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楽園は遙か遠く  作者: 加藤伊織
白いホスピス
12/59

第11話

既に10万字弱で書き上がっているので、ちょこちょこ直したりエピソードで足す部分があったら直しながらアップしていくつもりです。


最初の内は頻度たくさん(年末年始ですしね)、あとは1日2回とか1日1回などで更新するつもりです。

 点滴の用意を手早く進める陽樹の横で、永井が蒼白になってそれを見守っている。


「永井くん、一応聞いておくけどこんなことは初めて……だよね。その様子からすると」


「初めてだ。本当に軽い風邪ひとつひいたことがなかった。おまえ、外から変なウイルスを持ち込んだんじゃないだろうな!?」


 紗代とは敢えて距離をとっているはずの永井が、心配を露わにして落ち着かない様子でいた。永井は決して紗代に対して無関心だったのではないのだと、陽樹はそれではっきりとわかった。


「僕は防疫は気をつけてるよ。特に、君たちインフルエンザの予防接種もしなかったって聞いてたからね。ていうか、僕を疑ってるけど、運送会社の人とかも普通に来てるよね? 管理ガバガバのくせに僕のせいにしないで欲しいな。


 急激な高熱は今の時期はインフルエンザが一番怪しいけど簡易検査は一応陰性だったし……まだ検査で出るほどウイルスが多くないってこともあるから、念のため永井くんは離れてて」


「だが……」


「君が紗代さんを心配してるのはわかってる。でもインフルエンザの可能性も捨てきれない以上、患者は増やしたくないんだ。四十度超してるから点滴に解熱剤入れるけど、もしかしたら熱が下がって目が覚めたときにお腹空かせてるかもしれないから、永井くんはお粥作っておいてよ」


「わかった」


 陽樹に言い含められ、本当に渋々と永井は部屋から出て行った。点滴の準備を終えて、陽樹は布団の中にあった紗代の腕をそっと外に出す。袖を捲ると籠もったような肌の熱さに比べて、手のひらが冷たい。


 昨日の採血とは違う場所に針を入れて固定すると、紗代が血の気のひいた唇を微かに開いた。


 口を開きはしたが、声は出ていない。今まで閉じられていた目が薄く開いて、熱で潤んだ金色の目がぼんやりと陽樹を捉えた。


「なんだい? もう一回言ってくれる?」


 紗代の口元に耳を寄せると、か細い声で紗代が寒いと囁いた。


 暖房も入っているし、部屋を見回しても今使っている以外の掛布団は見つからない。少し待っててと言い置いて、陽樹は自室から布団を持ってきて紗代に掛けた。


 点滴の管が絡まらないように気をつけて紗代の腕を布団の中へ戻し、肩までしっかりと布団を引き上げてやる。すると、すぐ側にあった紗代の右手が陽樹の手を力なく握った。


 やはり手が冷たい。その手を包み込んで温めていると、紗代が少しほっとしたように息をついた。心細いのか昨日のような険はなく、初めて会ったときのようなすがる表情で陽樹を見ている。


「こうしてると安心する? 大丈夫、君が落ち着くまでここにいるから」


 できるだけ優しい声で、手を握りしめながら幼い子供にするように頭を撫でてやる。紗代は目を閉じて陽樹の手に熱い頬を当てた。


「……さん……もう、どこにも行かないで……」


 掠れた声が紡いだ言葉に陽樹はどきりとした。昨日、陽樹と会話をすることすら拒んだ彼女らしくない。熱で気が弱っているせいなのだろうか。


「えっ? ――ああ、うん。ここにいる。大丈夫だよ」


「ほんとうに?」


「ひとりにしたりしないよ。約束するから」


「ひとりで……ずっとさびしかった……」


「そうだね、やっぱり寂しかったよね。――ごめんね、紗代」


 紗代を安心させようとすることに気をとられて、自分の口からするりと出た言葉に陽樹は意識が向かなかった。


 疲れたのだろうか、陽樹の手を握りしめたままで紗代が目を閉じる。



 紗代が眠りに就いても、陽樹は何故かその手を離す気になれなかった。


なろう初投稿作品です。ガンガン更新しますので、気になったらブクマ・評価いただけると大変嬉しいです。よろしくお願いします。

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