そんなことって
体勢を何とか整えて、田口君はラッコのいる方向に向かった。
よしこは、とりあえず道の隅の方に後ろ向きで立たせておいた。とても重かったが、ラッコのバケツほどではなかった。
田口君は走り、さっきのベージュの壁の家の近くまでたどり着いた。
しかし、しっかりと目を凝らして見たがやっぱり無い。
ラッコのバケツが無くなっていたのだ!!
「ラッコは!?」
田口君は辺りを見渡してもう一度ラッコを探した。
すると、2m先に何やら人らしき姿を発見した。
……人……??
なのか……?
田口君は自分の目と脳を疑った。
疑ってすぐには近づけずにいた間に、
がしっ!!
よしこに後ろから引っ張られてしまった。
さっき一時停止ボタンを押したばかりなのに…。
「タグチ、あなたノしていることは…ムダなのです。」
「え…?」
さきほどのベージュの壁の家の人と同じ事を言われた。
「…ラッコは…かれハ……、はじめかラ…。」
とだけ言うと、よしこの動きが再び止った。
「えっ!?何だそれ?ラッコが何?よしこ!?
ラッコのこと知ってたのか?!」
何を聞いてもよしこはもう止まってしまって返事がない。
意味深なことだけ言って機能停止するなんて……わざわざ止めに来た意味とは……。
だがしかたがない、だってもう、田口君の目には真実が映っているのだから。
大体2m先くらいにあった人影だ。もう目にはしっかりと映っている。
ただ、それを認めたくないだけなのかもしれない。
田口君はまだそれがなんなのか理解できずにいた。
「よしおくん……」
それは田口君に、そう話しかけた…。