旧友との再会
いちはやく水族館に連れて行った方が良いと思った田口君は、バケツを押し、早速水族館へ向かった。
しかしこれが大変。バケツがめちゃくちゃ重いのだ。これではいつ水族館へたどり着く事やら…。しかし最初から諦めてはいけない……、田口君はゆっくりと歩き始めた。
バケツをゆっくりと引きずり、水があまり動かないように考慮して、道を進んだ。
中にはラッコがいるんだから。
しかし鈴丼村から下町へは、山道を下らなくてはならない…。
田口君は神経をすり減らしながら歩き、ようやく町に入ることができたのだった。
たどり着いた町の名は”ルアーの町”、占いが大流行しているともっぱらの噂だ。なので占いにあまり興味の無い田口君にとっては苦手な町であり、近づきたくない町でもある。
ルアーの町の道はそれほど広いわけではない。
田口君は必死でバケツを押していたが、途中で何かにひっかかって進めなくなってしまった。
先を確かめようとバケツの隅をなんとか通り抜け、ひっかかっているものを確かめた。
…占い師の、紫色の布がかかった机が、…バケツを通り抜けられなくしていたのだった。
「占いの…店…えっと…たけなか…?!」
…覚悟はしていたがまさかこんなに早くみつけてしまうなんて。
田口君は唾を飲み込んだ。実はこのお店は田口君の元大親友がやっている店だったのだ。出来れば避けて通りたかったのに…。
田口君は見つからないようにそっと机を退かしバケツを押し先へ進もうとした。が、
「田口か?」
名前を呼ばれてしまう…。
ここまでの覚悟は、まだしていない!!
「か…勘違いではありませんか…?わたくしは田口ではありません…。」
田口君は裏声を使ってしらを切ろうとしたが、顔はもうばっちり見られている。
「いいや。確実に田口だな。覚えてないかー??俺だよ。マキオだよ!!」
そんなことはわかっている。ルアーの町で占い師をやるといって突然村を出て行った、紅武マキオ(こうむまきお)だ。
田口君はそう思った。
たけなかは、彼の飼い犬の名前…。村を出るときに、店の名前はそうするとだけ言って、マキオは村を去った。
しかし、今なにより大切なのは”ラッコ”だ。
元親友の事なんて…なぜ元になったかということなんて…どうでもいいことだった。
「…先を急ぎますんで。」
田口君は彼の横を通り過ぎようとした。が、
「待てよ田口!なんで逃げるんだよ!まだ俺が村を出て行った日の事怒ってるのか?」
田口君はドキッとした。確かに田口君はあの日の事を気にしていた。気にしてはいた。だが今はそれどころでは無いのだ。
「悪いけど今忙しいんだ。…用が終わったらまた寄るから、今のとこは諦めてくれないか?」
「用ってなんなんだよ?」
「それは…。」
はっきり言って、見れば解るだろう。
田口君はバケツを押していたのだ。
そのバケツの中にはラッコがぷかぷかと緑色の物体を抱えながら浮いているのだ。
「…ラッコを、安全に暮らせるところに返す。…それが、今一番にするべきことなんだ。…だから…だからぶっちゃけお前のことなんてどうでもいいんだよ!!」
田口君はそう叫んで今までに無い力でバケツを持ち上げようとしたが、やっぱり持ち上がらなかったのですごい勢いでバケツを押し進んだ。
「おい田口!!………行きやがった…。
……俺、ちゃんと占い師になったんだぜ?…もう一度来て、占わせろや…。なぁ…よしこ…」