第13話
既に10万字弱で書き上がっているので、ちょこちょこ直したりエピソードで足す部分があったら直しながらアップしていくつもりです。
最初の内は頻度たくさん(年末年始ですしね)、あとは1日2回とか1日1回などで更新するつもりです。
熱い湯を洗面器に入れ、タオルを持って陽樹が戻ると、紗代はベッドで上半身を起こしていた。顔色は戻っているが、まだ油断は出来ない。
「洗面器とタオルはこのワゴンの上に置いておくから。お湯やタオルが足りなかったら声を掛けてくれれば用意するから、無理にシャワーを浴びようとしちゃ駄目だよ。身体を拭いたらちゃんとここに出してある乾いた服に着替えて、冷えないようにおとなしく寝ていること。それと――」
「お母さんみたい……」
いかにも辟易しましたという声が陽樹の言葉を遮り、彼女の整った顔の中で眉が下がった。その反応は決していいものではなかったけども、陽樹を安心させた。
少なくとも彼女は、外見で陽樹を評価していない。世話焼きが祟って友人たちに「おかん」呼ばわりされたことは一度や二度ではないし、陽樹にとっては不本意ながらも馴染んだ言われようだったからだ。
「ははは」
お母さんみたいと言われて喜ぶ自分は奇妙だろうと思いながらも、思わず笑いがこぼれてしまう。案の定、気の抜けた顔で笑う陽樹を紗代は不思議そうに見遣っていた。
「よく言われるんだ、それ。僕も言い方が悪かったよ。もっと医者っぽく言った方がいい?」
「……皮肉が通じないとか」
「皮肉と言うより本心っぽく聞こえたからね。これでも皮肉も嫌味も言われ慣れてるから、悪意があるかどうかはわかるつもりだよ。
昨日も言ったけど、僕は君と仲良くしたい。多分、僕たちの付き合いは長くなると思うから。お互いに遠慮しないで、何か困ったことがあったらすぐに頼って欲しいんだ。そのために僕はここにいるんだし、一緒に生活していく中で僕も君に助けてもらうことがあるかもしれないからね」
「先生、面の皮が厚いって言われることは?」
「うん、今のは皮肉だね。それも割と言われ慣れてる。そうだなあ、君に貴種と間違えられるほど顔がいいせいで、面倒の多い人生を送ってきたよ。おかげで、面の皮も鍛えられた」
微笑む陽樹の顔を紗代はじっと見上げている。光の加減で今は茶色に見える目は、陽樹の本心を探ろうとしているようだった。
「僕は別に自分を取り繕うつもりも、君を騙すつもりもないよ。ここに勤務する人間がどういう扱いでやってきたか、気づいてないわけじゃないだろう? 紗代さんには悪いけど、ここは『流刑地』であり、『シェルター』だ。そんなところで、素を出さないで肩が凝るような日常は送りたくないからね」
「変な人」
長い睫毛を伏せて紗代がぽつりと呟く。もう皮肉を言うつもりもないのか、それもまた彼女の素に見えた。
「出会ってから日が浅いのに僕のことを外見で判断しない紗代さんも、僕が今まで出会ってきた中では変わった人ランキングの上位に入るよ」
「外見? ああ、だって、外見がいいのは見慣れてるもの。少ない職員以外はここは貴種ばかりだったから」
「なるほど、凄く納得した。君にとっては僕は『普通』なんだね」
「普通じゃない。先生は変な人」
「はいはい、変な人でいいよ。さて、あんまり喋りすぎて疲れても困るね。顔色は大分よくなったけど、熱がぶり返しても困る。いいかい、身体を拭き終わって着替えたら、ちゃんと布団に入ってコールボタンで僕を呼ぶこと。約束」
いい加減に陽樹の性分がわかってきて諦めが出たのか、紗代はおとなしくこくりと頷いた。そして、自分に掛けられている布団に触れて手を止め、もう一度陽樹を見上げる。
「あれ、布団……どうして2枚?」
「僕がここに来たときに、紗代さんは発熱してうなされながら酷く寒がっていたんだよ。だけど他に掛ける物が見当たらなかったから、僕の部屋から持ってきた。――あ、ごめん。二日使ったけど急いでたからカバーとかそのままなんだ。三十男の布団とか気になるよね? 寒くないようならもう片付けるよ」
慌てて上側の布団に手を掛けると、紗代が小さく首を振った。
「別に、嫌だとかじゃない。今ちょうど温かいから、夜までこのまま貸して」
「わかったよ。それじゃあ、僕は外に出ているから」
紗代の傍らから立ち上がり寝室を出ようとしたとき、背後から小さな声で紗代が陽樹に向かって声を掛けた。
「……ありがと」
なろう初投稿作品です。ガンガン更新しますので、気になったらブクマ・評価いただけると大変嬉しいです。よろしくお願いします。