので、自制が働かなかったらそのまま全部食べてしまったかもしれない。
「永井くんが料理できるなんて知らなかったよ。実は焦げたお粥とか出てくるんじゃないかと思って、密かに心配してた」
半分冗談のつもりで陽樹が言った言葉に、永井がなんともいえない表情を返してくる。想定外にうまくできてしまって困惑しているのは、陽樹よりもむしろ本人らしかった。
「確かにおまえが知ってる通り、俺は料理を普段は作らない。これは、なんだ、ビギナーズラックというやつだな」
「へえー。それは本物のラッキーだね。永井くんと言えば端の焦げた完熟目玉焼きってイメージが有ったけど。あれかな、永井くんって前世でお粥をたくさん作ったんじゃないの?」
「どんな前世だ。それに、熱があるときに食べやすくて栄養をとれるものといったら、俺ならまず煮込んだうどんだな。材料がないから卵粥にしたが」
「なるほど、うどんか。確かに消化も良いし、病院でも割と出るね」
「こんなことを想定していなかったから、米はともかく、牛乳と卵とジュースくらいしか冷蔵庫になくてな。卵もたまたま最近買ったから入ってたが、一ヶ月くらいないときもある」
永井の告白に陽樹は目を剥いた。食に無頓着だとは思っていたが、ここまで酷いとは思わなかった。陽樹が引いているのを察したのか、永井はばつが悪そうに目を逸らす。
「……もう少し、備蓄食品のことを考え直すことにする」
「そうしよう! 僕は喉が痛いときに『スケジュール通りにトースト』とか嫌だから!」
せっかくの粥が冷めないうちにと紗代のところへ運ぶと、彼女は陽樹に言われた通りにおとなしく横になっていた。粥の匂いに気づいたのか、ひくりと鼻を動かして体を起こす。
「お腹空いただろう? 永井くんがお粥を作ってくれたから、食べられるだけ食べて」
小さな土鍋の蓋を開けると湯気とともに香りが広がって、紗代が土鍋を覗き込んできた。しかし、永井が作ったと聞いてしきりに瞬きをしながら陽樹に尋ねてくる。
「永井さんがこれを? あの人、料理できたの?」
「全く同じ感想を僕も持ったんだけどね。さっき味見させてもらったけど、安心していいから。はい、どうぞ」
茶碗に少し取り分けて冷ましたものを、れんげで紗代の口元に差し出す。紗代は成り行きのままにぱくりと食いついた次の瞬間に、あからさまに「しまった」という顔をした。
「……笑わないでよ」
鳥の雛のように口を開けた紗代を見て、陽樹は満面の笑顔を浮かべてしまう。からかっているわけではなく、悪戯をしたつもりもない。自分の差し出したれんげを紗代が口に入れてくれたことが嬉しかった。
「ごめん、凄く嬉しくて」
もう一口分の粥を差し出すと、紗代は一瞬ためらった後に、渋々口を開けた。
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