”よしこ”
よほど機嫌が悪かったのか、男は勢いよく扉を閉めた。
(なんなんだ?さっきの捨て台詞は…)
無駄だって何故? ってそんな事を考えている暇はない。それよりもラッコだ。ラッコは段々と様子がおかしくなってきた。さっきまで勢いよく動き回っていたのに何やらグッタリしている。
「大変だ!急いで水を変えてあげないと!」
田口君は仕方ないのでベージュの壁の家を離れ、また別の家を探す事にした。
頼み方が悪かったのだろうかと考えながら、バケツを押し進んだ。
すると、突然後ろから何かに引っ張られたのだ。
「え!?何!?」
田口君は驚いて振り返った。するとそこには…
「…………よしこ…?」
と、人物を認識するや否、田口君の体はふわりと宙に浮き上がり、視界はいつもと角度の違う地面のみになってしまった。
その人物は田口君を片手で軽く担ぎ、すたすたと歩きだした。
「な!!なにするんだ!!降ろしてくれ!!」
田口君の主張も虚しく、担がれたままどんどんと進んでいく。
「いっいいかげんに降ろしてくれ!よしこ!!」
田口君は叫んだ。
…ラッコが入ったバケツはどんどん小さくなって、見えなくなってしまった。
連れて行くなら自分じゃなくてラッコを水族館につれてってほしい…。田口君は心のそこからそう思った。
「……ワタシは”よしこ”ではありまセん。”よしこ バージョンSP-012”でス」
田口君の叫びから数秒後、よしこ、と呼ばれた田口君を担いでいる人物がそう答えた。
「バージョン…12…??よしこ…もうそんなにバージョンアップされているのか…。
いや!!そうじゃない!!ラッコが!!」
頑張って叫んでいるがよしこは聞いてくれず、ラッコを置いてもくもくと進んでしまう。
田口君は仕方なく、
「すまない。よしこ。」
と言うとまず、手を必死にのばし赤いボタンを押した。
するとよしこは、がくんと動きが止った。
「うわっ!!」
田口君は突然止ったよしこの反動で勢いよく地面に落ちた。