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追放してやる。この世からな。

最近なろうで追放ものが流行っていると聞いたので書いてみました。

「勇者アルデバラン、アルデバランは居るか!! 貴様を追放することが決まった。さっさと荷物を置いて出ていけ!」

「へ?」


 喧騒に包まれる酒場に怒声が響いたのは、俺が酒場で一番高いヘビの串焼きを食べていた時である。酒をあおるゴロツキどもは一様に押し黙り、こちらに視線をよこした。

 俺は蛇料理を食べる手を止め、声の主に体を向ける。

 プレートアーマーに全身を包んだ騎士が、腕組みをして堂々と立っていた。


 彼女の名は女騎士メイア。俺のパーティーメンバーである。


 彼女は呆けたままの俺の手から蛇料理を取り上げた。


「聞こえていたのか? 出ていけ」

「えええっ!? なに急に! 俺なんか悪いことした?」

「しただろうがっ! 忘れたとは言わせんぞ!!」


 基本的に温厚な彼女だが、今日ばかりは本気で怒っているのだと感じた。普段は冷静沈着、清廉潔白な乙女メイア。そんな彼女を激怒させるような出来事など、俺の記憶には全く覚えがない。


「ごめん、覚えてないわ」

「貴様ッ! …………ほほう、あくまでしらを切るか。ならばこの料理は没収だ。目の前で私が食べてしまおう」


 兜の装着部分が解かれ露になったのは、絹のように滑らかな金の髪と凛々しく整った顔。

 今は悪戯っ子のように頬を歪ませている。そんな彼女が手に持った蛇の串刺しを口に運ぼうとしたところで、ようやくそこに彼女の容赦がないことを感じ取った俺は、慌てて天才的とまで称された頭脳を回転させる。


 クソ、どうすればいいんだ。このままでは俺の可愛い蛇料理ちゃんが奴の口の中で無惨に噛み砕かれてしまう!


 しょうがない。記憶にはないと言ったが、些細な事であれば心当たりくらいはある。彼女を怒らせた原因がなにかは分からないが、とにかく数打ちゃ当たる戦法のあとに土下座をすれば、甘いメイアなら許してくれるはず。


「待ーーーった、いま思い出した。思い出したから、うん」

「ならば言ってみろ。自分の口でな」

「あれだろ? あーーーー、あれだ、貯金してた十万シルバ、ギャンブルで全部使ったこ」

「貴様ァァァァァァァ!!!」

「ぐげぇっ!!!」


 鉄の拳で思いきり殴られた!

 パーティーメンバーだってのに一瞬殺意があったぞ!!


 頬をさすりながら彼女に向き直ると、ただでさえ真っ赤な顔がさらに赤くなっていた。

 そして俺の告白を聞いた彼女の次の行動はというと、殴るだけでは飽きたらず俺の襟首を掴んで首を絞めてくる始末。

 痛い痛い、ギブギブ。


「以前無くなった十万シルバ、貴様のせいだったのか! あれは私が必死に貯めた秘蔵のお金だったんだぞ!? やっぱりお前は追放だ追放。勇者の称号も私に渡せ!」

「いやでもお前めっちゃ弱いじゃん。スライムとかゴブリン倒せない女騎士ってどうよ」

「う、ううううるさい! 貴様の力を借りずともなんとか出来る!」


 勇者の称号とスキルくらいなら譲渡しても良いけど、それだとメイアが心配である。

 魔法は使えないわ、身体能力は一般人より低いわ、何故騎士をやっているのか分からない。


 だが、それよりも。


「でも金銭の話なら、もっと酷いのでこんなのがある」

「まだ酷いのがあるのか!? ならばいっそ全部白状しろ! それまで私は許さんからな!」

「ああ、一ヶ月前の話だ」


 俺が必死こいて倒した『ドレッドヘアードラゴン』の討伐報酬二千万シルバ。

 それを『撫でれば傷が塞がるかもしれない気分屋のツボ』という、どう見ても詐欺の臭いがプンプンする商品に全額使った少女がいるらしい。

 すごく嬉しそうな表情でツボを買ってきた光景は、今でも鮮明に覚えている。


「ハッハッハ、なんだそれは。その少女は阿呆だな。さぞ頭がお花畑なのだろうよ」

「ああそうだな」

「…………」

「…………」

「…………ってそれ私の話じゃないか!!!!」

「めちゃくちゃ自分罵倒したなお前」


 しかもツボが撫でても傷が塞がらないと判明してからは、お前の実家の漬け物入れになってるしな。

 俺に何一つ還元されなかったから。


「くぅぅぅ…………ッ!」


 顔を怒りから羞恥の赤に変えてプルプルと震えるメイア。感情の抑制が効かなかったのか、両腕を近くのテーブルに思いきり振り下ろした。


「私の! 話が! 聞きたいわけじゃない! ……いっつぅ……」


 鈍い音と共に、テーブルの表面に小さな傷が付いた。

 メイアは真顔で手をさすっている。


「……後で弁償しとけよ」

「本題に戻ろう」

 

 俺の訴えはちゃっかり無視された。


「他の話か、そうだなぁ……」


 彼女の反応を見るに、金銭関係の問題ではないように思える。では女性関係だろうか。


 最近俺の活躍が国中に衆知されるようになったおかげで、色んな女性が俺に求婚を迫ってくるようになり、それに嫉妬したメイアが─────という可能性も。


「女性関係じゃないぞ」

「あっ、そう……」


 俺の妄想話はばっさりと斬られてしまった。

 しかし金銭と女性関係以外で思いつく問題ごとはない。俺は勇者として、そして国を背負う騎士として自分を律して生きてきたはずだ。


「じゃあなんだよ。金銭でもない、女性関係でもない。それ以外じゃもう思いつかないぜ? 俺、品行方正だし」

「どの口が言うんだどの口がッッ!! ……分かった、ならば教えてやろう。お前が盗んだもの、それは─────プ、リ、ンッ! 貴様、拠点で冷やしておいた私のプリン食っただろ!」

「ああ、あれね。美味しかったぜ、ありがとな!」

「私のだぁぁぁぁぁ! 私が朝五時から並んで買ったプリンだそれはぁぁぁぁぁ! 今日の今日こそ許さんぞアルデバラン、貴様を追放してやる。この世からな!!!」


 とうとうメイアが、激昂のあまり腰の剣を抜き放った。酒場全体に動揺が走る。俺も彼女を刺激しないようゆっくりと立ち上がった。

 こうなったら高級ヘビ料理なんてどうでもいい。何とかしてメイアを止めなくては。


 俺はメイアに対抗して腰に佩刀した剣を引き抜こうと力を入れるが、何故か引き抜けない。

 理由は明白だった。剣の柄と鞘のあいだに強力な接着剤が塗られていたのだ。


「かかったなアルデバラン!」

「策士ッ! メイアめっちゃ策士ッ! てめえ俺が寝てる間にやりやがったな!?」

「問答無用、うりゃああああ」

「ぐげぁぁぁぁ!」


 そして俺はメイアにばっさりと斬り捨てられ、酒場に倒れ伏した。まさか魔王を倒す前に仲間の叛逆によって死んでしまうとは。おお、勇者よなんと情けないことか。


 ただし勇者は神の加護によって不死身の肉体を与えられているため、こうして死体になっても意識はあるし、一時間後くらいに近場の町で生き返る仕様だ。


「なあ、あんたら」


 肩で息をする女騎士メイアと死体となった俺の間に割り込む酒場のマスター。彼は静かに告げた。


「ここ最初の町なんだけど……早く魔王討伐に行ったらどうだ? 君ら魔王を討伐するまでの期間決められてるんだろ?」


 マスターの正論に俺とメイアは押し黙る。

 魔王討伐のための猶予は一年。俺が勇者認定されてから既に八ヶ月の月日がたっていた。

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