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悪役ですが世界平和を目指してみます  作者: 夜明 月子
一章
2/7

1、過ち

機構魔法大国、オリヴィア。

神に祝福された力とされる魔法、人類が自ら生み出した機械。相反する二つの叡智が集結する大国として栄えるこの国は、錬金術師と魔導師が多く集まる国でもある。


その中央都市となるローナ市。その一角で慎ましやかに葬儀が行われていた。

集まっている多くは錬金術師の礼服、その中にちらほらと魔導師のローブを着ている人もいた。


私の父、オズワルドの葬儀だ。


過去に戻ったあの日から3年は経っているだろうか。

背も伸びて、少女らしくなった私は、慣れない喪服を身につけて、父が入った棺桶の側に立ち尽くした。


「……。」


1度目の人生でも、父は同じ頃に亡くなった。

死因は、…自殺だったと思う。


と言っても、それは見せかけのものだったのだが。


父は優秀な錬金術師でもあり、また魔導師でもあった。

しかし、彼は妻の死を境に狂ってしまった。


オズワルドが開発したのは魂を記録する装置。

魔力を永遠に生み出す賢者の石を動力とし、人間の魂と呼ばれる情報を記録する。

そしてホムンクルスが自我を持つ前に、器に魂を移し替えることで永遠の命を得る。


おぞましい発明を、彼は自らの命に使ったのだった。


もっとも、使えるホムンクルスの器は存在しなかった。

ただただ、魂を記録する装置の中で生き続ける父。

温度のない指示に従うごとに、自らが狂っていったのをよく覚えている。



「…フィニアス、大丈夫か。」

「えぇ。だって、実感が、湧かないの。」

「…こんな急にな…事故だったんだろう?」

「…えぇ。」


そう、事故、だったのだ。

自殺、ではなく。

出先の、移動中に、事故で。


「…どうして。」


あの日から、私は一度も父に対する行動を、間違っていなかったと思う。


父は私に、愛する人、彼の妻の代わりを求めていた。

妻の遺伝子から生み出したホムンクルス。年齢は違えど、姿形は瓜二つ。その代わりを命じられるのは自然なことだ。

だから、求められるままを、差し出していたはずだ。

1度目は上手く応えられずに、父を余計に狂わせた。だから今回は完璧に応えた。

間違っていないはず。


けれど、父は死んでしまった。

自殺ではない。魂を記録するあの装置も、出先であれば繋げられないはず。

だから、今度は、本当にただの、事故なのだ。


「…葬儀が終わったら、ゆっくり休め。連盟の方は俺が処理するし、後でちゃんと話は通す。」

「…ありがとう、コナー。」


穏やかに優しく、立ち尽くす私を支えてくれるのは父の同僚であるコナーだ。

彼は父が設立した魔導師と錬金術師で構成された連盟研究団「イデア」の魔導師。

中々の手腕であり、父の右腕だった人物だ。狂っていく父を一番心配していた人物でもある。


「まだ13そこらの娘に、全部背負わせるなんて酷な事、出来る奴はいねぇよ。…いくらフィオナの記憶があるっていってもな。」

「……。」


フィオナ、というのは、オズワルドの妻の名前。つまり、私のオリジナルとなる人物の名だ。

私は、彼女の記憶があるふりをして生きてきた。

実際は記憶など何もなく、1度目の人生の記憶を頼りに、オズワルドの要求に応えていただけなのだが。


「……なぁ、落ち着いたらゆっくり話をしないか?ここからは、俺の個人的な話で、その、あんまり人に聞かれたくないんだが…。」

「…研究団の方の話がまとまったら、屋敷にいらして。その時にゆっくり話しましょう。」

「あぁ、助かるよ。

「全て任せてしまってごめんなさい。私何もできてないわ。」

「気にするな。」


ただただ求められるままを応える人形だった私は、連盟研究団の方の仕事は何もしていない。

させて貰えなかった。


前の人生では、様々な研究をし、なんとか父に貢献しようと必死だった。

それが、楽しくもあった。だからこそ今の状態は少し物足りないのだ。


でもきっと、正しい運命の中で私の意志は要らないのだろう。

どう望んでも、父は死んでしまう運命だった。

その事実が、心にきつく刺さって痛い。


私は、何の為に生まれ変わったのだろう。







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