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楽園は遙か遠く  作者: 加藤伊織
白いホスピス

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第10話

既に10万字弱で書き上がっているので、ちょこちょこ直したりエピソードで足す部分があったら直しながらアップしていくつもりです。


最初の内は頻度たくさん(年末年始ですしね)、あとは1日2回とか1日1回などで更新するつもりです。

「永井くぅ~ん」


 ダイニングキッチンに入った途端、へにゃへにゃとなっていた陽樹に服の裾を掴まれ、永井は困惑しきった顔で立ち止まった。


「俺はドラえもんじゃない。なんだその呼び方は」


「紗代さんのガードが堅い……僕、思いっきり避けられてる」


 弱気な言葉に肺の底から全ての息を吐き出したような盛大なため息が続いたので、さすがに永井も陽樹を放っておくことができなかったようだ。陽樹が座っている隣の椅子に、苦虫を噛みつぶしたような顔で永井は座った。


「そりゃあ、あんな生い立ちを持ってたらガードが堅くもなるだろう。俺は、敢えてそこを突破しようとは思わなかった」


「でも、僕が信頼を得ることは大事だし、彼女と仲良くしたいんだ」


「応援してるぞ」


「完全に他人事だと思ってるいい笑顔! ちょっとはアドバイスくらいしてくれないのかい!?」


「俺はあいつと親しくない」


「あと、ここの食事は他にやりようがないのかな?」


「いきなり話を変えるな。食事は――昔は調理担当の職員がいた。前の医師がやめて、俺と紗代だけになってからは経費削減でこれになった」


「経費かぁ、重いなあ」


 ここでの食事は一食分ごとにパックされて冷凍されたミールセットだった。レンジで温めるなどのごく簡単な調理だけできちんと栄養管理されたメニューが食べられるというもので、確かにバランスはとれていて便利なのだが、陽樹にはどこか味気なく感じた。長期的にメニューが決まっているので同じ物が続くこともないし、決して味自体は悪いものではない。


 しかし、どうしても陽樹にはこれでは食事がただの生命維持活動にしか思えなくなってしまって、昨日からげんなりとしていたのだ。一品ごとにきちんと皿に盛り付けてみたが、コンビニ弁当を皿に盛ってみましたとでもいうような違和感が拭いきれない。


「俺も紗代も、特にこれに不満はないしな。少なくともあいつから不満を聞いたことはないぞ」


「そりゃあ、永井くんは三食コンビニ弁当どころかカロリーメイトでも気にしない性格だし、紗代さんは不満があってもあの調子じゃ口に出さない気がするよ」


「そうなのかもしれないな。……だが、その気になれば部屋に引きこもりっぱなしになれるが、あいつも食事は毎食きちんと食べてるぞ。明日の朝食からここで待ち伏せしたらどうだ」


「そうか、その手があった」


 今日の夕食もタイミングが合わず、陽樹がダイニングキッチンに来たときには既に一人分の食器が洗ってかごの中に伏せられていた。部屋に突撃しても悪印象が募るばかりなら、偶然を装って一緒に食事を摂った方が良さそうだ。



 しかし、陽樹と永井の思惑は見事に外れた。念のためと思い陽樹は朝5時から待機していたが、10時を過ぎても紗代は現れなかったのだ。


 そんなに自分は避けられているのだろうかと悲しくなりながら陽樹は遅い朝食を食べ、紗代の分を盆に乗せて彼女の部屋へと運んだ。


「おはよう、紗代さん。なかなか来ないから朝ご飯を持ってきたよ」


 ノックしたが中から声は返ってこない。もう一度強めにノックをしても反応はなく、陽樹は女性の部屋に勝手に入ることに罪悪感を感じながらもドアノブに手を掛けた。


 昨日と同じく、やはり施錠はされていなかった。リビングのテーブルの上に盆を置き、今度は寝室のドアを叩く。耳を澄ましていると中から小さな呻きが聞こえて、陽樹は思わず部屋の中に飛び込んでいた。


 常夜灯だけのか細い明かりの中で見えたのは、まだベッドの中にいる紗代だ。近くに寄るまでもなく彼女の息遣いが荒いことがわかって、陽樹は紗代の傍らに駆け寄った。


「紗代さん、どうしたの!?」


 いきなり明るくしては刺激があるかもしれないので、紗代の枕元にあったリモコンを操作して弱い明かりを点ける。陽樹が手を伸ばしても紗代は逃げようともせず、苦しげに目を閉じたままで荒い呼吸を繰り返していた。


 見るからに頬が赤く、発熱しているようだった。額に手を当ててみると、驚くほど熱い。


 次の瞬間には陽樹は身を翻して、紗代の部屋から駆け出していた。

なろう初投稿作品です。ガンガン更新しますので、気になったらブクマ・評価いただけると大変嬉しいです。よろしくお願いします。

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